小説内容2
□第二話
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意識をなくしたはるを抱きとめたのは、リークだった。
口の周りには血が付き赤紫色に光る瞳は切なげに揺れながらも、意識をなくしたはるへと向けられていた。
そして、はるを抱きかかえた。
このまま廊下にいては、はるを寝かしてあげることも出来ない。
そう思って、はるを抱きはるの部屋に向かって歩き出した。
しばらく歩いていくとシズカに出会った。
シズカは、意識のないはるとリークを交互に見てぼう然とした様子をみせた。
「リーク、はるの血…」
「のんだ…ヴァンパイアなんだから、普通の行為だろ?」
リークから香るはるの血の匂いにシズカは何も言えずにいた。
リークの口の周りには血が付き見たことのないリークの姿にシズカは、その場に立ち尽くしていた。
「シズカ、用がないなら俺は行くけど…」
リークの言葉にシズカは、はっとしてリークを睨みすえた。
「お前、はるを大切にするって言っただろ!?
なんでっ!!」
リークは、いつもはるを大切にしていた。
それは、シズカにもよく分かっていた。
血を飲む行為だってあたりまえのことだということも…けれど、リークの尋常ではない様子に言わずにはいられなかった。
リークがどこか自嘲気味に笑う。
「大切…そうだな…大切にしてる。
俺は俺の気持ちを緑木は緑木の気持ちを押し殺して…」
リークの言葉にシズカは息をのんだ。
リークの心に抱えているものは自分が思っていた以上に重いものだと気付いたから…。
「俺は、いつまでだって待つよ。
でも…どうしたらいい?
どうしたら、俺たちはこれ以上苦しまない…?
シズカ、お前に何が分かる?」
リークの言葉は人を蔑むものではなく、怒りや憎しみでもなかった。
ただ切実な苦しみと悲しみが含まれていた。
シズカが何も言えずに困っていると、いつからそこにいたのか、スカルがシズカの肩に手を置いていた。
「リーク、とりあえずはるを寝かしてこい…。
話は、それからいくらだって聞いてやる。
シズカも今回はひけ」
「スカル…」
「大丈夫だ。リークも少し疲れているだけだ」
不安げな表情をみせるシズカにスカルはそう告げた。
リークは、何も言わずスカルの言ったようにはるを部屋に寝かせにいった。
はるの部屋に向かっていたリークだったが、自分の部屋の方が薬や処置用のものが揃っていると思い自分の部屋へと向かった。
そして、自分の部屋に着くとはるをベッドに寝かせた。
自分の腕に牙を刺し血を口に含むと、はるに口づけし血を飲ませた。
はるは血を飲んでいないから少しでも飲ませておかないと倒れてしまうから…。
「俺は、はるが好きだ…苦しいぐらいに」
そういって、ベッドにもたれながら床に座り込んだ。
腕に顔をうずめ、どうしようもない気持ちを感じつつ小さく息をついたのだった。
そのころ、スカルは黙り込んでいるシズカに目を向けていた。
「シズカ?」
声をかけてみるが、シズカは軽く相づちをうつだけで、どこかぼんやりとしている様子だった。
もしかしたら、まだリークのことが気にかかっているのではないかとスカルは思った。
そして、シズカの手を取った。
それに驚いたシズカは、スカルの顔を見上げた。
「やっと気付いたな…大丈夫?」
「あっ、ごめん…」
「リークのことを気にしてた?」
シズカはスカルの言葉に黙り込んでしまった。
おそらく、いつもと違ったリークの姿を見てシズカも戸惑っているのだろう…。
リークも色んなことを考えている。
今日は少し感情的になっていただけだ。
けど、シズカにもしものことがあれば、いくらリークとはいえ、それは許さない。
「リークだって、子どもではない。
大丈夫だ」
シズカを落ち着かせるようにスカルは言う。
「それは…うん、分かってる。
でも」
「俺は、シズカたちよりもリークをみてきたし一緒にいる。
何かあれば俺だってリークを支えてやれるから」
スカルは本当に優しいヴァンパイアだった。
周りのことを気にかけ、みんなもそうだが自分のことよりも仲間のことを優先する。
それは、なかなか誰にでも出来ることではない。
けれど、そんなスカルは、ふと切なげな表情になった。
スカルの顔に影がさして自分も不安になる。
スカルは少し重い口調で言った。
「リークの気持ちは分からないでもない。
それは、おそらく光の城にいるライやスイルや…全員の男のヴァンパイアがわかるだろうな」
「スカル…?」
「ヴァンパイアは、どうしても相手の血を糧として生きる。
相手のことを考えれば自分の飢えを我慢することになる。
たとえ、すぐに傷がふさがるとはわかっていても…。
人間は、ただ相手を想って大切にするだけでいいから正直羨ましい。
相手を糧として生きるわけではないから」
スカルは、たまにそういうことを言う。
まるでヴァンパイアである自分を苦に感じているように…。
けれど、スカルはスカルなのだ。
ヴァンパイアでないスカルはスカルじゃない。
うまく言えないけど今のスカルが1番スカルらしくて、人間の生き方をするスカルは考えられない。
「スカルはスカルだよ。人間のスカルなんて考えられない」
その言葉にスカルは驚いたようだが前みたいな暗い表情はなく穏やかな表情へ変わっていた。
口元に笑みをたたえて、何度かシズカの頭を軽くたたく。
男が苦手なシズカは、その行為にふと苦手さを覚えつつ、その思いとは別に嬉しいと感じている自分に気が付いていた。
「シズカは俺のこと、よくわかっているな。
真っ暗な何も見えない場所で俺が迷っていてもシズカは迷わず俺を見つけてくれる」
スカルは、シズカの両肩をつかみ片方の方に自分の額をのせるようにすると「ありがとう」と小さな声でつぶやいた。