イナイレ長編
□3 あみだせ必殺技!3
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「…豪炎寺、ごめん…」
「はぁ…」
ため息をつかれました。
まぁ、そうだよね。
今、あたしと円堂は豪炎寺の妹さんの病室の前で頭を下げているところだ。
なぜこんな事になったかといえば、今日は土曜日だけれど河川敷で練習としようと円堂が言ったことが始まりだった。
サッカーから離れている間、あたしはどうしても後ろめたい気持ちがあってあまり円堂に話しかけられないでいた。
でもサッカー部に入った今、円堂とまた一緒にいられることが嬉しかったから、あたしも喜んで練習に参加したのだ。
その帰り道、あたし達はテーピングを買うために回り道をして帰っていた。
そのとき反対車線を豪炎寺が歩いているのを見つけたのだ。
なんだか心配だった。
らしくもないけれど帝国戦で同じピッチに立ったプレーヤーだから。
もし怪我とか病気持ちで、この前の試合で無理させてしまっていたのなら…と考えたら居ても立ってもいられなくなって…。
そして病院内をうろうろしていたところ病室を出てきた豪炎寺で遭遇。
今に至るわけである。
「まったく、お前らには呆れるよ」
豪炎寺はそういって、病室のドアを開けた。
「入れよ」
豪炎寺が中に戻るためにあけたと思ったから、そういわれてあたし達は面食らった。
でも中に入って、もっと驚いた。
豪炎寺の妹は、眠っていた。
けれどあたしにはそれがただ単に眠っているだけには、どうしても思えなかった。
なんだか、ゾッとした。嫌な予感が…した。
「夕香っていうんだ。もうずっと眠り続けている」
豪炎寺は一息ついて、それからあたし達を順番に見た。
「話すよ。でなきゃお前達、帰らないだろう?」
座れよって言われて、あたし達は遠慮がちにあいている二つの椅子に腰掛けた。
豪炎寺の話は、去年のフットボールフロンティアの話から始まった。
夕香ちゃんが、その決勝を楽しみにしていたという話。
でも、絶対にかっこいいゴールを決めると約束したときの彼女の笑顔が、豪炎寺が見た最後の笑顔だった。
夕香ちゃんは事故にあって、豪炎寺は試合を欠場。
「俺がサッカーをやってなきゃ、夕香はこんなことにはならなかった。
夕香が苦しんでいるのに、俺だけのうのうとサッカーをやっているなんて…できない」
「豪炎寺…お前は…」
「だから俺は、夕香が目覚めるまでやらないと…誓ったんだ」
あたしには、豪炎寺がズボンの裾を握りしめるその気持ちが、よく分かった。
「なのに…あのとき。なぜなんだろうな?」
よく分かるけど、きっとあたしも豪炎寺の本当の痛みは分からないだろう。
だってきっと彼の方が…ずっと苦しくて、苦しみ続けている。
「自分でもわからないんだ。自然に、体が動いていた…」
涙が、溢れてきた。
本当に久々だ。
早く止めないと…止まらなくなる。
だめだ、あたしがここでないちゃったら迷惑だから。
なのに涙は止まらなくて、拳の上にぽたぽた落ちた。
「俺…なんにも知らないのにしつこく誘ったりして…ごめんな」
「いや…。おい紺野、なぜお前が泣く」
「ごめっ、なんでもない…」
「同情なんて…」
「っ同情じゃないよ。あたしも分かるよ、だって…」
「カヤ…いいのか?」
「いいよ円堂、豪炎寺は話してくれたから。
だったらあたしだって、話すべきだよね?」
あたしは深呼吸をして、夕香ちゃんの顔を見つめた。
「…あのな、豪炎寺。
あたしの兄ちゃんはサッカー選手だったんだ。海外でも活躍していてね。
大きなチームじゃなかったけれど、あたしは兄ちゃんが大好きだった」
「お前…兄がいたのか」
「ああ。だけど、あたしが中学校に上がる前の春休みの試合で超次元技を頭にくらった兄ちゃんは…当たり所が悪くてね、そのまま死んじゃったんだよ」
「……!!」
今でも、鮮明に覚えてる。
夢に出る。
背中を押すはずのサポーターの声が動揺の一色に染まってざわめいていたこと。
あの異様な空気と、混乱した頭の中。
「兄ちゃんはGKだった。
あたしは円堂までそうなっちゃう気がして、サッカーが怖くなって逃げたんだ」
「そんな…ことが…」
「ああ。だけどきっと豪炎寺の方が辛いよね。
だってあたしの兄ちゃんはもういないけれど、豪炎寺の妹は生きているもの。
ずっとずっと気がかりで仕方ないと思う。
それに豪炎寺が自分のせいだって思っているなら、なおさら…」
「…どっちが辛いかなんて、天秤にかけるような事柄じゃないだろう!
俺は…お前のことを誤解していた、紺野」
「あたしもだよ豪炎寺。わるかったね。
でも一つだけ言いたいんだよ、妹だったあたしから」
豪炎寺の下げられた視線が再び上がってあたしをとらえた。あたしは立ち上がった。
「あたしは今でも、兄ちゃんが恋しいよ。
もしもう一度会えるなら…あたしは楽しそうにサッカーをしてる兄ちゃんを見たいと思う。
きっとね。
さて、豪炎寺のサッカーを一番望んでいるのはいったい誰なんだろう?
もちろんそれは…あたしでも、円堂でもないよ」
別にサッカー部に誘いたいワケじゃなくて、ただもし夕香ちゃんがあたしと同じように思うのなら、豪炎寺にそれを分かってほしかった、それだけ。
あたし達は、病室を後にした。
***
月曜日の練習でも、染岡はやっぱり焦っていた。でもずいぶん弱気で、「ストラーカー失格だな」ってらしくもなく自虐している染岡をみて、あたしはなんだか放っておけなくなった。あたしはそっと、少し離れたところから円堂と染岡の話を聞いていた。
「豪炎寺には負けたくない、俺はあんなシュート、打てるようになりたい」
染岡の思いは…すごく切実に聞こえた。
「豪炎寺になろうとするなよ!お前は染岡竜吾だろぅ?お前にはお前のサッカーがあるじゃないか!もっと自分に自信もてよ!」
「俺の…サッカーか…」
ふふふっ、円堂のヤツってばやっぱり良いヤツだ。
「…ようし、やってやろうじゃねぇか!」
ほら、染岡のヤツも調子出てきたみたいだしね。さて、ならばあたしはこいつらをサポートするのみ。
「ちょーっとまったぁー!」
「紺野…?」
「染岡、お前のやる気はしかとこの耳できいたぞ!あたしに協力させろ」
「はぁ?この間まで俺のこと認めないっていってたばっかじゃねぇか」
「気にするな!」
「いや気にするわ!」
「まぁまぁ染岡、カヤもお前のやる気を見て協力してくれる気持ちになったんだよ!」
「…ッチ。いいぜ、俺に協力してみろよ」
「いいとも、協力してやるよ…覚悟しやがれ…」
「なんだかこの二人…こわいでヤンス…」
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