book1
□茜色*赤黒
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ベランダに緩やかな勾配で差し込むのは、夕陽のあたたかな光。
その光に包まれた茜色のヨコの横顔は、この世のものとは思えないほど儚くて、切なくて。
とても、綺麗だ。
そっと手を繋いでみる。
やはりこちらを向いてはくれないけど
先程より紅く染まった頬と、少しだけ握り返された俺よりも大きな手が、愛おしい。
「綺麗やな」
「おん」
「幸せやな」
「…おん」
「好きやで」
「……」
あぁ、こんな沈黙ですら、俺の心をこれ以上無く満たしてくれる。
分かってるよ、ヨコ。
「なぁ、ヨコ?」
「なん?」
「愛してる」
「…俺も」
欲張りなとこも、愛おしいで。
沈みゆく夕陽、輝き始める星たち。
変わらない日常の当たり前の幸せを、ただいつまでも見ていた。
手と手を、柔く繋いだままで。
end