キッド連載

□15 悪夢
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 夢を見た。

心が無いみたいに鉄格子の向こうに座り込んでいた頃の夢。
鉄格子の鍵が開けられて、男が私を引っ張って連れて行く夢。
男が地獄の道へ続く扉を開けた夢。
夢はそれで終わったけれど、その先に何があるのか知っている私には、それだけで恐怖だった。
続きは、いつ見るのか。できることならば見たくないと何度も願ったが、今日のように見るのが現実。
こんなにも幸せな生活を手に入れても癒えない傷、消えない不安。
私は泣きそうになって、起きたばかりなのも忘れるくらい必死になって、暗い中で光る赤を探した。

「――ぃってぇ!なんだ!?」
「っ……」
「レティ!テメェ朝っぱらから何……レティ?」

ごめんね頭。
本当はまだ起きる時間じゃないよね。分かってるけど、今あなたを見ていないと心がつぶれそうだから。
大丈夫だっていってよ、ねぇ頭。

「おい、なんとか言わねぇとわかんねぇぞ」
「……だ……って……」
「あ?」
「大丈夫だって言ってお願いっ」

ごめんね頭、わけわかんないよね。
でも、わけわかんないハズなのに頭は上半身を起こして、私をベッドに座らせると肩を抱いて、あやすように背中をさすってくれた。
母親みたいな優しい手つきで、だけど慣れないような手つきで。
母親の手よりも、この無骨な手の方が何にも負けないような気がして、ずっとずっと安心できた。

「……大丈夫だ」
「うん」
「なんだかしらねぇが、この船には俺がいんだ。とりあえず大丈夫だろ」
「うんっ」
「大丈夫か」
「…うん。けど、もうちょっと待って」
「…ああ」

今まで、悪夢を見ても慰めてくれる人がいなかった。
女将さんも、いい人だけでど私が起きる頃には忙しそうに働いていたし、ほかに頼れる人はいた試しが無くて。
なのに、私は今日、何も考えずにとっさに頭に飛びついた。
それはきっと、まだ日が浅い中でも私にとって頭は何よりも頼れる存在だとおもってるからかな。
けど、頭にとっては…迷惑かも知れない。

「ごめんね頭。迷惑掛けてゴメンね」
「…なにがあったかはきかねぇけどよ。お前は俺のこと信用してるからこうしてここに来たんだろ?」
「うん」
「だったらお前も俺のクルーだ。迷惑でもなんでもねぇよ。」
「……なんか頭が優しい」
「わりぃか」
「そうはいってないっす」
「ま……優しい、か」
「?」
「お前には一応今更ながら確認しときてぇ事がある。メシ食ったら二人で話すぞ」
「はーい」
「それまでは、仕方ねぇからこのままでいてやるよ」
「頭」
「あ?」
「ありがと」
「気にすんな」


 頭は、やさしんだよ


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