小説内容2
□第五話
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黒妖剣はリバルの喉元をとらえたまま、そこから先に動かなかった。
ナツミはもとの光の姿に戻っていた。
頬に冷や汗が流れ落ちる。
「な…に」
「ナツミ…」
ドキリと心臓がはねた。
リバルに呼ばれることが、なぜか懐かしく感じる。
わけのわからない状況を振り払うようにしてグッとナツミは手に力をこめてリバルの喉元に黒妖剣を押し付けた。
血が少し流れて、ナツミはリバルの血の匂いに驚いた。
ライの血の匂いに随分と似ている。
それにリバルの血の匂いを遠い昔…自分が幼い頃に嗅いだことがあるきがする。
そのとたんズキリと、またいつもの酷い頭痛に襲われた。
それも、いつもと比べものにならない痛さだ。
思わずうめいて、その場にへたり込んだ。
手から力がぬけ黒妖剣が地面に落ちる。
「ナツミッ!!」
傷がだいぶ癒え走れるようになったスイルが近付こうとした瞬間、リバルが大神の力を使った。
「近付くな、白銀の王よ…。
大神の命令には逆らえまい」
リバルの言葉通り純血種といえど、スイルも大神の命令には逆らえなかった。
血の縛りによってスイルは体の自由を失った。
「ナツミッ…っ…」
「少しそこにいろ…殺しはしない」
「なにを…」
リバルの言葉にスイルは呆気にとられ、それ以上何も言えなくなった。
リバルの目的はナツミを殺すことで血肉を得ることではなかったのか…。
苦しむナツミのそばにリバルが寄っていく。
なぜかリバルは後悔をしているような顔を浮かべている。
そして、驚きの言葉をリバルは口にする。
「苦しませて、ごめん…ナツミ、俺の姪よ」
リバルの言葉にスイルがナツミよりも早く反応し眉を寄せる。
「姪だって?」
「そう。俺とナツミは、おじと姪の関係…血縁者だ」
リバルの手がナツミの頬に添えられる。
ライとよく似たリバルは愛しげにナツミをみていた。
「おじ…様っ?」
「そうだよ。これが、お前の知りたがっていた真実。
その頭の痛みは俺とお前が血縁者だということを記憶から消しているため…」
リバルがおもむろに自分の手首に牙をうめた。
瞳が銀色へとかわり、その目で1度スイルをみた。
スイルは、これからリバルが何をしようとしているのかを理解し小さく舌打ちをして顔を逸らし目を閉じた。
スイルがそうしたのをみてから、リバルはナツミを自分に向かせて口付けをかわした。
「やっ…」
まだリバルが自分のおじだと理解しきれていないナツミはリバルからの血を拒んだ。
しかし、リバルはやめることなく自分の血をナツミに流しこんだ。
リバルの血が口の中に広がる。
ライよりも少し甘く、けれど似ている味。
なぜか涙が溢れこぼれた。
頭痛がゆっくりとおさまっていく。
おさまっていくのと同時に人間界に行く前の記憶がもどってきた。
そのころ、私はまだ4歳だった。
きっと、その前からもリバルに出会っていたんだと思う。
『きたのか』
私は、お父様につれられて神天世界にきていた。
お父様は、あまり会わせたくないようだったけれど、お母様が何度も顔を見せなさいと言っていた。
自分の兄でもあるのだから…と。
お母様は、おじ様の苦しみを知っていた。
神天世界からでられず苦しんでいることを…。
リバルが自由なライをどこか憎んでいるということも。
『おじしゃまぁ〜!!』
リバルは飛び込んでくる幼いナツミを抱きとめて抱き上げた。
その顔は、とても幸せそうでライも困った笑みを向けていた。
『ライに似てなくてよかった…』
『兄貴、なにいってんだよ…失礼な奴だな』
心底ホッとしたように言うリバルにライは苦笑気味にいった。
そして思い出したようにリバルをみていう。
『ここにきたこと、兄貴は覚えてるか?』
『えっ?…あぁ』
そう、それは初めてライがカエデと共に生まれたばかりのナツミをリバルに見せにきたときのことだった。
ライがナツミを抱きカエデはリバルを目にすると優しく穏やかな笑みを浮かべた。
『リバル様…じゃなくて、お義兄様っ!!』
駆け寄ってきたカエデをリバルは抱きしめて挨拶を交わした。
カエデは色々と考えていた。
リバルの心を少しでも和ませ神としての正しい心を持てるようにどうしたらいいかを。
抱擁でも握手でもいい…人の温かさを知ってくれたなら何か変わってくれるような、そんな気がした。
そのことをライは思い出してリバルにいう。
『カエデ、最初は全然兄貴のこと義兄として見れていなかったんだよな。
神だからって、緊張しまくってるし…ハハハ』
『俺は、その壁のようなものが嫌いだ。
ライ…でも、この子は違う。
ナツミはそんなこと関係なく接してくれる。
俺は、それが嬉しい』
本当に幸せそうに微笑むリバルが、そこにはいた。
そして場面がかわった。
お母様が私を抱きかかえて走っている。
周囲は炎で荒れ狂いヴァンパイアが死んで多くの灰が飛び交っている。
お母様もあちこちに傷をおい、すすだらけだった。
それをみて、この場面が人間界にとばされる前だと分かった。
ライが狂いながらも他の世界の王に殺されそうになるカエデを助け、そして私と別れを告げ他の世界の王を殺していった。
お母様は、その場から逃げるようにして走っていた。
でも、ふと途中で足取りをゆるめた。
頬を涙で濡らしながら私をみていった。
『あなたを人間にして、この記憶もなくします。
あなたには幸せになってほしい。
そして…もしまた、こちらの世界に戻ってくることが出来たのなら…私では救えなかったリバル様の心を助けてあげて…。
ライをくるわせたのは、あの人だけれど、それでもかわいそうな方だから…どうか…』
『お母様…』
気付けば、お母様は刃物を片手に持ち私を地面におろして何かを唱えた。
そして、泣きながらも優しい笑みを私に向けて自分の心臓を一突きした…。
その瞬間、私の周りに光の陣が浮かびお母様は安心したように笑った。
『よかっ…た。術…成功…ね』
カエデが途切れ途切れに言うのを聞いていると背後に人の気配を感じて振り向いた。
そこにはリバルが立っていて、ジッとカエデをみていた。
『リ…バル様。この子を…人間、界へ』
『もう術を使ったのか…』
カエデは力なく微笑んだ。
そして体が光輝きだした。
『どうか…あなたの心が光で溢れますように…』
リバルに向かってカエデは笑う。
幸せな時を奪ったリバルを憎むこともなく、ただリバルを思って…。
目を閉じる母にナツミは泣きながら駆け寄った。
けれど、ナツミの悲しげな声は届くことなくカエデは灰に姿をかえた。
『お母様!お母様ぁ〜!!』
カエデの灰と着ていた服を握りしめながら泣き叫ぶナツミをリバルは見下ろす。
(どうか、あなたの心が…)
『憎めばいいものを…』
リバルはカエデの言葉を思い出し1人つぶやき目を細めるとナツミに声をかける。
『さぁ、ナツミ…』
リバルがそばに寄ってくると、いつものようにナツミを抱きかかえた。
そしていった。
『お前を人間界には行かせたくない…だけど、そうもいかない。
愛しているよ。
人間界に行ってしまっても、お前を守るから…だから、安心して。
また…会えるといいな』
そこで初めてリバルが涙を流した。
『リバル様…』と手をのばそうとしたところで私の記憶は終わった。