小説内容2
□第四話
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彼女は僕よりも上の立場の人だった。
そして僕よりも、ずっと強い力を持っている人だった。
僕の大切な大切な幼馴染みだった。
だから守りたい。
大切な彼女を…。
僕は従者という身でありながら彼女を主としてではなく幼馴染みとして守りたいと思ったんだ。
そして僕は手に入れてしまった。
自分の命と引き換えに禁術というものを。
禍々しい力にのみこまれていく中、僕はただ一心に願った。
幼馴染みであるナツミを守れますように…と。
「なんかヤバくない!?」
キリクの姿がどんどん変わっていく中シオルの言葉を聞きながら、テナはキリクに向かって力を使った。
球に収縮されたエネルギー弾はキリクのもとにとんでいくが、それはキリクに届く寸前でかき消えてしまった。
キリクの顔の左部分には黒い刺青がはいり左目とその周囲を覆うようにして仮面が付いた。
右目は仮面に覆われることなく、そのままで額にはもう1つの目があらわれた。
3つ目となり耳はとがり首には鎖が巻き付き垂らしていた。
爪が異様に伸びたかと思うと手には大きな黒光りするカマを持った。
「テナ、これって…」
「えぇ…これは闇の禁術。
命や自我を削っていく代わりに多大なる力を手に入れられる術。
それをこの子は取り込んだのね」
「ちょぉ〜っと、やっかいかも…」
シオルの顔にさっきまでの余裕な笑みはなかった。
テナにも緊張がはしる。
キリクが自分たちにカマを向けたと思うとキリクの周りに赤黒く輝く陣が数えきれないほど出現し自分たちに向かって闇の力を放ってきた。
「フ…フハハ…シネッ!!
やっと…この体が俺のものに」
キリクになりかわった禁術が狂ったように笑いだした。
黒光りするカマを振り回すとテナとシオルに向かって走り出した。
シオルも自分より大きなカマを手に持ちテナは槍を手に持つ。
「テナはさがってて!」
「何を言ってるの…」
「あたしの方がテナよりも戦いにたけているんだもん!」
そう言い放つとシオルは走り出しキリクとカマを交えた。
キリクの力に負けず劣らずの力でシオルはキリクのカマを止める。
するとキリクはニヤリと不気味に笑った。
「お前、力あるな…ハハハ…」
「どうも…でも、あんたの3つ目はキモイ!!」
キリクのカマを力で押し切り、シオルは自らのカマに神の力を纏わせて威力をあげた。
「まだまだ、そんなものじゃないんだから!!」
するとキリクはユラリと立ち上がりケタケタと頭がいかれたように笑い始めた。
額にある3つ目の目がギョロリと動きシオルをとらえる。
シオルが眉間にしわをよせてみていると、いきなりキリクが消えた。
唖然としていると後ろに人の気配を感じた。
みていたテナがシオルに向かって叫ぶ。
「シオル、危ない!!」
「なんなのっ、こいつ!」
首をかききろうとキリクがシオルの首にカマをあて思い切り引いたがシオルは間一髪、下に膝をつきしゃがみ込みよけた。
そのまま神の力を地面に流し土の壁をつくった。
シオルはすぐに後ろへとさがりキリクとの距離をとる。
「危なかった〜」
「シオル、まだ!!上っ!」
一息ついていたシオルだがテナの声で、すぐに周りを見渡す。
ふりかかってくるカマをシオルが止められないとわかるとテナが槍で止めた。
「テナッ!?」
「シオル…あなたは、まだ幼い。
リバル様だって、あなたがいなくなったら悲しむ。
気を引き締めなさい!!
