小説内容2
□第五話
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そんなところへミナミとまひろもそばにきた。
ミナミがジッと眠るナツミから涙がこぼれるのをみて言う。
「ライの愛し方って…」
「どうしたの?」
「残酷だよね」
まひろの問いにミナミが言うとそこにいた誰もが口を閉ざした。
言葉が見つからなかった。
まひろが何を言おうかと困ってミナミの顔をみて驚いた。
ミナミの顔には冷たい表情しかなかった。
そして淡々と言う。
「なんで命をかけるの?
こんなもののために…。
愛する気持ちだけで命を落とせるってすごいよね…」
「ミナミ、そんなことないよ。
そこまで出来るって、なかなかないからさ…すごいと思うよ」
そんなまひろの言葉にもミナミは表情を変えなかった。
ただスイルはミナミをみて口元に笑みを浮かべた。
「君だって誰かのために命をかけているよね?」
スイルの言葉にミナミは怒りをあらわにしてスイルを睨んだ。
しかし、そんなミナミをみてクスクスと笑った。
小バカにしたような、そんな感じで…。
「図星だったの?…フフッ、何を隠して何を企んでいるかは知らないけど俺の大切な子に手を出したら…その命、俺が消す」
「できるの?あんたみたいな弱い奴に」
2人の仲が悪くなっていくのを、はるは困ったように慌てた。
2人の間に割ってはいる。
「やめてよ…2人とも。
なつみん、寝てるのに…」
「そうだったね」
スイルの顔が一気に柔らかくなりナツミの額にキスをおとした。
はるは顔を赤くすると目をそむけた。
さすがに目の前でやられると恥ずかしくなってしまう。
でもスイルをみていると本当にナツミのことを想っているんだとわかるから、はるは安心する。
「俺は、ライの愛し方嫌いじゃない」
スイルの言葉にスカルが反応を示しスイルに目をやった。
女は驚いていたり不思議そうにしているが男からすると、それが普通のことだと思っていた。
スイルが抱きかかえているナツミを愛しそうに見つめている。
「たとえ俺の命にかえても君を守る。
それを君がどう思うのか俺にはわからないけれど…残酷だと思われてもいい。
それで君を守れるなら、俺は他に何もいらない」
誰に答えを求めることなくスイルはつぶやいていた。
自分の命など本当にどうでもいいようだった。
ただ自分の腕の中で眠る子を守れるのなら…と思っているようだった。
はるは、スイルの発言を辛く思っていた。
「どうして…」
「どうした?はる」
いきなり、はるが言い出しシズカは不思議そうにしている。
「どうして、みんなそこまで出来るの…?
スイルさんだけじゃない…」
リークと緑木が同じようなことを言ってきたのを思い出して、はるは辛くなった。
もっと命を大切にしてほしかった。
自分の命を誰かのために捨ててしまうなんてことやめてほしかった。
今、それぞれの中で脈打つ心臓はみんな自身のものだ。
誰かのためにあるわけじゃない。
「はるちゃん、はるちゃんたちは人間でいるときの方が長いから、きっとそう思うのかもしれないけど…」
「緑木…自分の命なら、他人のために使うのはやめてよ」
「きいて、はるちゃん」
緑木は優しくしかしはっきりとした声ではるにいった。
緑木の瞳が、はるを見つめている。
その目は自分の言うことを聞いてほしいと言っているように思えて、はるは緑木を真剣な眼差しでみた。
「たとえ、自分の想いが相手に届かなかったとしても僕たちヴァンパイアは大切な人のためなら命を捨てられるんだよ。
それに人間とは違って自分の世界の王や姫がいる。
その人を守るためにだって僕たちは命をはるんだ。
自分の命かわいさゆえに守れなかったなんて言えない…自分の命なんて考えていたら行動できないよ」
「そんなの…おかしい」
「おかしくないよ…それに自分の命なら、どう使ったってかまわないよね?
