イナイレ長編
□6 これがイナズマ落としだ!上
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「まぁ…壁山の着地には難点有りだけど…高さはもう十分だね」
「ああ!あとはこのまま二人で合わせてみるだけだ!」
体のケアもちゃんとして、練習を頑張っていれば豪炎寺と壁山の脚力はそれなりの物になってきた。
そして今日、とうとうイナズマ落とし実践の日がやってきた。
いったいどんな技なのか、やはり想像と現実は大きく違う物だからあたしはワクワクしている。
「じゃあ、やってみよっか」
「ああ。いくぞ壁山」
「はっ…はいッス」
「そんなびびるなよ壁山」
「うっ、は、はいッス!」
とはいっても…う〜ん、大丈夫かしら?
とりあえず豪炎寺にボールを渡して、あたしたちはコートの外から見学だ。
「行くぞ!」
走り出した二人は、なかなか良いタイミングで飛び上がった。
豪炎寺の方が脚力があるから、壁山の肩を踏み台に出来ればちょうど良いはずなんだけど…
あれ。壁山メッチャビビってる。
あれっ。やばいなあれ。
豪炎寺ちゃんと踏めてないよ…あれ…あれあれー!?
「壁山…お前…」
「どうしたー?途中までうまくいってたのに」
うまく着地できた豪炎寺が、あたしの方に視線を向けた。
もしかしてもしかするかも。
「たたたた、高いところが、だ、ダメなんス…」
「やっぱりぃー!」
もう!なによもう!先に言ってよねもう!
はぁ、まだまだ先が見えてこないなぁ、イナズマ落とし…。
もう一度挑戦してみるけれど、やっぱりうまく行かない。まぁ、そりゃそうだよね。
怖いって言う感情は一番押し込めるのが難しい。
それはあたしが一番よく分かるから、この時あたしは「怖くても気合いだ!」なんて言えなかった。自分が今まで、気合いじゃどうにもならない恐怖の中にいたから…。
「あらあら、こんな調子で次の試合大丈夫かしら?」
そこへ、メンバー外の明るい声が聞こえてあたしは振り向いた。
「夏未!」
「せっかく秘伝書を見つけてあげたのに、この調子では無駄になりそうね」
見つけてあげたって…それ…
「夏未、あれって探してくれてたの?」
「だっ、断じて違います!ただ、私は荷物の整理をしていて…。
と、とにかく!無駄になりそうで残念ね!」
「なにぃ!」
「…俺は、誰がなんと言おうと豪炎寺と壁山が必殺技を完成させるって、信じてる!
そして、絶対試合に勝つ!」
「そう。試合がたのしみね」
ううっ…とりあえずは、高さを克服できるような特訓から、かな。
もしもの時のためにあたしも踏み台になれるような練習はしておこう…
***
「おーうおーう、気合いはいってんねぇ」
「土門君、あんたまたふけってんのね」
「どうせ入部したての俺には出番無いだろうよ」
試合前々日。
日中の練習は暑いけれど、このお気楽男土門君以外は壁山だけに辛い思いはさせられないと団結して、気合いたっぷりだった。
あ、もちろんあたしもね。
恐怖に立ち向かわなくちゃならない壁山に比べたらきっと、こんな根性でなんとかなる訓練、なんて事無いもん。
「まぁ、いいや。土門君ってうらめないんだよなぁ、なんだか」
「だろぉ?そだ!
じゃあ志気が下がらないように練習はするから、次の試合終わったら俺にメシおごってくれよ」
「お?おお、いいけど…どっちみちお礼まだだったしね」
「うーし、じゃあそろそろやるかなぁ〜」
「そうだ!ちょうど良いから練習相手になってよ。あんた足裁きうまそうだし」
「おっけ〜まかせときな」
「おいカヤー!俺と連携の必殺技つくろうぜー!」
「ごめん竜吾ー、あたしこれから土門君とやるから」
「はぁー?ざけんなてめぇー!」
「また今度ね!」
「ッチ。おい風丸、お前相手になれ!」
「あ、そういえばカヤさん!さっき夏未さんがカヤさんにって、ドリンクおいていきましたよ」
「お、本当か春奈!おお!こんなにたくさん!まったく素直じゃないんだからお嬢様は〜」
「カヤさん、人気者ね…」
「ん?なんか言った?アキ」
「ううん。なんでもないよ」
土門君の足裁きはやっぱり細かくてうまかった。
いい練習相手をみつけて良い気分。
もうあさってが試合で、時間がない。
前日に練習やりすぎて疲労は残したくないから、全力でやれるのは今日が最後だ。
でも結局、その日もイナズマ落としは完成しないまま日が落ちていった。
***
「おっちゃん来たよー」
「おう。今日辺り来るんじゃねぇかと思ってたぜ」
「さっすがおっちゃん。あ、いつものね」
部活鞄をどさっと床において、ぐったりすわりこんだ。
イナズマ落としが完成しなかったことはそれなりに残念で、ちょっと気分も落ちてしまったのであたしはとぼとぼと歩いて雷雷軒にやってきていた。
「どうした、あさってが試合なんだろう?やけに元気がねぇじゃねぇか」
「ああ、イナズマ落としがうまくいかなくってさぁ」
「そりゃあそうだ。イナズマイレブンの技をそう簡単にできるとおもわねぇほうがいいぞ」
「わかってんだけどさー、踏み台になるヤツが実は極度の高所恐怖症だったんだよねー。
息は合ってきてるし、オーバーヘッドキックだって機会体操部はいれちゃうくらいなかなか綺麗なのに」
ぶすーっと文句たれたら「そういうときゃあ、気合いと我慢だ」なんて守みたいなことを言われてしまった。
「そうか…あさってだな。フットボールフロンティアは」
「ん?おじさんも興味あるの?」
よく店で顔を合わせる、ひげ面のおじさんがぼそりとつぶやいたので、私は聞き返した。
「ああ。俺は鬼瓦だ」
「鬼瓦さんか。ずごい名前だね。顔にピッタリ」
「なかなかいうじゃないか」
「あ、ごめん気に障った?」
「いや、かまわん。俺は個人的に雷門を応援している。せいぜいがんばってくれよ」
「あ、うん。ありがとう」
うーん、本当にどうなるのかなあさっての試合。
げっそりした顔でラーメンをすすったらおっちゃんにお玉で頭を殴られた。
地味に痛かったけれど、ちゃんとお玉を洗うように言うことだけは忘れなかった。