ハイキュー短編
□バレンタイン
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バレンタインデーにケンカふっかけられるとはついてねぇ。
十和田は舌打ちをした。
向かい合う相手は女なのに、目的はケンカだなんていささか悲しい。
彼女は珍しく、女ながらに十和田にケンカをふっかけてくる一人である。
十和田もはじめは戸惑い手加減などしてみたのだがこれがまた、彼女の強いこと。
それこそ十和田と同等。
そのへんの下っ端からアネさんと呼ばれているだけある。
そんな彼女が何を思ったのかケンカをふっかけてきたのはバレンタインだった。
「おい別にケンカすんのはいいけどよ、いくらなんでもこんな日にケンカしてて悲しくなんねぇか」
「はぁ?あんた女の子からチョコもらえるような男だったか?」
「いやもらえねぇけどよ」
「だったら今日がバレンタインだろうが関係ないだろうが」
「ちげぇよ、俺の話じゃなくてお前の話だよ。
こんな時くらい女の子みたいに本命なんかをよ――うおっ」
「おりゃあ!」
「ちょ、不意打ちかよ!」
「いくぞ十和田ぁああ!」
なんかケンカするような気分でもないしなぁと、十和田は彼女の拳をぱしっとうけてそのまま腕をつかんで止めた。
とたん、彼女ははくはくと口を開けたり閉めたりを繰り返した。
十和田は不思議に思い彼女をのぞき込んだ。
「なんだ?」
「あっ――はっ、離せこのやろう!違うんだよ今日はケンカしに来たんじゃねぇんだって」
「ふっかけて来たのお前だろうが」
「つ、つい、な…と、とにかく離せや!」
しゅばっと腕を引いて彼女は十和田から距離を取った。
珍しいこともあるな、と十和田は話は聞いてやるよと腕組みをした。
「あ、あのな、もうお前とケンカすんのやめだっ」
「お?おお、そうか」
まぁ元々仲が悪くてケンカしてるワケじゃねぇしな、と十和田は思う。
だがケンカをしないということはもうこいつと会うこともないのか。
なんか寂しいじゃねぇかよ。
「その、かわりに…あの、その」
「なんだよ歯切れが悪ぃな。らしくねーぞ」
十和田の言うとおり、らしくなくもじもじとうつむいた彼女はすぅっと息を吸い込むと叫んだ。
「っくっそぉぉぉおおおとといきやがれええぇええ!!!」
「はぁ!?」
ついには真っ赤になり走り去ってしまった。
取り残された十和田は訳も分からず呆然とした。
一応、追いかけた方が良いのだろうかと一歩進むと何かに躓いた。
みると彼女が落としたらしい何かが落ちていた。
拾い上げるとそれは綺麗にラッピングされていた。
見たところプレゼントのようだ。こんな日にプレゼントといえば思い当たることは一つ。
「…なんだあいつもバレンタインたのしんでんじゃねぇか」
宛名は無いかとひっくり返すと、そこにはアドレスと、そして十和田のイニシャルがかかれていた。
イニシャルだけだから、もしかしたら違う男の子とかも知れない。
だが十和田は自信があった。これは自分宛なのだと。
「かわいいとこあんじゃねぇか」
そういえばいつも互いの学校の下っ端同士がケンカの約束(不気味な約束である)を取り付けてくれていたから自分たちは互いのアドレスなんてしらなかったなぁと、と十和田は思いながらアドレスを登録した。
さぁ、なんて送ってやろうか。それともあえてホワイトデーまでじらしてやろうか。
十和田はここへ来たときとは打って変わって、愉快な気分で歩き出した。
バレンタイン・デー
後書き
なんでこいつらケンカしてんだってあんまり考えてなかったんですけど、彼女は照れたり恥ずかしいとつい殴ってごまかしちゃう系女子なんです!笑
十和田とケンカはじめたのも十和田のこときになってたからです、という裏設定