book1

□その名で呼ぶから*黄黒
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「きみくん」



昔の俺は

尊敬出来る先輩であり、面白くて優しいお兄ちゃんであった貴方をそう呼んでた。





「亮」



昔の貴方は

小さくてまだ子供で、生意気だけど可愛い後輩だった俺をそう呼んでた。





でも、今は。



「横山君」

俺はこう呼んでる。

いや、こうとしか呼べへん。




だって貴方は、俺のこと


「どっくん」

って呼ぶから。




何でそう変わってしまったんか。

そんなことわかってるよ。






俺が


「好きや」

って伝えたから。




そう伝えたときの貴方の顔を、きっと俺は一生忘れられへん。



大きな戸惑いと、小さな驚きと、確かな拒絶が混じった顔。




「ごめんな」


そう小さく呟いた唇は、

いつものように赤いのに
いつもと違い震えてた。





貴方はほら、今日もその赤い唇で俺のことを


「どっくん」

って呼ぶから。



だから俺も、貴方が望むように


「横山君」

って呼ぶよ。





だから、お願い。



どうかこのまま俺にも笑いかけて。

貴方の視界に入らせて。

俺からこれ以上離れないで。




そして、貴方をもう少し、


もう少しの間だけ愛することを許して下さい。



end

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