book1
□夢から醒めても*黄黒
1ページ/1ページ
「横山君、好き」
「…え?」
「好き、好き…好き」
「どっ、くん?」
「ごめん、ごめんなぁ。ごめん横山君、好き…好きやねん」
「そうやったんか」
いつもは合わせてくれない視線が俺を貫いて。零れた言葉は、いつもと変わらない優しい、包み込んでくれるようなもので、俺は泣いてしまったんだ。
そこで、はっと目が覚めた。
見上げる天井はいつもと変わらない俺の部屋のもの。
横たわるベットも俺の部屋のもの。
いつもの日常であることにまた傷ついた自分に思わずため息をついた。
「まだ、あの日の夢見るんやな…」
あの時。俺が救いようのない恋心に潰されそうになって思わず想いを吐き出した時。
「ありがとう」
そう言った貴方が綺麗に微笑んだのを見て、
あぁ、俺は一生この人を忘れられないんだろうと思った。
横山君には好きな人が居た。
相手は多分、あの人。
俺がどう頑張ってもなれないあの人。
勝てる訳なかった。だってあの人だって、横山君のこと大好きなんだから。
でも横山君はそのことを認めない。
繊細な横山君は
幸せにすら不安を感じるから、
始まりには終わりがあると信じて疑わないから、
横山君は知らないフリをする。
そんな横山君の想いも当然汲み取っているあの人は、知らないフリしているのを知らないフリしている。
だから2人は幸せにはなれない、ならない。永遠に。
なのに2人の気持ちは1ミリだって変わらない。これも、永遠に。
幸せになってくれれば、呆れるくらいラブラブしてくれれば、俺だって諦められるのに。
遠くからあの人を見つめる横山君の瞳に微かに愛惜の色が浮かんでいたのを見て、守りたいと思った俺は本当に頭が悪い。
「どうして…」
どうして、俺は世界中にいる誰よりも横山君のことが好きなんだろう。
どうして、横山君じゃなきゃダメなんだろう。
どうして、横山君は世界中にいる誰よりもあの人のことが好きなんだろう。
どうして、あの人じゃなきゃダメなんだろう。
蔑んで欲しかった。遠ざけて距離を置いて欲しかった。
これ以上俺が横山君のこと好きにならないように。
痛みに目を覚まして、心からその辛すぎる純愛を応援出来るように。
でも横山君は優しい人だ。拒絶なんて一切しなかった。
「忘れ、させてや…」
閉じ込めたつもりでも次から次に溢れてくる想いに、胸が苦しい。
痛みなら、もっと強い方がいい。
いつか歌った曲のフレーズが頭が浮かんできたのを無理に追い払って、
やけに早起きしてしまったこと以外はいつもの日常である「今日」を始めた。
end