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□4話 囚われ
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 夏の到来をどこのどの部活よりも待ちわびていたのは確実に自分たちの部であろう、と真琴は推測していた。
 衣替えによって生地が少し薄くなったスカートを翻しながら、美代が遙と競うようにして教室を飛び出していったので、真琴はひとりゆっくりとプールへ向かっていた。


「遙先輩、まだです!まだみんな集まってません!」


 プールサイドでは、既にジャージに着替えた江が遙の入水を食い止めている。遙は今日も下の水着を履いていたらしい。いくらなんでも早すぎる。
 頑張ってくれ江ちゃん、と苦笑する真琴を渚が急かす。


「マコちゃん、早く!着替えて!」
「分かった分かった」


 真琴は心もち早足に歩いて部室のドアに手をかける。
 突如、中から悲鳴が聞こえた。
 部室、もとい更衣室はプールサイドにこの一室しかない。カーテンレールを利用して奥を女子用のスペースにしていたのだが、早速事故が起こったようだ。しかし、女子の悲鳴にしては太い声だった。


「佐伯さーーー?」
「うるっさいわね!誰が好き好んであんたのパンツなんて見なきゃいけないのよ!」


 真琴が様子を窺うべきか迷っていると、怒鳴り声と共に水着を着用した美代が内側から戸を開けた。
 中で顔を真っ赤にした怜がパンツ一丁で縮こまっているのを見たところ、悲鳴は彼の上げたものらしい。


「あ、ははは・・・」
「橘、早く着替えてよね」
「あ、うん」


 真琴は、渚に借りたらしい黄色のブーメラン水着を手に首をひねっている怜を急かしながら、いそいそと水着に着替えた。


「はい!それでは、部員も正式に四人揃い、気候も暖かくなってきたこともありまして、本日からいよいよプールでのトレーニングを始めたいと思いまーーー」


 メニューが書かれているらしい紙を持った江が意気揚々と前口上を垂れはじめると、ついに耐えきれなくなった遙が勢い良く水の中に飛び込んだ。


「・・・ってちょっとー!人の話聞いてください!遙先輩!遙先輩ってばー!もう!」


 江が必死で叫ぶも、水の中の遙には一切届かない。
 怜は江が取り落とした紙を拾ったが、書かれていることが分からない。真琴が解説してやっているのを聞いて、美代は後ろからのぞいてみたが、なかなかしっかりしたメニューのようだった。


「これ、松岡が考えたの」
「いや、私じゃなくて、家の掃除してたら出て来たんです。昔お兄ちゃんがやってたメニュー」


 江は言ってから「まあどちらにしても松岡製か」と可笑しく思った。美代の呼び方にはどうも慣れない。
 ふと訪れた凛の気配に、自ら顔を出した遙も何か気になるところがあるようだった。
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