相手は禁術よ!」
「わかった。んじゃ、あたしも本気でやろうかな」
「私もやるわ…手伝わなくていいなんて言わせない」
テナが微笑みかけるとシオルは屈託のない笑顔で力強くうなずいた。
キリクの周囲は禁術ならではの禍々しい力が取り巻いていた。
キリクは、うつろう意識の中でぼんやりとしていた。
もう自分の体は禁術の強固な力と意思によって支配されてしまっている。
体が妙にダルイ。
うっすらと輝く場所を見つめた。
(ナツミ、大丈夫かな…。
ライ様は、お戻りになられただろうか…)
そんなことを思いつつ自分はもうそれすら確認ができないのだと思った。
もう、戻れない。
1度、禁術に体をあけわたしてしまっているのだ。
キリクの意思は、あとは消え去るだけだった。
うつろう中で死という言葉がぼんやりとする頭の中に浮かんでは消えた。
(死か…怖い、そう思ってたけど…なんだか、そこまで怖くない。
けれど…)
もうナツミの姿を見ることができないと思うと辛く悲しい。
恋はゆるされるものではない。
幼馴染なんていう関係ですら普通はゆるされないはずなのだ。
けれどナツミは幼馴染のままでありたいと言ってくれた。
それが本当は、とても嬉しかったんだ。
許されるのなら、もう一度言葉を交わしたい。
もう一度…もう一度だけでいいから…。
それ以上、なにも望まない。
だから…どうか、もう一度だけ許されますように。
キリクは、そう願わずにはいられなかった。
だんだんと自分の意識もなくなっていく。
(ナツミ…たとえ僕が狂ったとしても君だけは必ず)
そういってキリクは目を閉じた。
そして禁術はキリクの体を完全に近い状態で手に入れた。
キリクの周りには多くの光輝く陣がうかびあがる。
「アハハ…やっと俺の力をだせる!
もうすぐ完全なものに!」
「シオル…」
「リバル様も、とんでもないものを相手させるよね」
「ほんとね…困った方」
テナとシオルは、お互い顔を見合わせるとそれぞれ槍とカマを手に強大な力を持つキリクへと斬りかかっていった。
そのころ、リバルとスイルが激しい戦いを繰り広げていた。
リバルの容赦ない神の力が目に見えない刃となってスイルの体を切り刻んでいく。
しかし、スイルも傷をつくりながらも白銀の力を使ってリバルに傷をおわせていく。
だが、やはりスイルの方が出血量が多かった。
「やってくれるね…」
「俺は、欲しいものは必ず手に入れるんだ」
スイルはリバルの言葉に笑みを浮かべながら足から力が抜けたのか、その場に膝を突いて肩で息をした。
流れる汗を拭いながら悠然と佇むリバルを睨み据えた。
さすが大神…スイルは心の中でそう思った。
だてに神と名乗るだけではないと思う。
ロイトにもかなわなかった自分がリバルに戦おうなんてムチャに近いと思ったが本当に大切な者のためならなんだってしてやれることができた。
自分でも驚くほど強い意志だった。
「さて…俺の特殊能力を使おうか」
「えっ…」
ナツミはリバルのほうを弾かれたようにみやった。
あれだけの力を使っておきながら、まだ他の力を残していたとは思わなかった。
それと同時に息があがった血まみれのスイルに目をやる。
スイルの顔が傷の痛みで苦痛に歪む。
「や、やめてっ…スイルが」
「その男のことなど、すぐに忘れさせてやるよ。
そして、わからせてあげよう。
俺の方がいいってことを…」
「好き勝手言うなよっ…クソやろー」
「そう言えるのも今の内だっ」
リバルの瞳が輝くとスイルがいきなり苦しみだし足が地面にくい込んでいく。
手を地面につけて、うめき声をもらしていた。
「なに…」
「ナツミには分からないかな…力を使ってないから。
俺たちは重力があって、この地面に立っていられる。
この重力をさらに大きくしたら、俺たちの体はそれに耐えられなくなって死ぬか体内がグチャグチャになるか…。
まあ、どちらにせよ無事ではすまない」
ナツミの顔から血の気がひいていく。
いくらなんでも強すぎる。
まさか神の力を持ちながら特殊能力の重力さえも使えるなんて…こんな相手をどうすればいいのか…。
このままではスイルが死んでしまう。
自分がリバルのもとに行けばスイルは死ななくてすむ。
「リバル…様」
「んっ?」
「私があなたのもとに行けばスイルは死ななくてすむんですよね…?
