人外クラスの人間ちゃん

□*2話*
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学校での休み時間というものは、授業で酷使した脳を癒す時間だと思っていたのだが、今の私はそれどころじゃない。
このクラスに来てから時間が過ぎ、もう既に昼休みの時間になっていた。私は人目につかない様な動作で、自分のスクールバッグから弁当を取り出す。ごくごく有り触れたのり弁当。あ、今日は卵焼きが入ってる、ラッキー。卵焼きはやっぱり甘いのに限る。だし巻き卵も美味しいだろうけど、小さい頃から食べ慣れている甘いやつの方が好きだったりする。子供味覚で何が悪い。溶いた卵に砂糖を入れて、隠し味に醤油をちょっと。上手いこと焼けばふわふわに仕上がって、これがまた美味さを倍増させてる気がする。普通の目玉焼きやら煮卵が甘いってなると食べなくても不味そうに感じるのに、卵焼きは不思議なものだ。そんなどうでもいい事を考えながら箸を進める。余計な事を考えていないとやってられないだろ、この状況じゃ。
席に座って黙々と弁当を食べている私を、遠巻きに眺めているクラスの人外達。あれからというものの、話しかけてくる者は一人としていなかった。まあ転校初日だし、そういうものなのだろうけど。まるで動物園のライオンにでもなった気分だ。やめてくれ、私からしたらお前らの方が余程珍しいぞ。
そんな居心地の悪い空間に小さく溜息を吐いていると、目の前に人影の様なものが二つ。ちょっと待て、心の準備が出来てない。このまま黙って弁当を食べていたい衝動に駆られながら、箸をそっと置き恐る恐るそちらを向いてみる。私の机を挟んで向かい側にいたのは、私と同じこの学校のセーラー服を着た2人の人外だった。

「ねぇねぇ転校生!アタシ達もお昼ご飯、一緒に食べていい?」
「へ……?」

高いテンションで明るい笑顔を振り撒きながら話しかけてきたのは、紫ががった白髪の天然パーマに青い三つ目をもつ人外だった。その人外はふわふわと宙に浮いていて、それはまるで幽霊の様。私は先程まで吐いていた息を少し飲み込んだ。

「あ、ああ……どうぞ……」
「わーいありがとう!あ、自己紹介がまだだったね!アタシはニサ、よろしく!」

ニサがそう言った途端、私の手を勢い良く何かが掴んだ。正直心臓が飛び出たかと思う程驚いたが、ここで取り乱してはいけないと平常心を保ちながら見てみる。私の手を“黒い手袋”が、まるで握手をしているかの様にガッシリと掴んでいた。手袋のはずなのに、中に人間の手が入ってるのかと思うぐらいそれと似た感触をしている。少しひんやりとした黒い手袋。
チラリとニサの顔を見ると、嬉しそうにニコニコと笑っている。どうやらこの黒い手袋はニサの“手”らしい。なるほど、どおりで腕が見当たらないわけだ。ゆっくりと握り返してみると、少し上下に振られた後、手袋が離れていった。どういう原理で浮いているのだろうか、あの手袋は。いや、こんな摩訶不思議なものに原理も何も無いのか。

「それで、こっちが……」
「シズクです。よろしくお願いします」

そう言って軽く会釈をしたもう一人の人外。長い緑色の髪を額の中央で分けている、所謂センター分けで、鹿のような角が二本生えている。目の上に一回り小さな目があり、その四つの目が私を捉え、愛想良くニコリと笑った。こいつら合わせて目がいくつあるんだよ。七つですね分かります。そんな多くの目に見つめられ、私は小さくよろしくと言った。

「転校生…えーっと、ミクリだっけ?アタシ達と同じ人外なのに苗字があるなんて珍しいね!」
「え?」

ニサは持ってきた袋をガサガサと漁り、お昼ご飯であろうクリームパンを取り出しながら言った。シズクも私の机に弁当を広げ、向かい側の席の椅子に座っている。あ、人外の食べ物って人間の食べ物と同じなのか。もっとえげつない物を食べてるのかと思った。って、失礼な奴だな私は。

「この学校で苗字がある人外の方は見た事がありませんよ」
「え、あ、あーそうなのか!いや、まあ色々事情があってな…!」

そりゃあ私は人間だからなッ!!
……と言いたいところをグッと堪え、苦笑いでそれを誤魔化す。確かに、こいつらの自己紹介を聞いたが、苗字を言っていなかった。フルネームを言う気恥ずかしさからわざと名前だけ名乗っているのかと思ったが、最初から無いものは言えないよな。っていうか、苗字が無いなんて初めて知ったんですけど?両親もシュウ先生もそんな事言ってなかったし?そういう“違い”は事前に教えてほしかったんだが?
まあそれはさておき、苗字が無いという事は、人外には家族という概念が無いのだろうか?──いや、それはないか。だったら学生という肩書きも無いだろうし。大半の者達は、きっと家族からの支援を受けてこの学校にいるのだろう。私と同じように。こんな学校に転校させられた事とは別に、そこにはちゃんと感謝しないとな。
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