イナイレ長編

□2 帝国が来た!下
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「待ちなさい!君たちはうちのサッカー部では…」

「いいですよ、俺たちは」


慌て顔の冬海先生と、なんかむかつくドヤ顔の鬼道のやりとりを意識のはしっこで聞きながら、あたしは同時に登場してきた豪炎寺に睨みをきかせた。これは予想外だ。

あんなにサッカーをいやがっていたあいつが、ここで出てくるだなんて。


「豪炎寺…やっぱり来てくれたか…!それにカヤまで…!」


私の思考は、ふらふら立ち上がった円堂によって断ち切られた。

よろめく円堂を不本意ながら豪炎寺と二人で支える。


「っ大丈夫か?」

「遅すぎるぜ、お前」


ふっと豪炎寺が浮かべた笑みは、今までのイメージをぶちこわすくらい優しかった。

もしかしてこいつは…本来はこういう笑みを浮かべるヤツだったのかもしれないな。

あたしは視線を円堂に移して、心からの謝罪を込めて言った。


「円堂、いままで出てこなくてすまなかった」

「カヤ。お前は、もうグラウンドに立てるのか?」


心配そうにこちらをのぞき込む円堂に、あたしは言ってやった。


「心配すんな。ようやく踏ん切りが付いた。もう迷わないよ」


円堂の表情は、お前のことを信じてるって顔に変わったから、私は満足した。


<さぁ、ここで雷門は眼金にかわった新たな10番豪炎寺修也と、松野の交代で12番紺野カヤが加わりました!>


その場で軽くジャンプ。

大丈夫、グラウンドの上でサッカーするのは久々だけど、体はなまっていない。

あたしはポジションに着いた。

斜め前の豪炎寺とちらりと目があった。


「円堂!」

「どうした、カヤ」

「お前がいままでやってきたことを思い出せ!この前あたしがいったことも!

それと肩の力を抜いて、自然体で…」

「よぅし!わかった!次こそ絶対に止めてみせるぜ!」


円堂は深呼吸をした。

前を向くと再び豪炎寺と目があった。彼はもう次のプレーは決めているようだ。

あたしとおんなじで。

ホイッスルの音とともに帝国は容赦なくボールを奪い、例の3人が一気にあがってきた。


「「「デスゾーン!」」」


高く蹴り上がって回転する3人を見て、「よぅし」と豪炎寺の気合いを入れる声が聞こえてきた。

ぜんそく力で豪炎寺は走り出した。あたしもそれに続いた。


<おおっと走った!なぜか豪炎寺も紺野も円堂をまったくフォローせず!二人で帝国ゴールに上がっていくー!眼金と同じ敵前逃亡かぁあ!?>


そんなわけあるかいな。

驚いた様子の帝国選手をみてにやり、とつい口端があがってしまう。

そう、この感じ。

次に何が起こるか分からない、懐かしい感覚。今の自分たちの点数だとか、そんな状況なんてすっかり忘れて、あたしはわくわくしていた。

さっきまで震えていた足は嘘のように、軽く動いた。


「あいつら…俺を信じて走ってるんだ…俺が止めるって。

これを止めた俺から、かならずパスが来るって…!」


そう。

そうだよ円堂!

あたしも豪炎寺も、お前を信じてるんだからな!


「でやぁああああ!」


わずかに振り向くと、暖かい色をした大きな幻影の手のひらが、ボールを正面から包み込んでいた。

出来た…!

これが円堂がずっと行っていた必殺技なんだ…!


「行けぇ!カヤ!豪炎寺!」

「来いやぁああ!」


円堂からのオーバースローを、あたしはセンターサークル手前でヘディングで受けた。

相変わらずのバカ力だけど、でもその強い感触が懐かしかった。

あたしはそれをさらに胸で受けて走り出す。


<なっ、なんだ今のセーブはー!?

そしてカヤにボールがわたりましたぁ!おおっと!なんというテクニックでしょう、ご覧ください!ものすごい足裁きです!>


慌てた帝国の選手達があたしを止めにはいるけれど、それくらいどうって事無い!

あたしはドリブルなら誰にも負けない!

