ハイキュー短編

□バレンタイン
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「ねぇ!バレンタインどうするー?」

友達に聞かれて、そっか、バレンタイン近いやと思い出した。

なんか最近部活が忙しいからすっかり忘れていた。

「誰かあげる人いないの?
あんたたしかバレー部のマネージャーだったでしょ?
男子いっぱいいんじゃん!」

「んー、まぁみんなにはあげるけどさ。

日向とか影山は多分食べられればなんでも良いんだろうし、田中先輩とかは無条件に喜んでくれそうだし、大地先輩達にはいつもお世話になってるからちゃんと渡したいし」

それと、コーチにも。

言えない。

バレー部のコーチに来てくれている人が実は好きなんだとか、そんなおもしろい要素たっぷりのことを話したら私はたちまち恋バナのえじきになってしまうだろう。

はぁ…憂鬱である。

料理あんまり得意じゃないしなぁ。

と、悩んでいるところへ潔子先輩が一緒に作ろうと誘ってくれて非常に助かった。

なんでも自分一人でやると田中先輩達がものすげぇ調子に乗るから一緒にやってほしいというのだが、あまり効果はない気がする。

バレンタインは日曜日だから、土曜の練習が終わった後で潔子さんの家へお邪魔した。

作り終わったら外は真っ暗で、潔子さんのお母さんの提案で夕食をいただけることになった。

うれしいけれどちょっと申し訳なかった。

夕飯を食べてからラッピングに取りかかる。

オレンジ色の袋に黒いリボンを買ってきた。

こういう時はピンクとかが横道だろうけど、まぁ烏野カラーをイメージしてのことである。

「はい、これつかって」

そんなオレンジ一色の中、たった一枚だけ赤い袋があり、潔子さんがそれを私に差し出した。

なんで一枚だけ?

「これ、誰にですか?」

「コーチに」

「え」

「だって、好きでしょう?」

固まる私に潔子さんが袋を押しつける。

何!?まさか…ばれている!?

「なっなぜそんなことに!」

「大丈夫、みんな気が付いてないから」

「あ、いえ…え!?あああ」

「落ち着いて」

「っふぁい!」

ナニコレめっちゃハズイ!

潔子さんにばれていると言うことはスガさんあたりも感づいているかも知れない。

「あの…ありがとうございます。気を遣っていただいて」

「気にしないで。こういうイベントは利用しないと」

「はい!」

そうだよね。

武田先生の分もあるんだしなにもおかしな話はない!

やっぱコーチは大人だから、好きですなんて高校生の私が言えるわけがないんだけど、でもこっそり本命をあげられることが嬉しかった。

当日。

なんだか朝からみんなが大騒ぎだった。

どうせ今年も俺はチョコをもらえないんだとか、今日バレンタインだったのかーとようやく気が付いたり、既にちゃっかりもらっているツッキーがいたり、ツッキーにチョコを渡す山口がいたり、「騒ぐのは良いけど、練習始まったらしっかりな」と大地さんが青筋を浮かべていたり。

まぁ練習が始まればみんなバレンタインのことなんか一瞬で忘れたみたいだけど。

その日の練習が終わり、片付けと挨拶も終わると潔子さんがバッグから赤いラッピングのブツお取り出した。

「じゃあお前ら鍵閉めとけよー」

烏養コーチが声をかけて体育館を出て行く。

潔子さんに背中を押され、私は走った。

「烏養コーチ!」

体育館をでてすぐのコーチが振り向く。

みんなにバレるのは嫌なので扉をきちっと閉めてからコーチを追った。

「なんだ?」

「あっあのこれ!」

相手もビビるようなスピードでチョコレートをさしだすと、コーチは「ああ、今日バレンタインか」とつぶやいた。

「わざわざ悪いな」

「いえ!あの、コーチにはいつもお世話になってますし、私が渡したかっただけなので」

「そうか。ありがとな。しかしこの歳になってもこんなものがもらえるとは思わなかったなぁ」

と、コーチはしげしげとラッピングを眺めた。この歳っていうか、コーチはまだ若いと思うけど。

「コーチはまだお若いじゃないですか。どうせ本命をくれる女性だっているんでしょう?」

「あ?いるわけねぇだろ」

「え!?あ、いやごめんなさい。コーチは格好良いからもてるかなーって勝手に思ってたんですけど」

「生まれてこのかたもてたことねぇよ」

へぇ、みんな見る目なんだなぁ。

「ま、ホワイトデー期待しとけよ」

コーチは私の大好きな笑みを浮かべて、手を振りながら行ってしまった。

よかった。

渡せた。

一人すっきりしている私は気が付かない。

潔子さんが烏養コーチのラッピングの中に、赤いラッピングはコーチだけなのだというメモ書きを入れていたことに。

そのメモ書きを見たコーチが赤面して口元とを手で隠したりなんてしていることなんか、知るよしもないのだ。



 バレンタイン・デー





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