小説内容2

□第一話
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 それは、深い深い闇だった。
 光の届かない場所にいた。
 誰も気づきはしない、悲しく暗い孤独な空間…俺がつくられた意味は何だったのだろう。
 大神なんている必要があるのかさえ分からない。
 自由になれない俺はいつしか感情を失っていった。
 あいつが現れるまでは…。

「リバル様」

 浅い眠りから浮上し目をあけた。
 目の前にはテナがお茶を手に佇んでいる。
 いつしか俺は眠っていたようだ。

「どうされたのですか?」
「昔を思い出していた。
 今も昔も、さほど変わっていないが…。
 でも…1つ変わったな」
「1つ?」
「俺にも手に入れたいものができたんだ」

 リバルの顔が昔のように優しげな表情を浮かべるのをみてテナは静かな驚きを感じつつ見ていた。
 リバルがこんな顔をするのは、とても珍しいことだ。
 こんな優しげな表情をリバル様に戻してしまえるのは、あのナツミという子だけだろう。
 ふとリバルが自分の後ろをみて優しげな笑みから何かをたくらんでいるような笑みへ変わる。
 その表情の意味を知るためにリバルの視線の先に目をやると、そこにはライが立っていた。

「リ、リバル様!?
 まさかライを生き返らせたのですか?」
「俺の欲しいものを手に入れるためには、かかせないものだからだ。
 俺は、何と言われてもいいんだ…」

 テナにうつしていた視線を再びライに戻す。
 ライの表情はかたく、いつものような感じがしない。
 おそらくリバルの力によって感情に封をされているのだろう。

(ライ…あなたも報われないのね…)

 ライを見ながらテナが悲しげに思う。
 リバルの気持ちを知っているからこそテナはリバルを止めることはできない。

 ライを操り人形のようにしてしまったリバルは、もう後戻りできないとでもいうように虚空を見つめた。


 そのころスカルとリークは眠るナツミのもとにいた。
 スカルがジッとナツミを見て言う。

「ライ様…正統なる我が主の娘」
「これからは、お前が俺らの主になるんだな。
 妹のような存在だったお前が…」

 闇の力を隠し持つナツミを見てリークは悲しげに目を伏せた。
 ライとカエデのことを知っている。
 2人ともナツミを闇のものとして育てなかった。
 闇は相容れない世界が多いから…。
 大地の世界の植物を枯らし光の世界を闇にのみこんでしまう。
 そんな力をライもカエデも娘に持ってほしくなかった。
 けれどライが死に闇の世界を光の世界と同時に背負うことになってしまった。

「リーク、精神的になれるまで俺らが闇の世界を請け負うことになる。
 ライのつくりあげた闇の世界を守っていかなければならない」
「あぁ…そうだな」
 
 スカルは小さく息をついて後ろにいるスイルに目をやった。
 スイルは冷ややかにスカルとリークをみる。

「兄さんとリークで本当にナツミを守れる?
 俺は心配だ」
「なんだとっ!スイル!」
「ライを守れなかったリークと兄さんではまた同じようにナツミを失うんじゃないかって思うんだ」
「ふざけんなよ!スイル」
「よせ…リーク」

 スイルの言葉に怒りをあらわすリークをスカルがなだめた。
 リークは小さく舌打ちをするとスカルの言葉に従い黙り込んだ。

「スイル、ナツミのことになると周りが見えなくなるのはお前の悪いくせだ」
「俺は守りたいだけ…そのためなら、なんだってするんだ」
「はぁ…スイル、それではナツミを悲しませるだけだ…」
「そうかな?」

 そんなスイルの言葉をきいてスカルはふと思う。
 スイルは本当にナツミのことが好きでナツミのことを想っているのだろうかと…。
 ただ、このまま言っていてもスイルは変わらないだろう。

「なら、好きにしろ」

 スイルに何を言っても無駄だと判断したスカルはそれ以上何も言わなかった。
 するとリークが声をあげた。

「ナツミ、起きていいのか!?」
「ナツミ?」

 スイルがナツミのことを気にかけ名前を呼んだ。
 体を起こすナツミをみて3人は口々に大丈夫かと声をかけたがナツミの反応はない。
 様子がおかしいことに気づいたリークはうつむくナツミの顔を覗き込んで驚いた。
 目を見開き、嗚咽を漏らすこともなくとにかく涙を流している。

「リーク…とーさまは…」
「あっ…っ」

 リークは何も言えなかった。
 またここで現実を突きつけるべきなのか…そう迷った。
 スイルが静かにそばに寄ってきた。
 ナツミはいいようのない恐怖をおぼえた。
 それは聞きたくない真実を聞くことになると思えたから…。

