キッド連載

□3 頭の船に乗りたいの
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その晩、キッドは船長室で考えていた。レティについて、どうするかを。
彼女からはそこそこの力を感じることができる。
細かいことは分からないが噂でよく聞く「悪魔の実」の能力も持ち合わせていると聞いた。戦力としては連れて行って損は無いかもしれない。

それに一目見たときから、キッドはレティに不思議なものを感じていた。
初めての感覚だ。
あの一見無邪気に見える笑顔は確かに紛れもなく本物だったが、瞳には、影が潜んでいるのだ。悲しみか、憎しみか、怒りか。
それがなんなのかはよく分からなかったが、キッドは何かしら自分と似ている色を見た。
それと彼女自身に興味を持った。
それは初対面にもかかわらず何のおそれもなしに話しかけてきたからか、そうでないのか。
今のところはそれもよく分からなかったが。

「キッド」
「なんだ」

キラー開け放した扉の隣に腕を組んで寄りかかり、キッドに問いかけた。

「どうするんだ、昼間の」
「ああ、どうするかな。俺もよくわからねぇよ」
「俺はどうこう言う気はないがな。
まぁ明日も来ると言っていたし、それからでも遅くはない」

キラーはそれだけ言うと壁から背を離した。
夜の街に繰り出すようだ。
今夜の船番はキッドが引き受けていたから別段不思議なことでもない。

「なぁ、キラー」
「なんだ」

今度はキッドが問いかけ、キラーは壁に背を戻した。
キッドは、レティの姿を脳裏に浮かべた。真っ黒な髪で白い肌。白いワンピースを身にまといながら手に持ったごつい服や装飾品を見下ろす目は輝いていた。
キッドは言った。

「俺はよ。自分のクルーだと思えるような奴を見つけたら、乗せてくれと頼まれるんじゃなくて「俺の船に乗れよ」って言うもんだとばかり思ってきた。
けどあいつは、俺の力がどれだけなのかまったくしらねぇってのに乗せてくれといってきやがった。正直面食らった」
「そうか。」
「もし、あいつがこの船に乗ることになったらどうなるだろうな」
「……愉快になりそうだな」
「…そうか」

キラーは今度こそ、船を下りていった。
キッドはのびをしてベッドに横たわり小窓から見える月に目をやった。



 翌朝、目覚めたキッドはのどの渇きから食堂へ足を向けた。
昨日買ったばかりのコートを適当にはおり、ゆっくりと歩いていく。
朝は苦手だ。
キッドはなかなか開ききらない目を食堂に向けた。
なんだか良い香りが漂ってくる。キラーだろうか。
だがキラーは昨日の夜出かけているのでまだ帰っていないはずだ。
途中で飽きて引き返したのだろうかと低い可能性を探りながら食堂にはいると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

「あ、頭おはようございます!」

キッチンにレティが立っていたのだ。
彼女はエプロン姿でお玉を持っている。
それに加えてとびきりの笑顔であいさつをとばした。

「な、なんで居やがるんだてめぇは!」
「昨日の夜にキラーさんに許可を取っておいたので問題はないです!」
「キラーに許可取ってどうすんだよ船長は俺だろ!?」
「まぁまぁそういわず!どうせ頭は料理できないじゃないですか」
「なんでしってんだよ」
「キラーさんが毎朝毎朝大変だっていってましたからー」
「くっそぅなんか腹立つなこいつ」
「ほら!そんなわけでお料理もできちゃう私を船に乗せない手は無いですね!
とりあえず食べてください。毒は盛ってないですよ。心配なら私が口移しでも」
「遠慮する」

キッドは慌てて言うとレティから皿を取り上げて座り、食べ始めた。
レティは水を持って行って皿の隣に置くとキッドの正面の椅子に座った。
そして頬杖を付いてにこにこしながらその様子を眺めた。

「なんかこうしてると新婚さんみたいですね!」
「言ってろ!」
「お味はいかがですか?」
「……まずい」
「ぴぃやあああああああ!!!」

キッドが仏頂面で言った瞬間、レティは叫び声を上げて皿を取り上げた。

「あんだよ」
「今すぐ!今すぐ作り直してきます閣下!」
「だれが閣下だ!いいよめんどくせぇ。
食うから返せ」
「いえ!頭の口に合わないものを食べさせるわけにゃあいきませんよ!」
「嘘だ、嘘だから作り直すな」
「え……?」

レティは待ったを掛けたキッドを不思議そうに見た。
信じられないとでも言いたげな表情だ。キッドは少し渋ってから言った。

「別に、うまかった」
「え……マジですか」
「おう、マジだマジ。でもあれだな、毎日キラーの料理食ってるせいで舌がおかしくなっただけかもな」
「そんなぁぁぁあああ!キラーさんに言いつけますよ!」
「やめろ!あいつが怒ると俺でも手におえねぇんだよ」
「でも頭私のことも手に負えないですねきっと」
「手に負えるようになってくれると助かるがな」
「善処するかもしれないです」
「いやしろよ。まぁいい、このあとちょっと付き合え」
「え、好きです付き合え?」
「まず医者に連れて行こうか」

 朝食を済ませ、船を下り二人は街にくりだした。
レティはキッドの後ろをてくてく歩いてついて行く。
口元はゆるみきって、絶えずおかしな笑いを漏らしている。
そんな少女がいかつい男の後を付いて歩いているのは実に奇妙な光景で、街人達は振り向いた。
この島に住み着いているレティは振り返った顔見知り達に機嫌よさげに手を振った。
街人はよくわからないままぎこちなく手を振り替えした。

「あ、そういえば頭!自然すぎて気がつかなかったけどそのコート昨日買った奴ですね!」
「あ?おお」
「さすが頭!お似合いですね。裸にコートなんて私にはとてもできません」
「お前の場合不審者になるぞせめて下を着ろ」
「ブラジャーの上からなら大丈夫ですか?」
「いやそうじゃねぇよ余計おかしいわ!」
「あらー、それは残念です」
「で、お前は昨日買ったコートは着ないのか?」

キッドはたいした意味もなく尋ねた。
ここは南であるしいまはとても暖かい。
むしろコートなど着ている方がおかしいのだ。本当にたいした意味はなかった。
それなのに…

「やだ頭ー!私とおそろいがいいんですか!?」
「ちげぇよ!」
「すみません頭、私もおそろいがいいです」
「いや俺の話聞いてた?」
「けどね頭、私頭の船に乗るまで昨日買ったものは着ないことにしたんです。
頭が船に乗せてくれるときが来たら、そのときはおもいっきりかっこよく着こなして、頭の後ろをついてまわるんです!」

キッドは肩越しに振り向いた。#
#NAME1##はいつものニヤニヤした笑みではなく、少女らしく照れ笑いをししていた。
キッドは思わずレティをみつめた。レティは途中できっその視線に気がついて小首をかしげた。

「なんですか、頭?」
「いや、なんでもねぇよ」
「そうですか?あ、頭頭!あのお店のお肉おいしんですよー」

常連の店に視線を向けたレティを、キッドはもうしばらく見つめていたがやがて視線を外した。
視線は彼の足下におちた。
自分でもなんだか分からなかったが、キッドはレティを船に乗せてやりたいと思った。
乗せたいというより乗せてやりたいと思ったのだ。
そしたらこの不思議な少女はどんなに喜ぶだろう。そこまで考えて、キッドは考えを振り切った。

「バカか、ボランティア精神でクルーを決めるなんざ俺としたことがマヌケだ!」
「ふえ?」
「いい、なんでもない行くぞ!」
「ヘイ頭!」


 赤に包まれながら、赤の後ろを歩きたい





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