book1

□This moment*緑黒
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これが許されない恋であることは、

痛いほど分かってる。







マンションの一室、

寝室の窓際に置いた
セミダブルのベット。


そこに横たわるのは、俺の愛しい人。




だけど、愛しちゃいけない人。










朧げな月明かりだけがキミを照らし、


その存在が確かであるか確信が持てなくて、触れたら消えてしまうんじゃないかと怖くなる。









優しくそっと指を絡めて、触れるだけのキスをする。


それはとても甘いのに、どこか苦くて。



幾度となくしてきたはずのこの行為を、ひどく大切にしている自分が笑えた。








火照った肌も
切なげに揺れる瞳も
薄く開かれた唇から零れる吐息も



全部全部、俺だけのものに出来たらいいのに、と。






歪で不確かな、でも、泣きたいぐらい純粋な愛が

ココロから溢れて止まらない。




「…っ、おー…、くら」


「横山く、」




永遠なんていらない。




ただ感じていたいんだ、


この瞬間だけは、何もかも忘れて、キミだけを。








建前も見栄も罪悪感も理性も

キミへの想いの中に溶けていく。




「好き、や」


「…っ」


「横山君、好き、好き、…っ愛してる」




大きくなりすぎて行き場を無くしたそれは、俺を苦しめるだけだと分かってるけど




キミを忘れるくらいなら





その苦しみですら、愛おしい。







だから、キミのその優しさで、

俺のこと離さないでよ。




傷付けて、いいから。











疲れて寝てしまったキミ、その横にどうにか寝転がる。
セミダブルのベットは長身の男2人で寝るにはいささか狭い。


でも、ええの。

この方がキミを感じれる。どうせすぐに消えてしまう、匂いや体温を。







夜が明けて去って行くキミを見送ったことは一度もない。
寝てるフリをしてキミに、現実に、背を向けたまま。




きっと今日もキミは、


寝たフリなのも気付いてて
「…ごめんな」
なんて、小さく呟くんだろう。






その少しの沈黙の間に隠されたキミの想いは

愛に溺れてしまった俺にはわからなくて。






それを知ってしまったらこの関係性が変わる気がして、

広くなったセミダブルのベットの寂しさに埋めていること、キミは知っているだろうか。







甘い思い出も、約束された永遠も、望まないから。




この瞬間だけは、


俺のことだけ愛して下さい。







太陽が昇る。
止めた「時」は、動きだした。









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