「い…やだ」
「ナツミ」

 スイルが名前を呼んだ瞬間ライが最期に自分の名前を呼んだことをナツミは思い出した。
 そしてライを刺した感覚も思い出していた。
 激しく脈うつ心臓をおさえるようにして胸元で拳を強く握りしめおさえつけた。

「殺した…私が…」

 あの時のことが頭の中に浮かぶようだった。
 まるで幻覚を見ているように一気に部屋の風景がロイトと戦った場所になった。
 ライの声が聞こえる。

(俺を…)

 聞きたくない…私はこの続きの言葉を知っているから…。
 言わないで…。

「言わないでっ…いやだ!」
(殺せ…)
「言わないで!!いや…いやぁっ!!」

 拒絶の言葉を叫んだ瞬間ガラスの1つがわれた。
 ナツミの力はガラスをわり床に亀裂をはしらせた。

「ナツミ…」

 スカルとリークが何もできないでいる中スイルは優しい声音で言うと泣きじゃくるナツミを抱きしめていた。
 イヤだと現実を受け入れられないでいるナツミにスイルは静かに告げる。

「だめだよ、現実から目を背けては…。
 君は生きてる。
 時は経っていくばかりだよ。
 ずっと、このままではいけない」
「でもっ…」
「死者と生きているもの…一緒になったらダメ。
 生きている者は生きている今のこの時間を生きるんだ」

 分かっているんだ、私にもスイルの言うことは…。
 でも思い出してしまう。
 ゆめにもでてくる。
 ライを刺す感覚、光景…全て鮮明に思い出される。
 だから、たえられない。

 そんな気持ちを察したのかスイルはスカルとリークに部屋から出ていくように言った。
 リークは戸惑いつつもスカルにおされるようにして2人は部屋をあとにした。
 2人が出ていくのを確認するとスイルはナツミに目をむけた。
 ナツミの顔はやつれて疲れ切っている。

「こんなにやつれて…血を飲んでいないからだよ。
 しっかり睡眠もとらないと」
「血なんていらない…」
「…それは許さない」

 スイルはナツミを押し倒した。
 ナツミの顔の横に左手をついて自分の体を支えると右手で自分のYシャツを第二ボタンまではずした。

「僕はナツミの望むようにはしてあげられない。
 殺さないし死なせもしない…。
 生きて」
「ス…イル」

 スイルの姿をみてナツミは顔を真っ赤に染め上げた。
 男の人の肌を、こんな間近で見るのはとても恥ずかしいものだった。
 スイルが私の手をとってYシャツのひらけた胸元へとあて触れさせてきた。
 恥ずかしくて手を離そうとするが、それをスイルの手はゆるしてくれない。
 何もできなくなってギュッと目をつぶるとスイルの心臓の鼓動が聞こえてきた。

「あっ…」
「聞こえる?僕の心臓の音…僕もナツミも生きているんだ」
「聞こえる…でも恥ずかしいよ、スイル」
「かまわないよ。
 ナツミが生きていることをわかってくれるのなら。
 君が生きなくてはならないと思ってくれるのなら…」

 スイルによってナツミの手は強くスイルの肌に押し付けられた。
 恥ずかしくて、わかったから…と告げ目を再び強くつぶった。
 スイルの心臓の音が手をとおして伝わってくる。
 すごくスイルの心臓もドキドキしていた。

「僕の心臓も酷く脈をうってるね…。
 ナツミが僕に触れてくれているから…。
 でも、わかってくれてよかったよ。
 どうか生きて…僕の愛しい子。
 俺はナツミが好きだ。
 誰にも渡したくない…ナツミの血も何もかも全て俺が貰う」

 スイルがそういって私の首に舌を這わせてくる。
 ざらりとして湿った舌が自分の首を舐めているのだとわかって、強く脈を打つのを感じながら心臓が破裂するんじゃないかと思った。
 恥ずかしくてどうにかなりそうだ。
 スイルは血を飲むことなく瞳を白銀に輝かせながら私を見てくる。

「ナツミが俺の好意をどう思ってもいいよ。
 嫌なら嫌といえばいい。
 でも忘れないで…俺はナツミを守るためなら世界の1つや2つ壊したって構わないってことを」

 その言葉で思い出した。
 驚いてスイルを見るとドキリとしてしまうほど切なげな目で私を見てきた。
 肌が泡立つのを感じる。
 スイルの力、白銀の力はどの世界とも相容れない力。
 ゆえに、どこの世界でもスイルのもつ力は弱点になり簡単に滅ぼせる。

「ナツミを守るためなら…俺は命さえ惜しくない」

 スイルは自分の手首から血を吸い取りナツミにキスをして自分の血をナツミに含ませた。
 「俺の血をのんで」その言葉に動かされるようにして私はスイルの血をのみスイルの白い首元へと牙を埋めたのだった。
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