小説
□青い炎と可憐な花
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「ハデス」
何を読んでるんだ?とオリンポスの宮殿の隅で何かに夢中になっていたハデスに声をかけたのはゼウス
「なんだ、ゼウスか」
オリンポスの最高神ゼウスにそっけない態度をとるのは死者の国、冥界を統べる神ハデスだ、青白い身体に灰色と黒のローブを着こなし青白い炎を頭上から燃やす長身の神は久し振りに見た弟の顔に苦々しげな表情を浮かべる
「久し振りに会うってのにそんな顔をするなよ、兄さん」
「ふん、誰かさんのおかげで読書を邪魔されたからな」
あんたにゃ関係無いことだからあっち行って大人しくしてくれよとしっしっと手を振りながら追い払おうとするハデスにゼウスが肩にへと手をまわす
「そう冷たくするなよ!どれ何を読んでるんだ?」
「あっ!」
ハデスの持っていた石板を素早く取りあげてそれに目をやる
「どれどれ...ん?結婚に向いてる美しい独身女神ランキング...?」
石板から目を離し、ハデスの方を見ると当の本人はふて腐れた態度でゼウスとは反対の方向へと目を向けていた
「結婚って...お前もしかして...」
「あーそうだよ!何だよその目!オレが結婚してぇって思ったら悪いかよ!」
「いや、ちょっと驚いただけだ...そうか、結婚か」
まあ、確かにその年まで妻がいないのも変だしなーと肩をすくめるゼウスにハデスが口を尖らせる
「だからこうやって相手を探してるんだよ、冥界に嫁に来てくれるような女神をな」
まあ冥界に喜んで実を投げ出してくれるような女神なんてそうそういやしないと思うがねぇとため息をつくのにゼウスがハデスの横にへと腰かける
「そうか、寂しくなるな」
「何がだよ」
「私だけの兄さんじゃ無くなるからな」
「気持ち悪いこと言うな!」
まあ、独り身が寂しくなったらいつでも相手をするからと背後から抱き締めてくるゼウスにハデスが拒否するかのようにその手を振りほどき、黒い煙の中にへと姿を隠した
(どうしよう...迷子になっちゃった...)
このままじゃお母様に叱られてしまうわと冥界の入り口で泣きべそをかく見た目14歳ぐらいのあどけなさが残る少女の女神の近くへと空から轟音と共に黒い戦車が舞い降りる
その戦車の手綱を操るのは冥界の王とも知らずに少女の女神がそれにへと歩み寄る
「ん?あんたは誰だ?お嬢ちゃん」
と少女の女神の存在に気づいたハデスから声をかけられたのに
「えっ、私は...その」
突然のことでうまく言葉を表せない少女の女神にハデスの青白い髪が苛立ちで赤く変わる
「と言うか女神がこんなところに居るなんてな驚きだぜ、こんなところに好んで近づく物好きなんていないぜ!迷子にでもなったか!?」
最後の言葉に素早く反応して頷く少女の女神にハデスがため息をつく
「じゃあ暫くそこで待ってることだ、そうしてたら知り合いの誰かが見つけてくれるからな」
冷たい態度で接するハデスに少女の女神が慌てて戦車の後ろから乗り込み、背後から腰にへと抱きつく
(何か今日は良く抱きつかれる日だな...オレは抱き枕か何かか!?)
「降りろ!」
突然の少女の女神の行動に驚きつつも声を荒くして馬車から降ろそうと奮闘するハデスに女神が手に力を込める
「いやです!」
「冥界行きになっても知らねえぞ!母ちゃんにも2度と会えなくなるぞ!」
それにぎゅっと更に手に力を込めて涙ぐむ少女の女神にハデスは脱力した...