キッド連載

□2 海賊船
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 そうして私たちは買い物を済ませた。
お兄さんは船に私のことを招いてくれた。
通されたのは食堂でそれはそれは、クルー二人というには大きすぎる船だった。
けどお兄さんは、いつか自分の認めたクルー達でいっぱいにするのだと言った。

「でもこんな調子じゃお兄さんのクルーはなかなか増えそうにないですね」
「よけいなお世話だ。」
「えへへ。お兄さん悪人面なのに思ったほどわるそうな人じゃなくてよかったぁ」
「お前が思ってるよりは悪人だろうな。
ただ今日は気分が良いだけだ。それよりお前、いつまで俺のことお兄さん呼ばわりする気だ」

じろりと睨みをきかされて、思わず肩を大きく揺らした。
お兄さんは私がおびえたと思ったのか顔をしかめたが、私はおびえたわけではなかった。

「人に睨まれてこんなにゾッとしたのは初めてかもしれないです!」
「そりゃあ愉快だなてめぇ。俺はユースタス・キッドだ。」
「私はレティ!お兄さんのことなんて呼べばいいですか?」
「好きにしろ」
「じゃあ頭ってよんでもいいですか?」
「頭ぁ?そういやさっきもそんな事言ってたな。」
「はい!頭のこと見た瞬間に「うほ!この人は頭だ!」って思ったんですよー」
「もう既に頭呼ばわりかよ」
「おねげぇしやすよ頭ぁ!」
「別にかまわねぇけどよ、そのなんつぅか……」

頭は私から目をそらして後頭部をかいた。
気のせいかな、顔が赤い気がする。

「なんですか?」
「頭って呼ばれるの、初めてなんだよな」
「あーなるほど!照れくさいんでございますな!」
「うっせー言うな!」

悪人面の頭が顔を真っ赤にして必死に言うのはなんだかおもしろくて、私は声を上げて笑った。
頭も最初は仏頂面だったけれど私につられて笑った。
その豪快な笑いっぷりはいかにも海賊らしい。私はその勢いのままに言った。

「ねぇ頭、ちょうど良いから私を三人目のクルーにしてくださいよ!」
「はぁ?」

勢いに合わせて言った。
だけど頭は急に笑みを消して、私のことまたじろりと睨んだ。
機嫌が良いと言っていたけれどそれをぶちこわしてしまっただろうか?

「お前はなにができる」

頭は低い声で言った。

「戦えない奴を気まぐれに連れて行くほど、愉快な旅じゃねぇ」

「わかってます。私は海賊になりたくてしばらくこの島でいろいろな海賊を見てきた。
白髭やほかの名のある海賊が寄っていったこともあった。けど私はピンとこなかった。
そして今日頭と出会って、ピンと来た。
このチャンスを逃したくはないんです。
戦うことはできる。こう見えて悪魔の実の能力も持ってるんですよ」
「ほう。だがお前には何の目的がある」
「目的は、この人ならって思える人に付いて行って世界中の海を見ること!」

ご託並べたって、こういう人にきかないのはなんとなく分かった。
だから最後は素直な気持ちでそういった。
もしもこの人と旅をすることができたら、と考えると自然と口元が緩くなる。
私はいま相当ゆるい笑顔をしているのだろうな。

「…ッハ、おもしろい奴だな。唐突に言うが、俺の目的は”ひとつなぎの大秘宝”を見つけ出し、海賊王になることだ。お前はこれをどう思う?」
「どう思うも何も…でっかい夢を持ってるなんてさすが頭といったところです!」

頭は、ぽかーんとらしからぬ顔になって、数秒間私を見つめた。
そんなにみつめたら…私照れちゃうわんっ

「お前…笑わないのか…」
「え、笑うも何もニヤニヤしてますけど」
「そうじゃねぇよ、これを聞いたらたいていの奴は…」
「私、よくかわらんのです」
「わからないだぁ?」
「その秘宝の話は聞いたことはあるけど、あるか無いかは分からないし。けど、頭があるっていうなら、ある気がするから」

え、だいたい笑うって何にたいしてだろう。
夢がでっかすぎて、とか?
あ、違うかな。じゃなんだ?
てか人が夢語った後に笑うのはどうかなーっていう…なんでだ?

「――明後日」
「へ?」
「明後日が出航だ。それまでに考えておく」
「――!」
「考えるだけだからな!つれていかねぇかもしれねぇぞ」
「何でも良い何でも良い!考えたらきっと頭はすぐに気がつきますよ!
私のようなかわいい女の子を乗せない手はないってね☆」
「なにが「乗せない手はないってね☆」だあああ!」
「えー、だってそうでしょう!」
「かわいくねーよばーか」
「あー!頭ってば酷い!今言ったこと絶対後で後悔しますからね!」
「しねーよばーか」
「ばかって言った方がばかなんですよばーか」
「……キッド、女を連れ込むのは良いがお前の趣味に俺は今驚愕している」

その瞬間、食堂は異様な空気に包まれた。私と頭はしゃべるのは止めたけれど口を開けたまま食堂の入り口を凝視した。
見覚えがあるようでない人がいる。水色と白のしましまヘルメットをかぶった金髪のお兄さんが食堂の入り口に立っていた。
どこかで会ったことがあるような……

「――あー!!あなたはさっきの!」
「またあったな」
「あ、なんだ知り合いかてめぇら」
「いや。さっきコックを探しに行ったとき肩をぶつけてな。
俺のことをカタツムリ呼ばわりした後でなにかが私を呼んで居るだの意味の分からないことを言って走り去っていった。」
「いやぁ、なんだかすばらしい運命に引き寄せられているような感覚に陥って……あ、もしやその運命って私と頭の出会いかしらんっうふっ」
「気色悪いわ」
「なんだキッド、こいつをクルーにする気か」
「そんなんでございますよへいへい」
「ちげーよ考え中だ」

頭は机をばんばんたたいてヘルメット男に言った。

「まぁまぁ、いずれはそうなるんだしいい加減認めてくださいよう」
「その気なのはこの女だけのようだな。俺はキラーだ」
「副船長殿とお見受けします。私はレティというものでして」
「なるほど。まぁ口喧嘩はほどほどにな」
「いえいえこれは口げんかではなくてですね、求愛行動の一種なんですわー」
「おいおめーらなに自己紹介しあってんだよふざけんな」
「なんだキッド嫉妬か。見苦しい奴だな」
「それこそふざけんな」
「ふっ。…まぁ俺はお前が否定している事態になることを見越して自己紹介をした。
俺は今後関わりの無くなるような者にわざわざ自己紹介などしない」
「おふっ、それは私がこの船に乗ることになると予想してるって事ですよね?」
「違いない」

マジか、キラーさんは話が分かるお人だな!
そうだよね頭一人じゃ海賊なんてやってけないよね、ここはクールなキラーさんタイプの人間が居ないと成り立たないよね!

「おいお前今失礼なこと考えたろ」
「いやはや滅相もない!」
「ますます怪しいな。キラーもこのバカが調子に乗るようなことは言うな」
「善処しよう、だがなキッド……」
「あん?」

キラーさんは頭の肩に手を置いて言った。

「前がこんなに楽しげに話すのは珍しいじゃないか」



  そんな風に言ってもらえると、なんだか期待しちゃう




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