小説内容2
□第五話
2ページ/4ページ
目を開けるとリバルの顔がそこにあった。
どこか悔やんだ表情を浮かべている。
「真実…本当は見せるべきものではなかった」
辛く悲しい記憶だからだとリバルは言う。
私は悲しい記憶など、いくらでもみてきた。
自分が人間ではなかったという酷い悲しみも味わった。
だからだろうか…リバルのみせた真実が、リバルが術をかけてまで私の中に押しとどめた記憶がそれほど悲しいものとは思わなかった。
きっと、母はこう死んでいったのだろうとか父がどうやって他世界の王や王妃たちを殺していったのかを想像していたから。
リバルの表情はとても暗い。
きっと、リバルだってこんなことをしたくはなかったはずだ。
大神であるがゆえに世界に縛り続けられている…そうでなければ、ライを妬み暴走などさせはしなかっただろう。
だれが悪いわけでもない。
リバルはリバルで悲しみを胸の奥底に秘めていたのだ。
そして、母の言葉を思い出す…。
リバルを助けてほしい…その言葉が再び聞こえた気がした。
「みせてよかったんだよ…おじ様。
私は、おじ様のしたこと酷いと思う。
だけど、おじ様も辛かったから…」
「ナツミ…」
リバルが手をのばしてくる。
その手が触れそうになったところでナツミが険しい顔つきになる。
そして辺りを見まわして、すぐにリバルへと目を向ける。
ナツミは強く黒妖剣を握り締めていた。
「どうした?」
「おじ様!キリクと神様2人をここにっ!!」
「なぜ?」
「このままだとマズいから!!」
ナツミの早くという言葉にリバルはうなずいて指をならした。
すると、その場に現れたのは目をおおいたくなるほどの傷を負ったシオルとテナの姿だった。
そして、2人の他にもう1人の姿があった。
それは元の姿が分からないほどに変わってしまったキリクの姿だった。
まるで化け物のようなキリクに、その場にいた誰もが息をのみナツミは一瞬、躊躇いをみせつつ黒妖剣を握りしめた。
リバルがシオルとテナに寄り声をかける。
「シオル、テナ大丈夫か…?」
2人の変わり果てた姿に戸惑いを見せつつリバルが口にする。
そんなリバルに2人は驚きながらも、謝罪した。
「申し訳…ありません、リバル様」
テナがそう言いながら体を起こそうとするのをリバルは首を横に振って制する。
シオルは、オオガマをたて杖のようにすると体を起こした。
「こいつ、ヤバい」
「シオル、無理するな…。
だが…禁術か」
リバルがキリクに目を向けるとキリクの顔にニヤリと笑みがうかんだ。
ナツミがすぐに危ないということを察するとリバルを庇うようにして前にでた。
そして黒妖剣に光の力をまとわせ走り出す。
キリクもニヤリと笑みを浮かべたまま向かってきた。
キリクを刺そうとして黒妖剣を繰り出し自分もキリクの攻撃にたえようとかまえる。
しかし痛みはナツミを襲うことなく、ナツミの繰り出した黒妖剣もキリクに刺さることなく空をさいた。
キリクは守っていた。
禁術にのみこまれながらも、のまれる寸前に願ったナツミを傷つけないようにするということを…。
すり抜けていくキリクにナツミは小さく切なげな声で名前を呼んだ。
しかし、キリクにその言葉は届くことはなかった。
悲しみに心を揺らしている場合ではなかった…キリクの狙いがリバルだと気づきナツミは叫んでいた。
今のリバルはテナとシオルを巻き込まないように力を使えない。
そんなところを狙われたら、リバルは…。
キリクの笑みが深まり、リバルも驚きに目を見開かせていた。
突然、ロイトが剣を振り下ろすことなく止めた。
剣が振り下ろされるだろうと予想していたシズカは訝しげに警戒を解かないままみていた。
ロイトが1人つぶやく。
「リバル様っ…いけません」
シズカは、その言葉に苛立ちをみせる。
自分たちと戦っているのに、まだ余裕をみせリバルのことを考えていると思うと腹が立って仕方ない。
「てめぇ…うちをナメんな!」
「…女、うるさい。
俺はお前たちの相手をしている暇ではなくなった」
ロイトの言葉にライが眉をひそめた。
それ以上、何かを言おうとするシズカを止めるようにロイトが続けて言った。
「お前たちの友人もリバル様も死ぬぞ」
「どういうことっ…」
はるは、プロテクションをけし信じられない思いでロイトを見た。
そんなはるに目を向けロイトは「言葉通りだ」というと次の扉に手を向けた。
すると扉がひとりでに開きロイトは、ライたちをおいて走り出していた。
戸惑っていたはるたちだったが急いでロイトを追った。
扉に近づくにつれ血の匂いがライたちの鼻を刺激した。
そして、みんなが扉の向こうで目にしたものは深々とリバルの腹に刺さった刃と血が噴き出しているリバルの姿だった。
ロイトがすぐにリバルに駆け寄っていく。
「リバル様!」
「チッ…しくじった」
「兄貴…」
苦痛で顔を歪ませるリバルを見ながらライがそうつぶやいた。
今まで、ずっと言わなかった…兄なんて、幸せを奪っていったあの日から思いたくなかった。
自分を狂わせた奴のことなど…。
ライの言葉にはるがクエスチョンマークを浮かべた。
そして、よくよく考えてから顔をひきつらせてライとリバルを交互に見ていった。
「ま、まさか…ライさんのお兄さんだなんて言いませんよね?」
はるの言葉に逆にライが不思議そうな顔をしていった。
「リバルは俺の兄だが?」
「……………はっ?えっ?えぇっ〜〜〜!!!????」
はるの驚きの声が辺りに響く中シズカもじっとライを見ながら驚きの言葉を漏らす。
「マジかよ…」
「俺も初めて聞いた…」
スカルは目を見開かせて何度も瞬きを繰り返している。
リークも緑木と顔を見合わせて、お互い驚きを隠せないでいる。
まひろも口をぽっかりとあけ、なかなか状況をつかめないようだった。
ライは、そんなみんなの様子を見て首をかしげるばかりだ。
「一応、少しは似ているとは思っていたんだが…」
「似ててもまさか兄弟だなんて思わない!!」
「そうか…」
まひろの反論の声にみんながうなずくのを見てからライは、もう一度「そうか」とつぶやいた。
みんなは、そんなライを呆然とした様子でみていた。