小説内容2

□第二話
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 また夜が来てヴァンパイアの活動時間になった。
 季節はうつりかわり春となり、まだわずかに残る肌寒さにナツミは布団の中で身震いをして目を覚ました。

 ただ布団の中は温かい。
 どうして身震いをしたのだろうか…そう考えて右を見ると、すぐそこに眠っているリバルの顔があった。
 どうやら息が耳にかかったらしい。
 くすぐったくて身震いをしたようだった。
 冷静に考えていたのは良かったがよくよく考えてみるとリバルが同じベッドで寝るなんて事は恥ずかしいことであってはならないことだった。
 少し離れようと左をみれば、そこには父であるライが眠っていた。
 一応、ベッドはとても大きいため3人寝ることには寝られるがナツミはとうとう叫ばずにはいられなかった。

「なっ…な…」

 口をパクパクと動かしながら2人を交互に見やる。
 2人はよく似ていた。
 リバルは髪をほどいているせいか別人のようで一瞬誰かわからなかった。

 リバルがきて1日が過ぎた。
 今のところ世界に異変が起きたという連絡もない。
 まだ、猶予はあるのだろう。
 そう考えていると手が伸びてきて髪をすくった。

「起きたんだ…」
「おじ様、どうしてここに…」
「1人で寝るのは向こうの世界だけでいい」

 その言い方にナツミは何も言えなくなってしまった。
 リバルは私たちと会って今では穏やかで優しい人に変わった。
 おそらく、もともとはこっちだったのだろう。
 リバルは変わらない優しげな顔で暗くなったナツミに触れた。

「俺は、出来る限り過ごせる外の時間をしっかり目や耳、全てに刻み込んでいるから苦しくはならないよ」
「本当…?」
「あぁ、本当だよ」

 リバルが本当だという以上は、それ以上何も言えなかった。
 すると、寝ていると思っていたライが後ろから抱き締めてきた。

「えっ…」
「兄貴、俺はまだかわいい愛娘をやるつもりはない…」
「ほぅ…だが、力ずくで奪うという手もあるだろ?」

 一触即発という状態になりナツミは2人から免れるように布団の中へ潜り逃げたのだった。


 チハヤは起きた。
 ミナミが起きるよりも早くに…。
 ずっと手を繋いでいたのだろうか…手があたたかい。

「ミナミ、ずっと苦しい思いをしていたんだね」

 ミナミの心に大きな傷があることをチハヤは気付いていた。
 ずっと苦しかったのだろう…昔と比べて、やせ細り無理していたことが伝わってくる。
 ミナミの手を優しく包んでから離して起きあがると床に膝をついて眠っているミナミを抱き上げて寝かせた。
 そして自分はベランダにつながる扉をあけて外に出た。

「気持ちいい風だ…いつぶりかな。
 けれど…」

 ふとチハヤの目つきが鋭くなった。
 そして、遠くを見据える。
 まるで何かを見つけたかのように…。

「あまり、いい感じがしない…。
 また、なにかが目覚める。
 大神が外にでるという罪を犯したせいで。
 僕は…必ずミナミを守る。
 これ以上、彼女が傷つかなくてもいいように」

 チハヤは新たなる脅威が近付いていることを察しながら、ミナミを必ず守ることを誓った。
 月光がチハヤを照らし優しげな風がチハヤの髪を揺らした。
 チハヤは振り返ってベッドの中で眠るミナミを見ていた。
 
「君は僕が死んだら、今以上の深い傷を負うことになるだろうけれど、僕は君のそばにずっといられないんだ。
 だって、君は…」

 チハヤは悲しげに目を伏せた。
 時間が穏やかにゆっくりと過ぎていた。


 はるは、共有スペースであるリビングへと歩いていた。
 扉の前にきて、ふと立ち止まった。
 目の前に緑木がいる。
 告白のことが頭によぎって、はるは何も言えなくなってしまった。
 緑木も困った笑みを浮かべている。
 ちょうどそこに扉が開いてリークが顔をだした。

「あっ…リーク」

 はるがどこか安堵したような声音でリークの名前を口にした。

「ん?あれ?はると緑木?
 どうした?」
「なんでもない。
 ほら、入ろう。はるちゃん」
「うん…」

 ぎこちない笑みを浮かべなから、はると緑木は中に入った。
 その様子をリークは何かを理解したかのように小さく息をついて扉を閉めた。

「リーク、どこかに行こうとしてたの?」

 中に入ったはるが振り返りざま、リークをみて問いかけた。
 緑木も同じようにリークをみやる。

「えっ?いや、そうじゃないよ。
 誰もこなかったからな…誰か来ないかと思ってな」
「そうなんだ…。
 みんな起きるの遅いね」

 はるがそう言ってから2人が黙り込み沈黙がおちた。
 はるは、ちょっと気まずそうに頬を掻いてソファから立ち上がると「お茶を淹れる」と言って、キッチンへ足をむけた。
 はるがキッチンへ向かうとリークは緑木へ視線をむけた。

