小説内容2
□第四話
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一方、はるたちの方ではライが手をリークと緑木に向けていた。
緑木が訝しげにライを見ているとリークがハッとして声をあげた。
「緑木、よけろ!!
ライが特殊能力の雷を放ってくるぞ!!」
「雷!?」
緑木が驚いている間にライの手にピリピリと雷がはいはじめた。
はるが急いで自分の周囲にプロテクションをはり防ぐ態勢に入った。
それをみた緑木とリークはうなずきあうと距離をとるようにして離れた。
「…いけ」
ライがそうつぶやいたとたん、雷が竜のごとく放たれ3人に向かってほとばしった。
はるに向かった雷はプロテクションによってかき消され、リークは一体化している獣の力で、緑木は神聖樹より得た力でそれらを止めた。
「っ…ライさん!!」
気付けば、はるはプロテクションを消しライのもとへ走っていた。
自分でも、よくわからない。
けれどライをとめたかった。
生き返ったライをみてナツミは驚きと共に嬉しそうだった。
なのに、ライはまるで自分たちのことなど忘れてしまっているように力を放ってくる。
そんなライをナツミは悲しげにみていた。
もう、あんな顔見たくない。
きっとライもどこかでこれをみてナツミのもとへ行きたいはずだ。
だから、少しでも残っている自我にはるはかけようと思った。
たとえ自分の身が、闇の人たちに触れられた草花のように枯れてしまってもいい…この命がつきることになっても止めたかった。
「はる!!」
「危ないよ!」
2人が私をとめようと口々に叫ぶけれど、もう後戻りはできない。
大切な人たちのために私も何かしたい。
なつみんが緑木を助けるために自分の身をなげうってくれたように…。
はるは自分の手をライの手にのばした。
そしてライの手を両手で包みこむ。
そのとたん、ライの手に雷が放電しはるへと流れた。
はるの断末魔があたりに響く。
「あぁっーー!!
…っ、ラ…イさん!!」
わずかな力で自分を保護するようにプロテクションをはった。
全ての雷を防げないものの、わずかな電流へと変わる。
そのおかげで言葉を紡ぐことが出きるようになった。
「ライさん、聞こえて…ますよね?
もう、やめてくださいっ。
ライさんはリバルさんに操られたままでいいんですか…?
ライさんは、そんな風に誰かに操られるような人なんですか!?
私の知っているライさんは、とても強くて…なつみんのこと大切にしている人です!!」
「うっ…っ」
ライの顔が苦悶に歪んだ。
はるは、しびれる体を動かすようにしてライの目をじっと見つめた。
もうすぐで、きっとライさんに届くはず…そう思った。
「なつみんは今リバルさんと戦っているはずです。
なつみんのことだから、きっと無理してます。
スイルさんやみんなを守るために…。
ライさん、なつみんを助けてください!!
もう…なつみんを…」
苦しませないで…その言葉がかすれて言葉にならない。
はるはライの力を受け続け、すでに限界がきていた。
ライの手から、はるの手がスルリと離れその場に座り込んだ。
ぼやける視界の中、目の前に立つライを見上げる。
「…ナ、ツ」
「えっ…」
ライがつぶやいた言葉に驚いたように、はるは声をあげライを見続ける。
ライは手で目をおさえ苦しげにうめき声をもらした。
そして、何度か苦しげな声をあげた途端ものすごい量の雷を放電した。
「はっ…はっ…っ、はる?」
「ライさん!!」
自我がライに戻ったとわかると、はるは喜びの声をあげた。
顔を輝かせ、嬉しそうにライをみる。
ライは大きく息をついて辺りを見回した。
リークが獣と同化しているし自分までアリウスと同化している。
緑木がヘニャリと顔に疲れた笑みを浮かべた。
そして、リークと緑木がライとはるのもとに走り寄ってきた。
「ライ!!」
「んっ…リーク?
それに緑木…」
「ライ、戻ったんだね。
ライを戻すの大変だったんだよ。
はるちゃんが一生懸命になってたんだからな…」
そういわれてライは目の前にへたり込んでいるはるに視線をうつした。
はるは恥ずかしげに静かに笑って「戻ってよかった」と言った。
はるの手は酷いヤケドをおっており小さくふるえていた。
そんな、はるの手をリークがしゃがみ込み優しくつつんだ。
「はる、ごめん…。
俺、医者なのに」
「ほおっておけば治るから大丈夫だよ」
はるが優しく言うがリークの目つきは険しくなるばかりで自分の力のなさへの怒りとやるせない気持ちがうずまいていた。
そんなリークをはるは覗き込み困ったような顔をした。
すると横から緑木が現れ、はるの手に自分の手をかざすようにして治していった。
だんだんとはるの手が治っていく中、リークはごめんと言うばかりで目線をはずした。
「はる、ありがとな」
「いえ…ライさん、やっぱり強くて…。
一瞬ダメかもって思ったけど私の声、届いてよかったです」
「あぁ、聞こえた。
それが終わったら急いでナツミのもとに行こう」
はるが大きくうなずき緑木が治ったことを告げるとリークは纏っていた獣の力をといた。
そして、次の扉へと向かって走り一気にあけるとそこにはミナミたちがいた。
イアルとミナミの剣が何度も交わる。
まひろがその後ろから援護をしていた。
上を見上げればシリウスとカイウスも激しい戦いを繰り広げている。
「さて…と、あいつには世話になったからな」
「ライ、何する気なの?」
「みていればわかる」
緑木が不思議そうな顔をする中、ライはミナミに手を向けた。
瞳が金色に輝いたと思うとミナミが壁に打ち付けられた。
