小説内容2
□第三話
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ヴァンパイアの世界は最初のヴァンパイアである始祖によって創り出された。
白銀の世界を中心の軸として上に光の世界、下に闇の世界、そして白銀の世界の左右をまわる海原の世界と大地の世界。
離れたところには神天世界を創り出した。
有り余る力は、それでもなくならず、それぞれの世界に王•姫と共に純血種と純血種ではない普通のヴァンパイアを生み出した。
それから始祖は2人の兄弟を生み出した。
己の細胞と血を使って、唯一血のつながりの出来た父子として。
他のヴァンパイアは2人の兄弟とは違って始祖との血のつながりはなく、すべて始祖の力で出来たヴァンパイアだった。
始祖がなぜヴァンパイアを創り出したのか、この世界を創ったのかなど細かいことは分かっていなかった。
これがヴァンパイアという生物の成り立ち。
それを知るものはいない…たった2人をのぞいては。
ナツミは、扉をあけた。
そろそろスイルも落ちついた頃かと思いつつ、なにも持って行かないのも変かと思い手帳を持って行こうと思った。
学校に行く日取りも決めなくてはならない…なんだかんだ言って、いろいろ合ったせいで学校への登校も延びてしまっていた。
そう思って、部屋を見渡して自分のベッドに目をとめた。
体が一瞬にして強ばるのが分かる。
ベッドには、こちらをむいてニコニコと微笑んでいる1人の男性が座っていた。
すぐに、部屋のあちこちを見回した。
この部屋の鍵はすべてかけていったはず。
一体どうやって入ってきたのか…。
そんな様子をみて男性は声をたてて笑った。
「そんなにみても謎は解けんぞ?」
「っ!?」
「そうか…お前の匂い、混血のもの。
だとしたら、次はお前か」
いつの間にか頬が切れて血が流れていた。
警戒心は一気に恐怖心へと変わっていた。
急いで身を翻し扉を開けようとしたがあかない。
すると、いつのまにか男性がすぐ背後にきていて後ろから扉にドンっと手をつかれた。
「逃げようとしても無駄だ」
「くっ…!」
男性は、ナツミのうなじに下を這わせた。
そして、牙を刺してきた。
血が吸われていく…このままでは、マズいと判断したナツミは振り返りざま男性を突き放し闇の姿に一気に変わった。
そして間髪入れず闇の力を右手に溜め込んだ。
そのまま男に向かって放つが、不思議なことに力はかき消えてしまった。
「きさま…」
「闇か…やれやれ、バカな真似をする」
男性は、おもむろに腕に牙を埋め自らの血を口に含んだ。
そのまま、瞬時に闇の前に移動すると額に指を押しつけた。
すると、闇が強制的に戻され光の姿に戻ってしまった。
「な…なんで…」
ふるえる体でナツミは、男性を見上げた。
男性は、口元に笑みを浮かべナツミへキスをすると強引に口を割り血を流し込んだ。
「んっ…んぅ…」
ナツミから涙がこぼれ落ちる。
そんなナツミの様子を男は目にとめ、ナツミに血を流し込み終えると離れ少し距離をとった。
「さぁ、他の者たちも気づくかもしれないが、そろそろ本当のことを教えてやろう」
男が笑みを浮かべたと思うと、ものすごい力が地を伝い広がった。
そばにいるだけで息が止まりそうなほど苦しい。
そして、その力が広がった瞬間、それぞれの場所にいたみんなはすぐに何かに気が付いた。
ミナミは目を覚ましチハヤも顔をあげる。
まひろとイアルも会話をやめ、すぐに険しい目つきへと変わった。
リビングにいたライとイアルが苛立たしげに顔を歪め、はるは近くにいた。
リークと緑木の手を握った。
キリクもライのそばに寄り、スカルはシズカのそばに行った。
「ミナミ、これは…」
「うん、チハヤ行こう!」
みんなが力のもとの場所に行くとミナミは予想しチハヤを連れて急いで部屋をでた。
まひろとイアルも、すぐに部屋を飛び出す。
「このかんかく」
「面倒なことになりそうだな」
「イアルさんもそんなこと言うんですね」
まひろにそういわれてイアルは走りながらも、まひろに困ったように微笑んでみせた。
まひろも、そっと笑みを浮かべる。
そしてライたちも動き出していた。
「…ナツミは?」
ライの一言に、その場にいた者たちは弾かれたように顔をあげた。
「姫君…」
「これは、まずいよな…ナツミ」
スカルとリークが血相を変えてつぶやく。
スイルには焦りがうまれていた。
「急がないと…」
スイルがそういったときには、もうリバルとライは部屋から飛び出していた。
後を追うようにスイルたちも走り出す。
走りながらシズカはスカルの横に並ぶと、この力が何なのかを聞いた。
「この力、なんか変だ…今までに感じた力のどれとも違う」
「あぁ、わかってる。
おそらく、これは…」
「俺たちの始まりの力」
スイルが俺と言ったことでシズカも、この状況が良くないということがわかり焦りを浮かべた。
そして足を早める。
けれど、自分たちの始まりの力というのは何なのか…それが分からないでいると、はるがリークと緑木に尋ねた。
「始まりの力って?」
「つまり、俺たちを創りだした者」
「始祖の力って事だよ」
2人に聞きながら、はるは2人からの告白のことを考えた。
しかし今はナツミのことだと思い、今やるべきことをすることにした。
2人もしっかりと切り替えをしている。
自分だけがいつまでも引きずるわけにはいかない。
そうこうしているうちにナツミの部屋の前に辿り着いた。
そうして、すぐにミナミやまひろが来て全員がそろった。
城にいるメイドや執事の避難はすんでいる。
「この扉、普通にあけてもあくことはない…だから、俺に任せて」
リバルは、そう言いながら扉に手を当てた。
すると光の膜が少しずつ破れ扉がゆっくりとあいた。
ライとリバルが全員を庇うように前にたつ。