「んで?」
「えっ…?」
「お前ら、不自然すぎだ」

 リークにそう言われて緑木は口をつぐんだ。
 リークがずっと待っていることに気がついて緑木は観念したようにうなずいた。

「ちょうど、はるちゃんと扉の前で鉢合わせしたんだ。
 お互い気まずくて何も言えずにいた。
 それだけだよ」
「告白したから…か」
「そう…そのせいで困らせているみたい」

 困らせているのは仕方のないことだろうとリークは思いつつ、緑木が真面目に悩んでいるようだったので、それを言うのはやめておいた。
 本当は当たり前だと言ってやりたいところだったが緑木は緑木で悩んでいるのだ。
 そんなことはイヤミでだって言えない。

「お前が自然にしてやらないと、はるだってぎこちなくなるのは当たり前だ。
 少しは考えてやれよ…」
「うん…。
 リークはしないの?告白」

 緑木の言葉に今度はリークが口を閉ざす番だった。
 それはもちろん、はるのことが好きだし告白だってしたい。
 でも、それをしたことで今の関係がもっと悪くなってしまうことが怖い。
 きっと、はるは話しかけられれば普通に話してくれるだろう。
 けれど、きっと心境は複雑なはずだ。
 そんなはるを思うと告白だってするにできない。

「俺は…はるが好きだ…。
 けど…」

 リークがそう言いかけたところでガチャンと物を落とした音とガラスの割れた音がした。
 緑木がリークの後ろをみて目を見開いた。

「リーク…」
「っ!?はるっ!」

 はるは、そのまま背を向けて走り出した。
 リークは、そのすぐ後を追うように走り出していた。
 聞かせるつもりはなかった。
 いつまでも、はるが幸せで笑っていてくれるなら、それでいいと思って…。
 そして、はるが心に余裕ができたときに言おうと考えていた。

 緑木は落ちて割れたガラスのカップを拾っていた。
 ふと手の中にあった破片が滑るようにして落ち自分の手に切り傷が出来てしまった。
 深くきってしまったようで血が流れだした。
 血を見ながら緑木は悲しげに瞳を揺らした。
 血の出た方の手に拳を作り強く握った。
 傷はもう癒えて痛くはないが爪が食い込んで治っても結局、また傷を作ってしまった。

「はるちゃん、リーク…ごめんね」

 こんな風になってしまったのは自分のせいだ。
 そう思いながらも、このままではいられないと分かっている自分もいて、緑木の中では激しい葛藤が繰り広げられていた。

 そのころ、はるを追いかけていたリークがはるの手をとっていた。
 少し強引ながらも引き止めて、はるを振り向かせた。
 
「リーク…」

 はるの目は、戸惑いに揺れていた。
 どうしたらいいのか分からないという表情でリークを見上げている。
 そんなはるを見て、リークの胸中に罪悪感がうまれた。
 そして、抱き締めたい衝動にかられた。

「はる、ごめん。俺は…」

 はるに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 なのに、言えなかった。
 あの言葉はなかったことにしてくれ…なんて。
 だって…俺だって、はるが好きだ。
 だって、なんてただの言い訳かもしれない。
 けれど、はるが好きなんだ。
 どうしようもなく…。
 毎夜毎夜に狂おしいぐらいに、はるの血を求めている自分がいる。

「リーク、…血がほしいの?」

 はるは潤んだ瞳で少しふるえながら言ってきた。
 その言葉にハッとした。
 そして、こんな時まで血を欲している自分に腹が立って舌打ちをした。
 苛立たしさに表情が歪む。
 おそらく今の自分は瞳の色が変化しているだろう。
 今にも、はるに牙をたてて血をすってしまいそうだ。
 激しい喉の渇きを感じる。

「気にすんなよ…別にこれぐらい。
 それよりも今は…」

 はるのことだと言おうとしたとき、はるが腕を差し出してきた。
 驚いて、はるをみると優しく少し強張った表情で笑っていた。

「私は…大丈夫だから…。
 リークの方が心配だよ。
 だから、のんで…」

 リークには限界がきていた。
 もう我慢は出来そうになかった。
 最近は血を飲んでいない。
 そのせいか飢えが激しい。
 はるの細くて白い腕を自分の口元まで持っていくと舌を這わせてから牙を刺した。
 はるから、小さな声で痛いという言葉が漏れ出た。
 はるの甘い血が喉の渇きを潤していく。
 とんでしまいそうになる理性を、なんとか繋いでいた。
 だが、はるの一言でその気持ちも一気になくなってしまった。

「リーク、我慢させてごめんなさい。
 私がしっかりしないから…。
 だから、好きなだけ飲んで…私には、これくらいしか出来ない」

 その言葉を最後にリークは自分の理性をヴァンパイアの本能にすり替えていた。

「リーク、緑木、ごめんなさい。
 2人を苦しませて…」

 血が体内からリークへと流れていく感覚が体全体を覆っていた。
 今のリークには何を言っても聞こえていないだろう。
 今は血に酔いしれて、とにかく血を求めて飲んでいるから。
 少しずつ意識が遠のいていた。
 瞼が重くなって、体も重くなり立っていられなくなってきた。
 そして、はるは意識をなくした。
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