3人目の選手をかわして、ゴール前まで上がった豪炎寺に、思い切りパスを出した。


「頼むよ豪炎寺!」

「ああ!」


豪炎寺はうまくボールを受けると、そのまま強く地面を蹴って飛び上がった。

彼の周囲を炎が渦巻く。


「ファイア トルネード!!」


身の危険を感じたようで、GKはそのシュートを飛び上がって避けた。

ゴールネットにボールが突き刺さり、ホイッスルが吹かれた。


<ゴォォーール!雷門イレブン!ついに、ついに帝国学園から一点をもぎ取りましたー!>


「やったぁーー!」

「やったでヤンス!」

「うるせぇ喜ぶな!これあと20回だこんちくしょーめ!」

「ひっ、ひどいッスよそんなの!」


状況もわきまえずに喜び出すイレブンに渇を入れてやったけれど、あたしはもう安心していた。

帝国の目的が豪炎寺だったんだろうって、選手の反応でだいたい分かったし。

ならもう、これ以上やる意味ないよね?

高いところからこちらを見下ろし笑みを浮かべる帝国総帥ににやりと笑いかけると、サングラス越しなのに一瞬目があった気がした。


「たった今!帝国学園から試合放棄の申し出があり、ゲームはここで終了!」


大声で言って手を挙げた審判を見て安堵のため息をこぼすみんなに、あたしはつい笑ってしまった。


「思わぬ収穫だな。円堂守…」


ちょうど近くにいた鬼道がにやりと笑いながらつぶやくのが聞こえて、あたしはそちらへ歩み寄った。


「円堂はこんなもんじゃおわんないよ。

いつかまたあんた達と戦うときには、油断しない方が身のためだ」


あたしは円堂じゃないけれど、ちょっと得意げにそういってやったら鬼道はゆっくりと顔を向けた。

なに、ずいぶんと楽しそうな顔じゃない。


「紺野カヤ。お前も収穫の一つだ。

お前の声が円堂のあの技を引き出した。

そしてあのドリブル。ロングパスの精度。

帝国にもなかなかないものだった」

「褒めてくれるってわけ?そりゃどーも」

「次に合うのが楽しみだな。では――」


ちらりと瞳が見えた気がしたかと思うと、鬼道は赤いマントを翻して去っていった。

ふぅん。

なんだろう、あいつ。根っからの悪ってわけではなさそうだな…。

あいつとはまた、どこかであうような気がするよ。


「…紺野」

「おぅ、豪炎寺。…脱いだのか」

「ああ」


振り向くと今度はユニフォームを脱ぎ捨てた豪炎寺が立っていた。

彼は何となく申し訳なさそうだったけれど、あたしはもう攻めるようなことは言わないことにした。


「円堂はいいって言ってくれただろう?」

「ああ。」

「ならあたしも、無理言ったりしないからさ」

「ああ…じゃあ、またな」

「うん。ありがとな、豪炎寺」


豪炎寺は無言で手を振りながら、去っていった。

どうるんだろあれ、上半身裸で帰るのかしら…?ふははっ。


「円堂!」

「カヤ!お前も本当に、ありがとな!」


ちょっと心配だったけれど去っていく豪炎寺を見送ってからみんなの輪の中に戻っていくと、円堂がきらきらした目であたしを見ていた。

まぁ、他のみんなの顔には「いったお前は誰なんだ」と書いてあったけれど。


「円堂、あたしはもう逃げないよ。

今日からまたお前と一緒にサッカーしたいから。

だからあたしも、みんなの仲間に入れてほしい。いいかな?」


ぐるりと部員達をを見回したら、みんな笑顔で頷いてくれた。


「当たり前じゃないか!」


にかっと笑った円堂が差し出す手を握って握手したら、その手はとても暖かくて。

どうしてもっと早く戻ってこなかったんだろうと後悔の念まで呼び起こさせた。


「よぅし!この一点が…雷門の、俺たちの始まりだ!」



ここからまた…始まるんだ。


あたしの、あたし達のサッカーが!




後書き
再び無駄に長くてまとまりが・・・。
でも次回からはみんなで仲良くわいわいやっていく感じでかけるといいと思っています♪

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