小説内容2
□第五話
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しかし、まひろが思い出したようにハッとした様子でリバルを見た。
リバルを見た瞬間、ミナミのことが頭をよぎったのだ。
まひろの視線に気が付いたリバルが薄く口元に笑みを浮かべた。
そして腕を頭上まで持ち上げると指をパチンと鳴らした。
その時ミナミはチハヤの閉じ込められている水晶の前に来ていた。
そっと手を水晶にあてチハヤの名前を呼ぶ。
海原の力でできたこの水晶は、そう難しい術でつくられているわけではなかった。
リバルへの怒りで自分を見失っていなければ、すぐに気づけただろう…そんな後悔が自分を襲う。
リバルのことだから、自分が気づかないことを知っていた上でやったことだろうとは容易にわかった。
ミナミは落ち着いてチハヤを解放するべく術をとこうとしたとき水晶に亀裂がはしった。
驚いてミナミが距離をおくと水晶は粉々に砕けチハヤがその場に倒れこんだ。
ミナミは、なぜ勝手に水晶が壊れたのか理解できないまま解放されたチハヤにすがるようにしてそばに駆け寄り抱きしめた。
「チハヤ!チハヤぁ…」
大粒の涙がミナミの頬を転がり落ちていく。
やっと…やっとチハヤを救うことができたのだ。
チハヤを自由にすることができたという安堵しか今のミナミにはなかった。
ミナミが声をたてて泣く中、チハヤの瞼がゆっくりと持ち上げられた。
「ミ…ナミ?どうして泣いているの…?
あぁ…そうか、僕はまた眠らされていたんだね」
ミナミの涙が自分の頬にポタポタと落ちてくる。
そんなミナミに申し訳なさそうな顔を向けながら、困ったようにチハヤはミナミの頬に手をよせた。
「ごめん…ミナミ」
何も言わずに首を横に振るミナミをチハヤは起き上がると優しくそして強く抱きしめた。
ミナミがどれだけ苦しく辛い思いをしたのかはわからない。
けれど、ミナミがこんな風に泣くときはよっぽどのことだったのだろう。
それがわかるチハヤの心には申し訳なさが募るばかりで、やるせなさすら感じたのだった。
指を鳴らし終えたリバルは地に腕をおろし息をついた。
リバルを抱き起こしているロイトがリバルを心配そうに見つめる。
そんなロイトにリバルは苦笑した。
「なに…なんでもないよ。
今までのことを詫びるに値しないが少しは返してやらないとな…」
「ミナミのことですか?」
「あぁ…俺も今までいろんな奴を駒として使ってきた。
お前もテナもシオルも…ライでさえ、な」
リバルが目を細める。
まるで今までのことを思い出しているかのようだった。
そして、ゆっくりと目を閉じて狂っているキリクに目を向けた。
「俺はいろんな罪を犯した。
お前の主のために殺したいのなら殺すがいい、キリク」
リバルがキリクの名前を口にしたことで、みんなが一斉にリバルが目を向けている方を向いた。
みんなの顔がキリクとは思えない存在を目にして歪んだ。
まひろの目つきが険しくなる。
「これは…闇の禁術」
キリクの体をのっとった禁術は、まひろを見ると敵意をあらわにした。
今までのように口元に笑みを浮かべることなく自分の力をためるとまひろに闇の力を放った。
「禁術がこうなってしまえば…乗っ取られてしまったら、この本体の人はもう助からない!!」
まひろは禁術を打ち消す術をつかい向かってきた闇の力を消し去った。
禁術にたいこうできるのは、その術をよく知った術者であるまひろだけだった。
「まっひー、キリクを助けて…」
「ナツミ…ごめん、無理に近いよ。
ここまで体も心も明け渡しちゃっていると…キリクっていう人は、もう存在していないかもしれない」
ナツミが絶望を感じた顔をしていた。
キリクは大切な人だ。
幼馴染みで、ずっと守ってもらって…なのに、何も返せないままキリクを殺すことになるのだろうか。
そんなこと…したくはない。
「お父様、私がキリクをとめます」
「ナツミ?」
「…おじ様やみんなは離れていて。
スカル、スイルを頼みます」
ナツミの言葉にスカルはうなずくとスイルに肩を貸して、その場から距離をとるようにして離れた。
そして扉のそばまでさがりロイトはリバルを抱え、かろうじて動けるテナはシオルを抱きかかえて離れた。
キリクがナツミと対峙する。
「あんまり見せたくはなかったけど…キリクを助けるためだから」
ナツミの周りに闇の力が渦をまきはじめた。
普段は光の力の方が闇の力よりも少し勝っているが今となっては完全に闇の力が光の力を凌駕していた。
ナツミの姿がだんだんと闇の姿に変わっていく。
ライもリバルも、その様子を静かに見ていた。
他のみんなは初めて見るその姿に息をのんだ。
「な…つみん、なの?」
「んっ?…あぁ、俺?」
闇の言葉にはるがカチンと固まってしまい、それから頭を抱えた。
「い、い、いやぁっ〜〜〜〜!!!!」
「うるさい!はる!!!」
「シズカさん!だ、だって!!
なつみんが男に〜〜!闇なつみんだぁっ!!」
「お、落ち着いて」
ギャーギャーとわめくはるをシズカとまひろがなんとかなだめた。
はるは両頬を両手ではさみ信じられないという表情を浮かべた。
そんなはるを横目で見つつ闇はため息をついた。
「…で、次はお前が相手か。
疲れる」
黒妖剣をかまえつつ闇はそういった。
キリクが戸惑いの表情を見せた。
狂う前にナツミとは戦わないようにと強く願っていた。
けれど今は禁術によって狂わされている。
禁術はすべてを破壊し殺戮を好む。
キリクの願いと禁術の意思が混ざり合い今、目の前にいる闇をどうするべきか迷っているようだった。
「お前、禁術だろ?さっさとキリクに全てを返せ…」
闇が禁術を睨み据えるとキリクの表情に迷いが消えケタケタと笑い始めた。
そして禁術が初めて口を開いた。
「我が名はアガレス。
闇の禁術をつかさどるは、この俺…。
きさまらのいう獣と同様の存在」
「ほぅ…なら、消えてもらおうか。
そいつは俺にとって大切な存在。
ジャマをするな」
「次の闇の王…いや、姫。
こんなものに気を配るとはさすがは混血。
バカで浅はかだ。
しかし、いつまで続くか…そのきれいごとは!!」
アガレスの目が鈍い光を宿した。