小説内容2

□第二話
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 イアルとキリクの行動はとても早かった。
 キリクはあっという間に全員を外に連れ出しイアルも簡単に神天世界への道を繋いでしまった。

「そんで?
 神天世界に行くの?」

 シズカの問いかけにナツミがうなずくと面倒くさそうに小さく息をはいた。
 はるの顔にも不安そうな色が浮かんでいる。
 相手は大神だ。
 2人が不安そうになるのも無理はないとスイルもナツミも思った。
 するとスカルが前に出てくるとナツミの前で跪いた。

「我が主、俺の命ならいくらでも差し出しましょう。
 ですから、シズカはここにおいていってください」
「なに言って!ふざけんな、スカル!」
「相手は大神。
 戦いにたけている者の方がいいはずです」

 スカルはシズカの言葉など聞こえていないように話を続けた。
 ナツミが困ったようにスカルとシズカを交互に見ているとスカルが強い口調で「姫っ!」と呼んだ。
 驚いてスカルをみるとスカルの瞳は赤紫色に輝いていた。

「兄さん」

 スイルが咎めるようにスカルを呼ぶがスカルはその態度を変えることなく強い望みを胸にナツミを見ていた。
 するとリークもスカルの隣に跪いた。

 
「姫、俺からも頼む。
 はるは、ここにおいていってくれ。
 俺はナツミが死ねというなら死ぬし戦えと言うなら戦う。
 だから、はるだけは…。
 俺は、はるが助かるためなら、この命何度だって捨てられる」
「リークッ…」

 ナツミがどうしようか悩んでいるとシズカがスカルの前に立ちはだかった。
 何事かとみているとシズカがスカルの胸ぐらをつかんでいた。
 シズカの怒りに満ちた形相はとんでもないものだった。
 けれど、その表情の中には泣きそうになっているシズカもうつっていた。

「行くか行かないかなんて、うちが決めることだ!!
 スカルもナツミも勝手にうちのこと決めるんじゃねぇよっ!」
「俺はお前を守りたい。
 死んで…欲しくない」
「スカル、お前はっ!」
「シズカ、お前を愛しく思うから…大切だから俺の命にかえても守りたいんだ」

 守ってほしくないって言ったのに…シズカは小さく言う。
 スカルはシズカの言葉に苦笑するだけだ。
 スカルの切実な気持ちがシズカには伝わっていた。
 だから、それ以上何も言えなくなってしまった。
 なにか言ってやりたいのに言えない。
 スカルの胸ぐらから手を離してその場に佇んだ。
 どうしたらいいのかわからないでいた。
 そうしているとスカルが抱き寄せてきた。

「すまない…我がままで」
「スカル…うちは一緒にいきたいよ」
「…シズカ」

 スカルがそれ以上何か言おうとするとナツミが手でそれを制した。
 みんなが驚いているなか、ナツミはまるでナツミではないかのような雰囲気を漂わせながらスカルとリークを見やった。

「シズカとはるは連れていく。
 私が2人を守る…必ず」
「ナツミ?」
「えっ…スイル?
 私、今…?」

 スイルが声をかけるとナツミは呆然としてスイルを見ていた。
 スイルは眉根を寄せていたが柔らかい笑みをすぐに浮かべた。
 ナツミの様子を見ていたリークは、ナツミのそばに行くとみんなのそばから少し離れたところまでナツミを引っ張った。
 スイルが嫌悪感をあらわにしリークの名を呼ぶがリークは、はにかんで少し待つようにいった。
 スカルはふぅと息をはいて肩をすくめた。
 リークが小さな声でナツミに教える。

「ナツミ、今闇の方が出てた」
「えっ〜〜!!?」
「しっーーー!
 知られたくないんだろ!?」
「う、うんっ!
 気をつけないとなぁ…」

 ナツミとリークは顔を見合わせうなずきあうと、みんなのもとに戻った。
 リークがいなければ、きっとみんなに不審がられていただろう。
 そう思うとリークが知っていてくれてよかったと心底思った。
 一瞬キリクと目があった気がしたが、まひろが自分の名前を呼んできてすぐにそちらに目を向けた。
 気のせいだろうと思うことにした。

