イナイレ長編

□4 ドラゴンが出た!下
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<いよいよ後半のキックオフです!>


あたしは試合が始まってからもベンチに座り込み、考えていた。

チームのことを思っていたつもりなのに、部員には不満を与えていただけだったのかな?

きれい事いってないで自分でフィールドに立って戦えばよかったのかな?

ねぇ、守。

あたし何が正しいのかよくわかんないよ…


「なんでファイアトルネードをうちに行かないんだよ豪炎寺!」

「ッチ、腰抜けめ!」

「半田先輩!なんでノーマークだったのに豪炎寺さんにパスしなかったんですか!」

「だってあいつにボールまわしたってシュートしないだろう!」


そもそもあたし…偉そうに言っておきながらフィールドでちゃんとした判断できるのかな?

テクニックには自信あるけど…でも結局…


「黙っておれにパスを出せば良いんだ」

「だって、染岡さんのシュートじゃ止められてしまいます!」

「豪炎寺さんじゃないと点はとれないでヤンス!」


どっち?

圧倒的にフィールドを支配する力があれば、まとまるの?

それとも今みたいにそいつ一人だけに頼るの?

そもそもあたしってそんなに力があるの?


「ねぇカヤちゃん」

「アキ…?」

「しっかり前を見なくちゃ」


アキは、フィールドを指さした。


「よくわかんないけど、とにかくカヤちゃんが今すべきことは、円堂君達のために秘密を探ることなんじゃないかな?」

「アキ…」

「秘密が分かればきっと、みんなも一つになってくれるよ」


そう…だよね。

今みんなが仲間割れしているのはあの秘密のせいなんだ。

だったらそれを…


「っありがとうアキ。あたし…ちょっといってくるね」


ベンチのあたしにしかできないことも、ある。

秘密が分からないなら、探ればいい!

あたしはそぉ〜っと木の陰から尾刈斗中の方に廻った。

バレればかなりまずいけれどあの顧問が何かしているに違いない。

近づくと奇妙な呪文をつぶやいていた。


「まわれ〜まわれ〜まれとまれ〜」

「まわれまわれまれとまれ…?もしかして暗示…?」

ああ、やばい。

尾刈斗中の選手はもうゴールの前にいる。

今から守の方に戻ったんじゃ間に合わない。

どうする?

飛び出す?


「くっそぅ…」


いいやもう。

ばれたって別にこれは犯罪行為ではないわけだし!

あたしは木の陰から飛び出して尾刈斗の監督より前に出た。


「な、なんだね君はっ」


あたしは尾刈斗のベンチの選手に押さえつけられながら、超ド級の大声で叫んだ。


「ぐるぐるぐるっどっかぁぁぁああああん!!!!」

「ファントムシュート!」


間に合え…!


「熱血パンチ!」


あたしは守が横っ飛びにはねて、新必殺技を繰り出したのをたしかにこの目で見た。

ファントムシュートは破られたんだ!


「やったっ…!っいで!ちょっとひっぱらないで!」

「キサマっ…!」


くっそ離せや!

尾刈斗中の選手があたしを腕を引っ張って戻らせてくれない。


「このっ、離せって!」

「おい、女の子に大勢でかかるのは良くないと思うぜ」


そのとき後ろから誰かの声がした。

あたしにはそれが誰だか分からなかったけれどあたしは叫んだ。


「おいそこのヤツ!あたしを助けろ!」

「っお前、人に者を頼む態度かよ」

「お願いします神様仏様!時間がない!」


後ろのヤツはははっと笑った後尾刈斗の選手をあたしから引きはがして、もう一度腕を捕もうとしたヤツの替わりにあたしの手をつかんで走り出した。

やっとその人の顔を見ると、そいつはあたしと同い年くらいの男子だった。

暗い肌の色で、長身ですらっとしていた。


「だ、誰だかわかんないけどありがとう!お礼はまたの機会に!じゃあねー!」

「おお、気をつけろよ」


なんて紳士だ!

こんなガサツな扱いにも彼は心配の言葉を投げかけてくれた。


「無事かカヤ!」

「ああ!秘密が分かったんだよゴーストロックの!」

「やっぱりお前のおかげだったんだな!」


全速力でチーム陣内に戻ると笑顔の守が待ってくれていた。


「そういうことだ…?」

次いで走ってきた風丸が心底訳が分からないという風に顔をしかめたので、あたしは説明した。


「フォーメーションを無駄に入れ替えたりヘンな呪文聞かされたり…お前達は目と耳の錯覚を起こされていたんだ。

つまりゴーストロックの正体は催眠術だったわけ!」

「それでああいう風に叫んだのか…?」

「うん。小さい頃守とヒーローごっこしてるときに、よく叫んでた言葉だったから自然と出てきて…」


守は覚えているかな?


