小説内容2

□第四話
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サワンは、ナツミの部屋に来ていた。キリクが寝かせたのであろう、ベッドにはナツミが寝ている。そんな孫をみて愛しさが込み上げてきて頬に手をやった。温かい頬に触れていると、ゆっくりとナツミの瞼が持ち上がり目があった。

「悪い、起こしてしまったようだな」

そう言いながら膝をおって目線を合わせた。まだ眠たげな顔をしているのをみていると自然に笑みが零れた。
しかし、ふとナツミが首もとの灰が入っているものに手を伸ばしてきて、咄嗟に立ち上がり避けてしまった。

「これ…には、触れるな。絶対」
「サワン様…顔色悪い」

額に手をあてながら、サワンはベッドに腰をおろした。少しの沈黙がおりてナツミが声をかけようとしたところでサワンが口を開いた。

「イヤな思いをさせたな。俺は長い時間を生きてきた。でも、良い思い出はなかったような気がする。いや、あったのかもしれないが、俺はそんなことも思い出せないほどの苦しい記憶があるんだ。それは美しくておぞましく辛い記憶」

サワンは、どこか遠くをみていた。眉根を寄せて、まるで辛い記憶に耐えているかのように。いつもサワンは優しげな笑みや色々な表情をする。けれど、そのどれにもどこか暗い表情があった。笑っているのに、どこか悲しそうで、私ももう1人の私も気付いていた。

(そんなもの、ほおっておけ…)

心の中に闇がそう話しかけてきた。
でも私は闇のようには出来なかった。気付くとサワンの服の裾を引っ張っていた。それに気付いたサワンは柔らかく微笑んで頭を撫でる。

「心配させた。でも、俺は幸せだ。今、愛する家族に囲まれている。辛い記憶もだいぶ薄れているんだ」
「うそ…」
「ナツミ?」
「そうだったら、そんな!…
そんな悲しそうな顔しない」

ナツミの言葉にサワンは目を伏せる。ナツミの頭に置いていた手を滑らせて背に回すと、そのまま抱き締めた。

「あぁ…本当は、後悔ばかりなんだ。
あのときこうしてたら…あのときってずっと悔やんでる」

サワンの手に力がこもる。サワンがどんな表情をしているかナツミには見なくても痛いほど伝わってきた。
 そして、サワンはつぶやくように言う。

「すべてを話そう。この世界が出来た理由を」
「話して大丈夫?」

 サワンの手に僅かに力がこもる。

「大丈夫だ。ただ…」

 そっと離れたサワンの顔は、どこか儚く今にも崩れてしまいそうだった。
 私が手をのばし、サワンの頬に手をやるとサワンは目を細め手に自身の手を重ねる。

「悪いがそばにいてくれないか?」
「うん。いるよ…ちゃんと、そばにいるから」

 その言葉に安堵したように、彼はもう一度愛しい孫を抱き寄せた。
 
 そして扉の向こうにいたライとリバルは、閉じていた目を開ける。壁にもたれていたリバルは体をおこした。
 ライは組んでいた腕をほどきイアルを呼ぶ。

「イアル、全員を共有スペースへ」
「承知いたしました。全員を集めておきます」

 イアルが消えたのを確認した後、リバルが口を開く。

「ライ、すべてを本当に父様が話すと思うか?」
「なにがだよ」
「俺たちでさえ、父様の首から下がっているアレが何か知らない」
「父さんが何を話そうが、俺はどうだっていい。平和な日が続いて…俺の大切な奴らが幸せならば」

 ライの言葉にリバルはため息を吐きつつ「俺は、ナツミが笑っていられるのなら…」と言った。
 大切な者が苦しまずにいてくれるのなら、それでいいのだ。
 サワンが何を話すかはわからない。もし…もしも、ナツミがその事実を聞いて平和な毎日を送れなくなるのならば自分は正しい道へと戻すだけ。父親が話すことが、どんなに残酷で事実だったとしても今は今なのだから。
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