小説内容2
□第一話
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俺は大神という役割を一時的とはいえ放棄して外の世界に来てしまっていた。
最初は、とても怖かった。
俺が神天世界から出てしまったら、この世界そのものの秩序が狂ってしまう…そう父に教えられていたから。
でも外に一歩踏み出してみれば、そこは暖かな光によって包まれる場所だった。
俺が大地の世界の神聖樹という限られた場所でしか感じられなかったものを今、感じている。
全身で、それを全て吸収するように大きく息を吸った。
今、来ているのは光の世界。
俺の姪であるナツミがおさめることになった世界だった。
「俺は本当に出てしまってもよかったんだろうか…」
淹れてもらった紅茶を飲みながらリバルは心配そうにつぶやいた。
神天世界に存在だけしていればいい大神という名の人形であり続けている俺は怖くなっていた。
たかが、そこに大神として存在する人形…しかし、されど人形なのだ。
理由もなく閉じ込めるはずがない。
不安な表情を隠しきれなくなった俺に弟のライが肩を叩いてきた。
でも、それは決して痛いものではなかった。
「少しぐらい、いいだろ。別に…」
相変わらず不器用な物言いだった。
昔と全く変わらない…昔も何かあると、そうやっていってきた。
それがライの優しさだろう。
こいつを見ていると本当に闇の世界の王には向いていないと思う。
そして、こんなひどいことをした俺さえも許してしまうのだから。
俺は自分が感じていた以上に罪悪感を感じていた。
ミナミのように敵意をあからさまに向けてくれれば、こちら側もしたことがしたことなのだからと割り切れるのに、ライの方で割り切られてしまっては、なかなか気持ちの切り替えができないというものだった。
そう、こっちに来てから、もう1時間程度経っている。
その間、ミナミは俺を見ると敵意を露わにしていた。
他の女が宥めると何も言わず疲れ切っているチハヤを部屋に連れていった。
「おじ様…」
ぼんやりしているとナツミが声をかけてきた。
ナツミにこんな風に呼ばれるのは、本当に久しぶりで懐かしいことだった。
少し嬉しく思う。
「大丈夫だからね…ミナミも、きっとわかってくれるから」
その言葉でナツミがミナミの態度を気にしていることが分かった。
だからといってミナミが悪いわけでもなく咎められずに申し訳ないという気持ちでいるのだろう。
「いや…別に気にしてはいないよ。
それだけのことを俺はしてきたから」
リバルがそういうとナツミは黙ったまま項垂れてしまった。
そんなナツミを責めることなく、リバルは柔らかく微笑んで見せた。
微笑むリバルを見てナツミは、リバルが本当は優しい人なのだと思った。
温かい心の持ち主だと…。
「そういえば…スイル」
リバルがふとスイルに微笑みを消していった。
不意に名前を呼ばれスイルはゆっくりと顔をあげリバルを見据えた。
あまり気持ちのいい感じはしない。
むしろ不快だ。
あんな全員がいるところで堂々とナツミに気持ちを告げた。
俺が想いをよせていると知っていながら…。
「さっきも聞いただろうが、お前だけではないよ。
ナツミを好きなのは…」
「本気で言ってんの?」
「本気」
「ふぅん…まぁ、負けるつもりはないから」
スイルの目が険しくなり、リバルを睨んだ。
誰が相手だろうと、この気持ちは消すことはできないし譲りたくない。
リバルは自分と似ているところがあった。
ナツミを手に入れるためならなんだってするし希望だとしている。
その気持ちは分からないわけでもないが、だからといってお人好しにはなれない。
「あの…」
ナツミがなにかを言おうとするが、とても言える雰囲気ではない。
困っているのが分かると、はるとシズカは口々に言った。
「なつみんが困ってるよ!!」
「少しは考えろよな…」
2人の言葉にナツミは救われたような気がした。
スイルとリバルの会話を聞いているといたたまれなくなる。
自分のせいでだなんて思うと2人に悪い気がしてならない。
「…えっと、そういえば、まひろさんやキリクさんは?」
はるが空気を変えるように次の話題を口にした。
「あー、禁術のことで話すって」
「さすがに、あそこまでになると術者の力が必要だよ。
僕たちでは、ほぼ抑えることは無理だから」
リークと緑木の言葉を聞いて狂ったキリクのことを思い出した。
まるで別人のようになってしまったキリクは自分の願いのために身を捨てていた。
力も膨れ上がり、おそらくプロテクションをはってもないに等しかっただろう。
はるは、独りでに身震いをしていた。
「キリクの奴、あそこまでなってるなんて…」
「リークは知ってたんだ?」
「それは、当たり前だろ。
俺だって闇だし、王につかえる者だし…」
リークがそう言うと緑木はケラケラと明るく笑って、そうだったと言った。
リークの額にイライラとした様子が浮かび上がり拳をブルブルとふるわせた。
「てめぇ、俺をなんだと思ってたんだぁ!!」
「なんだろ?」
「バカにしてんなよ〜!!」
緑木は真面目に言っているようだった。
そんな緑木にリークは盛大にため息をつくばかりで、やれやれと首をふった。
緑木のどこか抜けている感じは昔からだから、リークもだいぶあしらうのがなれているようだった。
周りのみんなは、はるをのぞいて考えたことは誰もが同じで、大変だなぁとリークをみて、しみじみと思っていた。
とはいえ、緑木もやるときはやるものだ。
自分のするべきこととかは、ちゃんとわきまえている。
「楽しいな。お前たちといると…」
リバルはそういって声を出して笑った。
今までに見たことのない表情で、みんなは動きを止めた。
そんな周りに気づいて、リバルは不思議そうな顔をした。
「どうした?」
周りが何も言えないでいると、はるがしどろもどろに言う。
「あっ…いえ、そのリバル…さんが笑った姿って見たことなかったから…意外というか」
「俺だって笑うよ」
「あっ、はい。
それは分かっているんですけど…」
はるは、そう言ってから周りを見渡した。
みんなが同じように考えていることが分かると、また少し言いよどんだ。
はるが言いにくそうにしていることに気付くとナツミがリバルに言った。
「おじ様は、めったに笑ったりしないから…。
だから、きっとみんなびっくりしてるんだよ」
「そうか…俺も、不思議だよ」
リバルは幸せそうに笑っていた。
柔らかい表情や口調には親近感がわいてくる。
「俺は、なんで外に出られたんだろうな…ずっと、出られなかったのに」
「おそらくにすぎないが…一時的に結界が緩んだんじゃないのか?
激しい力のぶつかり合いとキリクの禁術による力で世界が結構な損傷をうけている。
おそらく損傷をうけたその中に、お前を閉じこめるための結界がなされていたと考えるべきだろう」
ライの言葉に、リバルは一瞬黙り込んで考えていた。