「ナツミ、大丈夫?」
「大丈夫だよ、まっひー。
 みんなもいきなりごめんね」

 ペコリとナツミが頭を下げると、はるがにこにこしながら首を横にふった。

「大丈夫だよ〜。
 あれ?そういえばミナミさんは?」
「そういえば…。
 キリク、ちゃんと言った?」

 シズカがキリクの方をみて聞くとキリクが懐から何かを取り出した。
 それは封の切られていない手紙だった。
 まひろの顔がだんだんと青ざめていく。
 急いでキリクの手から手紙をとると急いで開けた。
 しばらくして、まひろは手紙を握ったままそこに座り込んでしまった。
 はるがすぐにまひろに駆け寄る。

「まひろさん!?」
「っ…ミナミ」

 まひろが何も言えないでいるとキリクが口を開いた。
 少し気の毒そうな顔をして…。

「ミナミ様を呼びに行ったとき、部屋には一通の手紙しかありませんでした。
 部屋の中はほとんどのものがなくなっており綺麗に部屋が掃除されていました」
「意味わかんない!
 まっひー、その手紙かして!」

 座り込んでしまっているまひろの手から手紙を取り上げるとシズカはすぐに読みだした。
 シズカの後ろからはナツミとはるが顔を出して手紙を見ている。

「…ミナミからの手紙、みんなにも伝わるように読み上げるから」

 シズカの声音はとても暗いものだった。
 まだしっかりと理解できていないようで何度も読み返してから深呼吸をして読みだした。

「みんなへ…なにも言わないでいなくなってごめん。
 なっちには謝らないといけないことがある。
 ロイトとの戦いのときにライに怪我をさせたのは私。
 あれは手元が狂ったんじゃない。
 事故ではなく私の意思でやったこと。
 どうして、そんなことをするのかスイルたちは気づいているだろうけど…私はリバルの駒だった。
 みんなを裏切ってごめん。
 私には救わなければならない人がいる。
 みんなを裏切ってでもリバル側につく必要があるの。
 次に会うとき、私はきっとあなたたちに躊躇することなく刃を向ける。
 まっひー、今までありがとう…ごめんね。
 あなたたちと刃を交えることがないことを願います」

 ミナミの手紙はそこで終わっていた。
 スカルたちは目を閉じたまま何も言わない。
 まひろからは「どうして」というつぶやきとたくさんの涙がこぼれ落ちていた。
 気づいていたはずだった。
 ミナミが言えない何かを抱えていることを…。
 無理やりにでもきけばよかった。
 その後悔がまひろを支配していた。
 ふと、はるが疑問を口にした。

「ねぇ…ライさんの事故って?」
「どういうこと?」

 はると緑木がわけがわからないというように首を傾げた。
 その場面をみていたスイルが事情を話し始めた。

「君たちは知らないね…ロイトとの戦いのときレヴァントの方に気を取られていたから。
 僕は目の前で見ていた。
 ミナミがライに向かって力を使い傷を負わせたところを。
 そのせいでライはアリウスと同調して戦わないといけなくなった」
「どうしてアリウスと…?」

 はるがアリウスとなぜ同調して戦わなければいけなくなったかを聞くと緑木は分かったようで躊躇いがちに、はるのもとに来て教えてくれた。
 はるもいつも通りに振舞おうと努力する。
 告白のことがあってから、お互いあまり話せずにいたのだ。
 しかし、ずっと引きずるわけにもいかない。
 はるも緑木もそれがわかっているから、お互い普段通りに接した。

「ライは元から強い力を持っているけど酷い傷を負うと傷を癒す方にも力を使うんだ。
 だからアリウスの力を使ってでも戦わないといけなくなったんだよ」

 信じられないという顔をしているはるに緑木は心配そうな顔をして大丈夫かを聞いた。
 緑木の問いにはるはゆるく首をふった。
 いきなりのことで、まったく頭がついていかない。
 ミナミはずっと自分たちといた。
 仲良く人間界でも支えあっていた。
 なのに…。

