イナイレ長編
□3 あみだせ必殺技!2
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「こんなんじゃダメだ!」
悔しげに叫びながら地面をたたく染岡。
彼を心配する部員達、ため息をつくもの…。
翌日、またちょっとだけ遅れて練習場に来たあたしは、そんな光景を目にした。
なぜ遅れてきたかというと、音無春奈という女の子が今日からサッカーに来たいと言うことでここまで一緒に来たからだ。
彼女が来たことで練習は中断され、次の対戦相手の情報についての話がされた。
あたしはそれを聞きながらも終始イライラして焦った様子の染岡を、じっとみつめていた。
「あのぅ、やっぱり豪炎寺さんを…」
尾刈斗中の話にびびった部員がそう声を上げたので、あたしガックリした。
染岡の頭に青筋が走る。
それでもみんな、帝国戦の事を思い出して口々に弱音を吐いた。
まぁ、気持ちは分からなく無いよ…けどさ。
「みんな!人に頼ってばかりじゃ、強くなんかなれないぞ!
さぁ!練習だ!」
嫌に気合いの入った返事と、不安そうな返事が混ざり合って不協和音を生む。
あらま、チームぐちゃぐちゃじゃない。
***
その日のぎくしゃくした練習が終わった後で、あたしと円堂はいつもの場所へ向かった。
円堂が浮かない顔をしていたから、あたしが誘ったのだ。
彼はいつもみたいに、だけどちょっとだけむしゃくしゃしたような顔でタイヤを受け止めていた。
「やっぱりここにいたのか」
そのとき背後から声が聞こえて、あたし達は振り向いた――と、円堂の顔面にお約束のようにタイヤが直撃した。
「風ま…どわぁああ!」
…とりあえず、練習は中断である。
あたし達3人はベンチに腰掛けた。円堂がキーパーグローブから手を引っこ抜く。
パンチングの練習に変えたから、円堂の拳は真っ赤になってしまっていた。
「円堂、手を見せて」
「ああ」
差し出された手をみて、赤いところを押せば円堂の顔が少しゆがんだ。
「んー…明日はテーピングを買ってこよう。あたしが張り方を教えるよ。あまり無理すると拳がいかれちゃう」
「大丈夫だって!」
「あほ!キーパーグローブより分厚いグローブしてるボクサーだって拳をこわすんだから。
超次元技を拳で止めるならそのくらいしないと体もたないからね!」
「あ、ああ…ありがとうカヤ」
「ははっ、紺野は円堂の保護者みたいだな」
「うっさいわい風丸」
「怒るなよ。ほら、お前にも」
お、ドリンクじゃないか。
気が利くな風丸のくせに。
ありがたく受け取って喉を潤していると、夕日を見上げた風丸はぽつんと言った。
「染岡は…焦っているんだろうな」
「うん…あいつがあんな事言い出すなんて、思ってなかった」
「一年のみんなが、豪炎寺や紺野を頼るのも分かるよ。
でもあんなの見せられたら、俺だって負けられないと思う。もっと頑張って、力をつけなきゃ…って」
確かに染岡は…今の練習の仕方がいいとは思えないけれど、あいつは一人で焦っている。
それがチームをぐちゃぐちゃにしていると、一年生は思うかも知れない。
だけど本当は、みんなが染岡や風丸みたいに、かわらなくちゃいけないんだ。
「…みんな、お前みたいに思ってくれればいいんだけどな」
今度は円堂が、ぽつりとそういった。
今まで弱音を吐かなかった円堂が。
ちょっとだけでも後ろ向きなこと言った円堂は珍しかったし、きっとそれくらい彼も思い悩んでいたんだろうな。
風丸がふっと笑って言った。
「そこを導くのが、キャプテンの役割じゃないのか?」
「そうだな…」
「ふふふっ」
「なんで笑ってるんだ?紺野」
風丸は突然笑い出したあたしの顔を不思議そうにのぞき込んできた。
「いやぁ、ね」
「なんだ?」
「この部活には、円堂以外にもまだまだ向上していく可能性があるんだなって思ってさ。
円堂。いままでここにいられなかった分、あたしもサポートするからさ。
だってあたしの背番号の12はサポーターの番号だからね。
あたしの役目はこのチームをサポートしていくことだって、あたし今勝手に決めたから!
もちろん風丸もだよ?」
「もちろん、俺だってやれることはやるさ」
「二人とも…ありがとな!」
ようやく円堂は浮かなそうな表情を消して、何かを心に決めたみたいな顔つきに変わって立ち上がった。
「みんな、今は豪炎寺とカヤがいれば簡単に勝てるって思いすぎてる。
サッカーは11人でやるって事を、忘れてるんだ。
俺…豪炎寺のことはもう無理に誘わずに、今のメンバーでやっていければいいなって…そう思ってるんだ」
「そうだね、円堂」
もうすぐ夕日が沈んで夜が来る。
でも次の時にはまだ朝日が昇って、一日が始まる。
雷門のサッカーはまだ始まったばかりだ。夜が当然巡ってくるように、うまくいかない事なんてあってあたりまえだ。
だからあたしはこの夕日に、もうサッカーから逃げないで、友達のために頑張るって誓うよ。
「よし!じゃあ明日も練習だー!」
「明日休みだけどね」
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