ライが何をしたのかわからず、はるたち3人がキョトンとしているとライは口元に笑みを浮かべた。
「目に見えない力を少々使った。
これでも元神だからな。
それぐらいはできる」
ライの声に気が付いたイアルが表情までには出さないものの瞳に嬉しげな光をたたえライのもとに素早くきた。
はるたち3人とイアルの近くにいたまひろが唖然とする。
(ライのことよっぽど好きなんだなぁ…)
みんなは同じようなことを心の中で思った。
まるで犬が飼い主をみつけて喜んでいるようだ。
ちぎれんばかりの勢いで尻尾を振っているように見える。
「ライ様!!」
跪こうとするイアルにライは手で制止をするとニコリとイアルに微笑んだ。
まひろもライのもとに駆け寄る。
「ライさん、戻ったんだ!…はるちゃん、大丈夫!?」
「大丈夫だよ!まひろさんは?」
はるの問いに困ったように微笑みながらも大丈夫と言ってみせた。
そんなまひろが無理しているとわかっているから、はるも切なげに微笑むしかできなかった。
まひろは苦しんでいる。
体に傷をおったからではない。
精神的にだ。
ミナミを止めたい…けれど戦わなくてはならない。
それが辛い。
まひろの想いが手に取るようにわかるようで、はるも苦しくなった。
まひろよりもミナミといる時間は少なかったといえど今も変わらない大切な友人の1人だ。
だから平静でいられるはずがない。
そんなまひろとはるの胸中を察したようにライが目を伏せる。
しかし、すぐにユラリと立ち上がるミナミに目を向けた。
イアルとリーク、緑木に目くばせをして手を出すなという合図を出した。
相手は滅命剣を持っている。
3人をこれ以上、危険な目に晒すことはできない。
それにイアルの治りきらない切り傷も目立つ。
血が止まりきっていなくポタポタと滴っている。
滅命剣を取り上げてから3人に手伝ってもらえばいい。
「ミナミ、ロイトとの戦いのときは世話になった。
いい一撃だった」
いい笑顔で嫌味を言うライにミナミは鼻をならす。
「そう…よかった」
「あぁ…だから今度は礼をしようか」
ライがそういうのと同時にミナミは滅命剣を手に走り出した。
ライは笑みを浮かべているだけで動かない。
「チハヤは…」
ライの言葉にミナミの剣はライに刺さることなく寸前で止まった。
ミナミの青紫色の瞳が光輝きながら驚きに目を見開かせている。
「お前はチハヤを助けにきたんだろ」
「なんで…」
「操られていながらも、お前とリバルの会話は聞こえていた。
今、リバルは戦っているはずだ。
こんなことをしているよりも助けに行くべきなんじゃないのか?」
ライがそういうとミナミは下唇をかんだ。
確かにチハヤを助けるために、ここまでやってきた。
でも、リバルがあと少し力を貸してほしいと言ってきたのだ。
あんなリバル初めて見た…確かにイヤな奴だけど、あんな顔をみてしまったら…。
「私は…チハヤのためにここまでやってきた。
でも…私は!!」
途中で投げ出したくない…テナの気持ちに添えなかった自分ができることは今、みんなをリバルたちのもとにいかせないこと…。
だから、私は…。
ミナミは滅命剣をふるった。
間一髪、イアルがライの前に出て滅命剣を自分の剣で止めた。
「きさま…」
イアルが怒りをあらわにする。
ごめん…チハヤ。
もう少し待っていて…やっぱり、無視なんてできないみたい。
本当は、リバルなんか無視してチハヤを助けにいきたいんだけど…。
チハヤ、もし私が助けにいけなくなっても…きっと、みんなが助けにいくはずだから。
だから、ごめんなさい。
ミナミはすべての力を解放してライに斬りかかっていく。
「ミナミ、どうして!」
まひろがわけがわからないというように叫ぶ。
はるたちも、チハヤを助けるために動いていたミナミが、なぜリバルを助けるような行動をとるのかわからなかった。
今ならチハヤを助けに行けるというのに…。
「お前は、なぜリバルのために動く?」
ライが滅命剣をかわしながら不思議そうな顔をする。
「私はリバルの味方をしようとしてるんじゃない…。
でもリバルだって、こんなことしたくてしてるんじゃない!
ライは自由だからリバルの気持ちなんて理解できないんだよ!!」
ライの動きがピタリと止まった。
リバルにも同じようなことを言われたことを思い出す。
「俺だってリバルのことはなんとかしたい。
でも、あいつが必要としていたのは俺じゃなくナツミだ!」
「…ナツミなら、なんとかできるかな?」
ミナミがどこか切なげに言う。
そんなミナミにライはうなずいてみせた。
「ナツミなら大丈夫だ」
「そう…。でも、チハヤは…」
チハヤを助けるには、あの水晶を壊さなければならない。
でも、自分の力では壊せない。
「助けに行きたい…。
でも、水晶が壊せない」
「あの水晶は海原の力でできている。
冷静になれば、お前で十分壊せるはずだ」
ミナミは一瞬迷った様子を見せたが指をならして滅命剣を消した。
そして口笛を吹いてカイウスを呼び寄せた。
カイウスは1度シリウスを見てから、すぐにミナミのもとにいった。
「カイウスッ!」
シリウスがカイウスの名前を呼ぶがカイウスは振り返ることなく行ってしまった。
そんなカイウスをシリウスは寂しそうに眉根を寄せてみていた。
ミナミがカイウスと共に走っていくのをまひろは一瞬ためらってから呼び止めた。
「ミナミ!…私、ミナミが裏切ったなんて思ってない!
だから…だから、戻ってきてね!!」
その言葉にミナミは足を止めた。
けれど振り向くことなくカイウスにのると、みんなの前から姿を消した。