だれも傷つかない」
「あぁ、お前さえ手に入れば…」
リバルの顔が嬉しそうに微笑む。
ナツミは切なげにリバルを見つめていた。
スイルにかけられていた力がとけスイルは苦しげに呼吸を繰り返した。
咳き込んで血を吐き頭は切れ、血がスイルの顔をぬらす。
起きあがれないようでスイルは倒れこんだまま何もできずにいた。
「っ…ナ…ツミ」
片目をあけて、リバルのもとに歩き始めたナツミをみていた。
止めようとするけれど体が思うように動いてくれない。
また失うのだろうか…そんな思いがスイルを襲った。
また、あの痛みを思い出すのだろうか。
家族と引き裂かれたあの苦しみを今度は大切な子を失うという痛みとして受け止めなければならないのだろうか。
もう苦しみたくないと願っていたのに…非力な自分が嫌で自分の闇の力の大半を白銀の力と変えたのに…それも、無意味になってしまうのだろうか。
「…私は」
ナツミは口を開く。
真実が知りたいだけ…本当のことを聞きたい。
今まで、どんな思いでリバルがいたのか…リバルを見ていると、どうしても悪い人だとは思えない。
「本当のことを知りたい。
私はリバル様から本当のことを聞くまでは、そちらにいけません。
よく考えて答えを出したい」
「なるほど」
「私は、スイルの告白にまだちゃんと答えられていない。
何も言えないまま、あなたのもとへはいけない。
だからミナミを返して…ミナミの手紙に書いてあった救わなければならない人もミナミに戻してあげて」
リバルはナツミを見ていた。
強い意志を目に宿して俺をみるナツミに俺は何も言えなかった。
とても悲しく苦しい感情が俺を支配する。
「っ…俺は。チッ」
一瞬、リバルが悲しげな顔をしたが舌打ちをしたと思うと目に凶悪な光を浮かべた。
顔には怒りがにじみ出ている。
スイルが焦ったように起きあがろうとするが体に与えられたダメージが大きすぎて動かない。
「マズい…」
「真実が知りたければ、俺から聞き出してみろ!」
多大なる力が幾つもの刃になってナツミに襲いかかる。
ナツミは指を鳴らすと黒妖剣を取り出し、すぐに鞘から引き抜き向かってくる刃を剣でそらしていった。
「私は、みんなを守るときめた。
もう1人の自分の存在に気付いたときから!!」
瞳が完全に赤紫色に輝く。
ナツミの周りからは風が吹き荒れて闇の力が増大していく。
髪は金から銀へと変わり体つきが男へと変化する。
身長ものび鋭い目つきでリバルを見据えた。
「んっ…、あー、だりぃな」
「な…」
「お前、大丈夫か?
…ったく、やっと出られると思ったらこれかよ」
闇のナツミはグチをこぼしつつ周りを見渡してため息をついた。
そして、リバルに剣先を向けて闇の力を膨れ上がらせる。
「まぁ、なんでもいい。
お前をしとめる」
「闇…」
闇が消えたかと思うとリバルの背後から剣がふってきた。
リバルも消え失せ剣をかわす。
リバルが闇に向かって特殊能力である重力を使うと、闇はよけることなくそれをうけた。
「そういうことか…」
口から血を流しつつ笑うと、足に力をこめて踏ん張り後ろへと下がった。
すると、ある程度まで下がると重力から解放されたようで闇が口元の血を拭った。
「お前の特殊能力の重力には使える範囲が決まっているんだ。
だから、その範囲から離れれば大丈夫なんだ」
「ふん…なめられたものだ」
リバルが忌々しげに笑うが闇は、さして気にした様子もなく黒妖剣をかまえた。
そして瞳を輝かせる。
「さぁ…次は俺からだ!!」
闇がきりかかっていくのをスイルは動くことも出来ないまま倒れ伏し見ていた。