キッド連載

□5 風の拳
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走って向かった海には、大きめの海賊船が止まっていた。
キラーさんも騒ぎを聞きつけたようですぐに追いついてきてくれた。一人一人の実力はたいしたこともなさそうだが人数だけは立派にそろっている。

「キラー、奴らを知っているか」
「いや。たださっき仕入れた情報だと、賞金首ではあるらしい。
俺たちと同じくらいのものだ。
クルーはたいしたこともなさそうだが船長は油断できない」
「じゃあ、とりあえず奴らが動き出す前におわらせましょう。
だいたいこの島に入ってきた時点であんなに武器をちらつかせるなんて敵意がある証拠です」

私は言って、物陰から姿を現した。
うちの村長さんは多くの海賊を見てきたから、村長さんがタチが悪いと言えばそれはたいていタチが悪い海賊だ。
海賊達は私に目を向けた。
私はただの村人を装った。
もしも私たちの勘違いなら必要のない争いは避けたい。

「ようこそいらっしゃいました皆様!」
「あ?なんだてめぇは」
「島の案内人でございます」
「案内人が付くのか!
噂通りの甘ったるい島だな!その必要はねぇぜ嬢ちゃん。
案内ならあとでじっくりいてもらうさ。
俺たちがこの島をのとったあとでな」
「まぁ、なんということですか!
ここは平和の島です、荒らすことは許されません」
「誰が誰をゆるすって?おかしなことを言うな。
まぁいい嬢ちゃん。あんた上玉じゃねぇかい。血なまぐさい戦闘の前に相手をしてもらいたいねぇ」
「相手っていったい……?」
「とぼけんなよ。まぁいいさ、ちょうど良い。あんたを人質にここを征服しよう。
こっちにこいよ嬢ちゃん。素直に付いてくれば命だけは助けてやるぜ」

海賊は気持ちの悪い笑みを浮かべた。
私は思わず身震いした。海
賊は私が恐ろしくてふるえていると思ったらしく笑みをさらに深めた。

「はやく来いよ嬢ちゃん」
「ちょ、止めてください!」

私は捕まれた腕を弱々しく振った。
その際に物陰の頭と目があった。
本当に抵抗しているのだと思われると困るので、一瞬だけ笑みを向けた。
船長と思わしき男がずかずかと寄ってきて私の顎に手をかけた。
その瞬間に、私は体全体に力を入れた。

「ぐわぁ!」

男は吹っ飛ばされた。
私は自分の能力で作り出した羽で風を起こして、男を吹っ飛ばしたのだ。
ついでに周辺のクルー達もとばされ、手は自由になった。

「さぁ、あんた達が卑劣な海賊であることは確認できた。
確認できたからにはふっとばすのみだ!」
「くっそぅ、なめたまねしやがって……俺を誰だか知っててやったのか小娘ぇ!」
「そんなの知らないっての」
「こいつ……紅髭さまだ!覚えておきやがれ!」
「べ、べにひげぇ?なにそれ白髭のパクリですかコノヤロー」
「ってめぇ!」
「しかも紅とか、葡萄酒でよごれちゃったんですかだぜぇー」
「ちげぇよ血だよ血ぃ!」
「うへぇ、きったねぇ赤!お前の血絶対緑だろ」
「俺じゃなくて敵の血だよ!」
「己はコントしにきたのか!」

我慢ならなくなったらしい頭が物陰から出てきて、大声を上げた。
そこで口論は止み、紅髭は怪訝そうに頭を見やった。

「なんだてめぇ」
「なんですか頭!」
「おめぇらがガタガタくだらねぇ言い合いしてるから我慢ならなくなったんだよそれくらいわかれ!
おいレティ。姿を現しておいて傍観するだけなんざ俺のやりかたじゃねぇ。混ぜろ」
「え、むしろ最初からそれが目的だったんじゃ?」
「っせぇ!ザコがウロチョロすっと色々面倒なんだよ。さっさとカタをつけてぇんだ」
「じゃあ頭、そのへんのザコお願いしますね!」

頭は、実に楽しそうに笑った。
あ〜、なんていう素敵な笑顔なんでしょう!
でもこの紅髭という海賊…一見白髭をパクッた弱そうな海賊に見えるけれど実力的にはそこそこのよう。
クルーの数もすごく多い。
三人で勝ちきれるかは分からないな…油断はできない。
「キッド!油断は禁物だ」
「わかってる。さっさと行くぞ!」

戦闘が始まった。頭もキラーさんも隙のない動きで相手のクルーをどんどん倒していく。
対する私も隙を見せないように気をつけながら紅髭と戦った。
私は、久々に強い奴とやり合うことで自分の中で何かがわき上がるのを感じた。
攻撃を仕掛ける手が止まらなくなって、周りが見えなくなりそうになる。
けれどそんなモノには気がつかないふりをした。
私の一撃が紅髭の腕に当たった。
奴の血は緑ではなくて赤だったみたいだ。

「貴様…やりおって。だがその能力を持つのが自分だけだと思うなよ…!」
「…?」
「まだうまく使いこなせねぇが、俺も食ったのさ」

紅髭は、気持ちの悪い笑みを浮かべた。なんだかゾワっとした。
何かが来る…。
次の瞬間に、紅髭の髭が伸びて、私に襲いかかった。

「ウイングガード!」

何とか自分の羽で風を起こして跳ね返したけれど、結構力が強いようで数本が私の体に細かい切り傷をつけた。

「なんだその気持ち悪い能力!」

口でそういいつつ、私は内心焦っていた。
どうしよう。
私は訓練もしたし、能力も持ってとはいえ、戦闘経験は豊富ではない。
自分の能力もあまり分かっていないのだ。対する相手の能力も未知数だが、向こうは戦闘の中で自分の能力を多少は理解できているらしい。

「軽口をたたけるのも今のうちだぁああ!」

紅髭は笑って、もう一度攻撃を食らわせてきた。
私は素早くかわして、翼で勢いをつけて蹴りを食らわせたが、それも髭にガードされて、さらにその髭は足にからみついて私はそのまま吹っ飛ばされた。

「ぐっ…!」
「何やってんだレティー!」
「す、すんません頭!」

ダメだ!ここで踏ん張らないと頭に認めてもらえないよ!私は、やっとみつけたんだ。
この人だって思える船長に。直感ほど信用できるものはないと私は思っているから、ここでその直感を捨てるわけにはいかない!

頭と、海を回りたい。
だから勝たなくちゃ…!

「ウイング――」
「バカ正直な娘よ…」

紅髭は、私を哀れむように言った。
そして、私に攻撃を仕掛けると見せかけて明後日の方向へ髭で作った刃を繰り出した。
一瞬向こうがバカをしたのかと思った。
けれどその刃の先には、四方八方多くの敵に囲まれた頭がいた。

「頭ーーーー!!」

私は攻撃技を出すことを諦めて、かわりにその勢いで頭の背後に回った。
紅髭の能力の技が、私の腹を貫いた。

「レティ…!!」

意識は薄れていったけれど、私は残った力を振り絞った。

「ウイング…ブロー…!」


  その赤い炎だけは、消させない…!




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