「そうか!あのときの…」

「うんっ」

「ありがとうカヤ、これで正面から戦えるよ!

よぅし!俺たちの反撃はここからだ!ボールをFWに回せ!」

「でもキャプテン、染岡さんのシュートじゃ…」


…っ秘密が分かってもやっぱりダメなのかな?

一つにはなれない?

でもここで勝たないとあたしたちはフットボールフロンティアには出られない。

まだチームが一つになるにはこれじゃ足りないっていうの?

これ以上…どうしたら…


「染岡を信じろ!」

守の声に、あたしは顔を上げた。


「俺たちはまだまだ弱小なんだ。

ひとりひとりの力を合わせなくちゃ強くなれない。

俺たちが守り、お前達が繋ぎ、あいつらがきめる!

この一点は、全員で取る一点なんだ!」


守の叫びは、心に響いた。

これがきっと、みんなの心を合わせるための最後のピースだ。

それを守が埋めてくれた。

あたしひとりじゃ出来ないことも守が…。

――そっか。

あたし一人で何とかして守の力になろうとして…これじゃ、さっきまでフィールドにいたみんなとおなじじゃない。

ばかだなぁ、あたしは…。


「さぁ、いこうぜみんな!」


守がボールを蹴り、少林が竜吾を信じて彼にボールを回した。


「染岡、奴の手を見るな。あれも催眠術だ。平衡感覚を失い、シュートが弱くなるぞ」

「お前…ずっとそれを探っていたのか…?」


きっと、竜吾もあたしと同じなんだ。相手を見下して一人で何とかしようとして…頼られたり、自分がみんなより上の立場(たとえば先輩だったりとか)だったときって、人は何とかしようと必死になってまわりが見えなくなっちゃうんだとおもう。

竜吾は今、それに気が付いた。

あたしには二人のやりとりはうまく聞き取れなかったけれどあいつの顔を見れば分かった。


「竜吾!お前は一人じゃないんだよ!仲間を信じろー!」

「カヤ…俺は、なんてバカだったんだ…」


竜吾は、吹っ切れたみたいに足を後ろに上げながら叫んだ。


「豪炎寺ぃぃいいい!!!」

「!!」

「ドラゴンクラーッシュ!」


竜吾は、ドラゴンクラッシュをゴールではなくて天に向かって打った。

まさか…これはシュートではなくてパス!


「ファイアートルネーーード!!!」


あたしにはそのシュートは赤い炎の竜がゴールに飛び込んでいくように見えた。


<ゴール!同点!雷門中、同点に追いつきました!>


次いでドラゴントルネード(再びメガネのネーミングセンスが火を吹いた)でもう一点が入り、試合終了のホイッスルがグラウンドに響き渡った。


<4−3で雷門中が尾刈斗中に大逆転だー!>


あたしは呆然として、実況の声を聞いていた。

挨拶を終えて尾刈中がとぼとぼ帰って行く頃には、日が暮れかかってあたりは橙色に包まれていた。

あたしはマネージャーの隣に座って、喜び合うみんなを遠目に眺めていた。


「やってくれたな!染岡、豪炎寺。お前達のドラゴントルネードが教えてくれたよ。

一人じゃ出来ないことも、二人で力をあわせれば出来るようになるんだってな」

「…エースストライカーの座は、譲ったワケじゃないからな」
「…ッフ」


口ではあんまり仲良くなってないみたいだけど、ちゃんとふたりは分かり合ったみたい。


「カヤ、お前も!」

「え…」


守が笑顔であたしを振り向く。

みんなも、あたしをみている。いいの?そっちに行っても。

だってあたしは外から見てるだけで…


「カヤちゃん、いってきなよ」

「アキ…でも」

「カヤ!早く来いって!」


ぼけっと座り込んでいたら守がこっちまで走ってきて、あたしに手を差し出した。

そっとその手を取ると強い力で引かれて、あたしはあっという間にみんなの輪の中にいた。


「ありがとな紺野。この勝利、お前のおかげだ」

「俺もお前が気が付かなければあのGKの催眠術には気がつけなかった」

「みんな…。あたし、これからもチームの力になれるように、みんなと力合わせて頑張るから」

「ああ、みんなで頑張ろうぜ」

「よぅし、みんな!俺たちもフットボールフロンティアに乗り込むぞ」

「おお!!」






後書き
つかれたー…。
土門君出てきましたねアニメ。土門君好きです。あのシンプルな私服がいいです。似合ってます(笑

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