黒魔女さんが通る!! 小説

□夢でも現実でも
1ページ/7ページ




 夏も完全に終わって、涼しい日が続く秋。
 今日も今日とて朝の黒魔女修行を終え、いつものオーバーオールで登校です。
 桃ちゃんと別れ、大形くんと一緒に教室へ入れば、これまたいつも通り、騒がしい六年一組。
 …って、いつもより更にも増して騒がしい気がするんですけど。

「何かあったのかな」

「転校生が来るみたいだねぇ」

「え、そうなの?」

 大形くんに問い掛けると、その目はクラスの男子が四、五人集まった一点を見つめています。

「転校生って女なんだろ?」

「そうらしいね」

「可愛い子だといいなぁ」

 なるほど、男子たちの会話を聞けば、転校生が来るっていうのはすぐにわかりました。
 でも、このクラスに入るだなんて、ちょっと可哀想かも…。皆悪い人じゃないんだけど、キャラが濃すぎて、その子が馴染めるか不安です。
 思ったことが口から出ていたのか、大形くんがふっと笑って、そうだねぇ、なんて同意している。
 最近の大形くんは表情が少し豊かになっていて、桃花ちゃんの指導は順調なんだとわかる。
 前の大形くんは、冷たい感じのする笑い方しかしなかったからね。嬉しいです。

 そうして大形くんと話しているところに麻倉くんと東海寺くんが入ってきて、より一層と騒がしくなったあたりで、舞ちゃんが着席を呼び掛けて、朝の会。
 皆が話していた通り、松岡先生が転校生の子を連れて来た。

「初めまして、大井鈴音です!えっと、ちょっと緊張してるんですけど、よろしくお願いします!」

 と、挨拶を済ませて、空いた席に座る。
 うーん、普通です。転校生といえばさやかちゃんもだし、この子もかなりの変わり者だったりして…と思っていたけれど、普通です。

 休み時間。
 当然、鈴音ちゃんの周りに舞ちゃんを中心に人だかりができていた。
 羅門ルルちゃんの件があったから、同じようにいじめられるようなことにはならなければ良いけど…と思って時々様子を窺ってみたけれど、やっぱりそんなことはなく。
 鈴音ちゃんは今日一日で、普通に、自然に、クラスに溶け込んでいました。



   …



「おう、チョコ、ちょっと聞きたいんだが」

「な、何…?」

 部屋に入った途端、視界にギュービッドの顔がドアップで飛び込んできた。
 吃驚して一歩下がると、ギュービッドさまも離れてあたしのベッドに座る。

「最近、周りに怪しいやつとか出てこなかったか?不審なやつがウロウロしてるのを見たとか」

 何で急に、不審者情報を?疑問に思うものの、とりあえず思い出してみる。
 …うーん。
 朝にも帰りにも、そんな見るからに怪しい人なんて、覚えがありません。

「そうか…、とにかく気を付けろよ、ヤバイのが出てるらしいから」

「ヤバイのって?」

 珍しく、ギュービッドさまは深刻な顔をしている。その深刻さというと、帰って来てから今までの間に一度もオヤジギャグが出ていないことからお解りいただけると思います。

「黒魔女修行してる人間が、次々と被害に遭ってるんだよ」

「被害…?」

「ああ、犯人は見当も付いてないらしいけど、かなりの腕の黒魔女だ。あたしには及ばないだろうけど」

 挟まれる自画自賛はスルーします。それで、被害って、何なの?
 訊けば、ギュービッドさまは、思いもよらない答えを返した。

「魔力が封印されたんだ、もう四人くらい被害に遭ってる」

 はっ?魔力が、封印された?
 開いた口が塞がらないあたしに、ギュービッドさまが続ける。

「全部、隣町だとか、そう遠くない所で起きてる。超優秀なこのあたしの弟子なんだ、お前も狙われたっておかしくない」

 ちょっと待ってよ、黒魔女さんが魔力を封印されるってことは…

「眠りにつくのと同じってことだねぇ」

「魔界警察も動いているみたいですよ」

 大形くん、桃花ちゃん!
 二人が窓からあたしの部屋に移る。

「ギュービッド先輩、新しい情報が入りました。どうやら、この辺りで魔力封印の呪いをかけて回ってるのは、女の人らしいです」

 ね、ねえ。魔力を封印された人達って、今どうなってるの?
 そう訊けば、桃花ちゃん曰く、偉い黒魔女さんたちが呪いを解く方法を探っているけれど、全然見つからないらしく。
 でも、ぬいぐるみを外すだけでしょ?自分ではできないだろうけど、他の人が取ってあげれば…。

「違うんですよ、お姉ちゃん」

 違うって?

「魔力の封印は、大形のようにぬいぐるみでされているわけじゃないんです。そういう道具を使わず、完全に本人に呪いがかかっているんです」

「そんな黒魔法は聞いたことがないから、多分犯人のオリジナルだと思うぜ」

 ええっ、それって、大丈夫なの!?もしもその呪いを解く方法がなかったら、魔力を封印された黒魔女さん達は、皆、ずっと眠ったままになっちゃうんでしょ…。

「いや、大抵の黒魔法は、解く方法を用意するもんだぜ。何かあったときの為にも」

「死の国なら特にそうですね。鏡を使った呪い返しは、死の国の学校では必修科目ですし…、万が一にも自分に跳ね返ってきたとき、解く方法がないと困るでしょう?」

 そ、そっか。じゃあ、その魔力封印の呪いをかけた犯人が捕まれば、解く方法もわかるの?

「はい。こんな恐ろしい呪いを使われ続けたら、大変ですから…。魔界警察が、必死に捕まえようとしていますよ」

 魔界警察って聞くと、ハロウィーンのことを思い出して、未だにちょっと怖いけど…。でも、それなら近い内に捕まるかな?

「話聞いてなかったのかよ、これだからへちゃむくれは…」

 何よ。っていうか、へちゃむくれは関係ありませんっ!

「いいか?オリジナルの黒魔法を…しかも、魔力を封印するなんて黒魔法を作って、更に魔界の中でもかなり上の連中が必死に解き方を探ってもわからないんだぞ。あたしと同じで、自分の痕跡を残すなんてドジな真似はまずしない」

「お姉ちゃんも、狙われるかもしれないんです。だから、とにかく、暫くは絶対に一人にならないようにしてください」

 鬼気迫る顔で桃花ちゃんが言う。思わず、首を大きく縦に振った。

「ギュービッド先輩か、あたしか、大形でも良いですから、誰かと一緒に行動して、怪しい奴がいたらゲイジングですよ」

 念押しして、桃花ちゃん達は部屋に戻る。
 その後の黒魔女修行には、あまり身が入りませんでした。
 だって、こんな話されたら、不安になるに決まってるよ。早く捕まると良いんだけど…。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