「ナツミ…?どうした?」
「…てた」
「なんだって?
 よく聞こえない、ナツミ」
「なつみん?」

 2人が困惑しながらもナツミが言ったことに気づいて声をかけた。
 まひろもナツミを見上げている。
 ナツミは目をふせたまま言う。

「気づいてた…ごめんなさい、みんな。
 言わなくて…」

 まひろが驚きを隠せずにナツミに問う。

「どうして…?」
「理由は…言えない」
(でも気づいてたの…きっと顔を背けていただけで…。
 だって…もう1人の私が何度も何度も言うの)
『そいつを信じるな…』

 闇の自分に言われたことを思い出してグッと拳を作って握った。
 言えなかった。
 まさか闇が言うことが本当だなんて思わなかったから。
 それになにより、信じたくなかったの…。

(だから言ったろ…)

 そう心の中で言われた。
 冷ややかに静かな口調で…。
 反抗しようとしたところで、まひろがつかみかかってきた。
 けれど何も言えぬままされるがままでいた。

「どうして!!どうして言ってくれなかったの!?」

 ナツミが黙ったままでいるとスイルがイライラしたようにまひろを睨んでいった。

「離して、ナツミは悪くない」
「あなたたちも知っていたなら言えばよかったじゃないですか!!
 知っていたら私は!」
「私は…なんだ?」

 スカルがまひろに言った。
 それは怒りを含めたものではなく悲しみを含めたものではなかった。
 ただ静かにまひろに聞いた。
 小さな憐れみをもたせて…。

「知っていたら止められたのか?
 知っていて、それをあいつに言ってどうする?」
「スカル…」
「スカル、やめなよ」

 リークと緑木がスカルを咎めるがスカルは2人の言葉に聞く耳を持たない。

「本当のことだろ。
 お前は気づけないのか?
 俺たちがお前に言わなかった理由を。
 ナツミが信じたくなくて、それがウソだと信じて言わなかったのを。
 俺はお前がそこまでバカじゃないと思っていた。
 俺のかいかぶりすぎだったようだな」

 スカルが黙るとナツミはつかまれたまま、まひろを見て謝った。
 信じたくないだけで目を背けていた。
 まひろが言うようにミナミのことを教えていたのなら変わっていたかもしれない今をそのままにしてしまった。

「きっと…知っても言えなかった。
 私も…信じられていなかった。
 もし言ってもミナミを困らせて…」

 まひろの手はゆるみダラリと垂れ下がった。
 涙をとめることもできず、まひろは泣き続けた。
 そんなまひろに声をかけることもできず、みんなは黙っていた。
 だれもなにも言えないでいるとイアルが口を開いた。

「お前は泣いているだけでいいのか?」

 いつもと少し違う口調にナツミたちは唖然とした。
 イアルは周りにかまわず話を続けた。

「ミナミは苦しんでいたはずだ。
 誰にも言えず、お前にも隠し事をして。
 あいつを苦しませたのはリバルだろう?
 なら、そいつをとらえればいいんじゃないのか?」
「イアルさん」
「泣いているよりも今は行動するべきだと思うが…」

 その一言で、まひろは目が覚めたような気がした。
 今泣いていてもミナミは帰ってこない。
 なら自分から迎えに行けばいい。
 ミナミを取り戻す。
 まひろの胸の中にその思いがわきおこった。

「ごめん、取り乱して…私、大神を許さない!
 なっち、私も行く!」
「わかった」
「うちもそいつぶっ飛ばしに行く!!
 ぜってぇ許さない!!」
「だね!!」

 シズカの言葉にはるが力強くうなずいてみせる。

 全員が神天世界に行くことになりイアルは閉じかけていた神天世界への道をもう1度作り直した。

「じゃ、行くか」

 リークが大きくのびをして言う。
 そして、みんなは神天世界に繋がる道へと足を踏み入れた。
 どうなるかなんてわからない。
 ロイトにさえかなわなかった自分たちが大神にたてつこうとしている。
 今はライもいない。
 自分たち1人1人がやるしかない。
 みんな、そう自分の胸に刻み込んでいた。
 守りたい人たちがいる人たちは大切な人が死んでしまわないようにと思い守ることを強く誓った。
 たとえ自分の命にかえても守ってみせる。
 そう思って歩みを進めた。
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