イナイレ長編

□2 帝国が来た!上
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「カヤ早く!始まっちゃうよ!」

「ばかだなぁ、ホイッスルが鳴らなければ試合は始まらないんだよ」

「あ、見て帝国のキーパーの人!かっこいい!」

「……」


試合当日、あたしはみんなよりも少し遅れて校庭に出てきた。

さいわい試合は行方不明の壁山のおかげでまだ始まっていなかった。

ため息混じりになるべく遠くの方に座りこむ。

気乗りしないものの、やはり円堂との約束は破れない。とりあえず…


「メガネ死ね…」

「え?何かいった?」

「いや…なんでもない。」


ホイッスルの音がグラウンドに響き渡った。

試合内容は、雷門が遊ばれているだけという感じだ。

あたしはボールに打たれるみんなを見て、気分が悪くなってうつむいた。

ボールが選手達に激しく当たる。

そのまま頭を抱えて座り込むと隣の友人アヤが控えめに声をかけてきた。


「ねぇ…大丈夫…?」

「あ、ああ…」

「気分悪いの?」

「気にしないで。それより、もう前半が終わるよ」

「え…?」


前半終了のホイッスルが鳴らされて、アヤはあたしから視線を外した。


「カヤ、時間計ってたの?」

「いや…ただのカンだよ」

「すごいじゃない、ピッタリ!

ほら、気分悪いワケじゃないならもうちょっと近く行こうよ。

私あのキーパーもっと近くで見たいな。あ、帝国の方ね」

「……」


アヤはすごい力であたしの手を引いて歩き出した。

予備のボールがカゴから落ちて、転がっている。

手を引かれたひょうしに足にそれが当たった。ボールはころころ転がっていく。


「まだ前半が終わったばかりじゃないか!」


聞こえてくる、円堂の声。

やる気をなくした部員達の声。

あたしはは奥歯をかみしめた。


「何言ってる!まだやるぞ!勝利の女神がどっちにほほえむかなんて、最後までやってみなくちゃわからないじゃないか!

そうだろう?なぁ、みんな!」


力強く訴える声。


 ――本当は、前半の終了時間が分かったのはただのカンじゃない。

試合時間ほどなじんだ枠組みの時間は他になくて、足に触れたボールの感触も、よく知っている。


「デスゾーン、開始」


地獄の扉を開く音が聞こえて、はっと顔を上げた。

体中の血が、逆流したような感覚。

円堂に、この世のものとは思えないようなシュートが突き刺さった。

ゴールに押し込まれて倒れる円堂。


――この感覚を、あたしは知っている。

足が震えた。

怖い。

怖い。


尋常ではない体の震えに、いいかげんアヤも源田ではなくあたしの顔色をうかがう。顔は真っ青になって、汗が噴き出た。


「ふざけるな…こんなの…サッカーじゃない!」


そのとき、風丸が飛び出した。

風丸は円堂にむかって打たれたシュートに力を振り絞ってヘディングをしようとしたのだ。


「だめだ風丸!」

あたしは叫んでいた。彼の体は次の瞬間に、ゴールネットにたたきつけられていた。


「かぜ…ま、る…ぁ…ああ…」



――脳裏には、大きなグラウンドが浮かんできた。

多くのサポーターで席は満員。

その大会場の真ん中で、繰り出された超次元技。

それはキーパーの選手の頭に直撃して、彼は崩れ落ちる。


「にい…ちゃ…ん…?」


試合中断を知らせたホイッスルと、状況を説明しようと声を張り上げる実況と、騒ぎ立てるサポーターと、私に何かを叫ぶお母さんと…



「絶対、このゴールは守ってみせる!」


聞こえてきた声に、あたしは我に返った。


「このシュート、決めさせるもんかぁああ!」

「えんどぉぉおおお!」


――もう、いやだよ。

サッカーで人が傷つくのは。ねぇ、円堂。


けれど、この瞬間にあたしは、地獄に差し込む光を見たような気がした。

円堂の手が輝いたのだ。

結局シュートの力には勝てず円堂は顔面からシュートを食らったが、それはあたしの目を覚ますには十分だった。

立てないみんなと、逃げていく目金。

19−0というこの状況で…。


いま、あたしに何が出来る…?


「無様だなぁ」

「無理だ」

「お前達は、俺たちから一点を取ることすら…」


あたしは、その場で大声で叫んでやった。


「出来るんだよ馬鹿野郎が!」

「まだだ!まだ、終わってねぇ!」


あたしの叫びは、円堂の声と重なった。


「まだ…終わってねぇぞ!」


円堂が立ち上がった。あたしは、やっと自分に出来ることを見つけて、ベンチの方へ走り出した。


「アキ!」

「カヤ…ちゃん…?」

「12番!12番のユニフォームをあたしにくれ!」


そうしているうちにも、20点目を告げるホイッスルが吹かれる。

アキがよく分からないといいたそうな顔で、しかし12番のユニフォームを鞄から出してわたしてくれる。


「これ…12人も部員がいないのに円堂君がいつもバッグに入れていたものなの」

「円堂…。ありがとうアキ。あたしが円堂を…助けるから」


あたしは、覚悟を決めてピッチへ向かった。


足が震えるけれど、大丈夫。

ピッチの上には円堂がいるから。

もう逃げるのはおしまいにしよう。

人が傷つくのが怖いなら、自分で…!


<おや…?彼はもしや、昨年のフットボールフロンティアで一年生ながらその強烈なシュートで一躍ヒーローとなった…豪炎寺修也!

そして!もう一人グラウンドへ向かったのは…なんと!雷門中二年生、帰宅部の紺野カヤだぁあ!

これは!これはいったいどういう事なのでしょうかぁあ!>






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