だから、僕たちはちゃんとどうするのかを決めているよ。
それがみんな大切な人のために使うと同じように決めているだけ…ライもちゃんと自分で決めていたんだよ。
自分の命の使い道を…」
はるは目の前に優しげに笑うライが見えた気がした。
『愛する娘のために…』ライがそう言っていたことを思い出して悲しくなった。
そして、私たちを守ると言ってくれたことも…。
「ライさん…」そうつぶやくと幻覚として現れたようなライはニコリと笑って消えていった。
はるの胸の中には悲しさだけが広がっていた。
はるにとってリークも緑木も大切なんだ。
だからこそ、私のことで命をはってほしくない。
リークも緑木も本当に大切な幼なじみだから生きて、1度しかない人生を楽しんでほしい。
そんなはるの胸中を察したように緑木は困ったように微笑んでから、はるを抱きしめた。
どんなことがあっても、はるになんと言われても緑木の中のはるを守るという気持ちは揺るがないから。
「はるちゃん、ありがとう。
僕たちのことを考えてくれて…でもいいんだ。
僕たちは自分の生き方を決めているから。
これだけは誰にも譲れない」
はるは何も言えずに緑木の腕の中にいた。
緑木とリークに守られるだけの自分に何が出来るのだろう。
2人があまり傷つかないようにするためには、どうすればいいのか…その考えは自分が強くなるという考えにしかいきつかなかった。
はるの言っていることを聞いていてシズカはスカルの方をみていた。
スカルも自分の命を大切にしていない。
前はスイルのためにと言って自ら死ぬことを選んでいた。
自分が死ぬことでスイルの憎悪がなくなるといって…。
「シズカ?」
シズカの視線に気づいたスカルが首を傾げてシズカをみる。
ずっとスカルをみていたことに気がついてシズカは、かぶりをふってスカルから目をそらした。
スカルを死なせはしない。
今まで、ずっと考えていたことだ。
自分が強くなればスカルは死の危険にさらされない。
自分自身を守れるぐらい強くなろうとシズカは心に決めた。
ミナミはスイルに抱かれ眠っているナツミをみていた。
リバルの命令通りライの命を奪った。
あと少しで自分の目的が達成できる。
やっと…本当にやっと助けることができる。
リバルにとらわれたあの人を…。
そのためだけに私はリバルの駒となって動いていたのだ。
ずっと、ナツミをみてきた。
人間界に行き見守ってきた。
嬉しそうに笑う彼女を…幸せそうに何も知らないで許される彼女をずっと許せなかった。
激しい憎悪を抱き殺してしまいたいとさえ何度も思った。
「ミナミ、どうしたの?
怖い顔してるよ」
まひろにそう言われて顔に心で考えていたことがでているということがわかった。
すぐに微笑みを浮かべる。
「なんでもないよ」
「そう?なら、いいんだけど」
「うん。怖がらせてごめん」
つくった微笑みをまひろに向けた。
まひろはミナミの微笑みに安心したようにうなずいた。
その笑みにミナミは心が少しずつ壊れていくのを感じた。
騙しているということにたえられなくなってきてしまった。
まひろは本当に心配してくれている。
いつも助けてもらってばかりの私…そんな大切な友人を騙すようなことをずっと出来るはずがない。
(早く…早く終わらせよう…)
苦しくなってきた心に言うようにしてミナミは何度も自分を落ち着かせるように心の中で何度もいった。
目的を果たしたら、みんなの前からいなくなればいい。
どんなに罵られてもかまわない。
(リバル…早く)
ミナミが心の中でリバルにつげた。
リバルはそれを感じたように水面にうつる下界を冷ややかにみつめた。
「さぁ、そろそろ幕をひこう。
俺はお前を手に入れる…どんな手を使っても。
そのために動いてもらおうか…ライ、俺のために」
そういって冷笑を浮かべたリバルは後ろに立つ幽霊のようにすけているライに告げたのだった。
ライの目に光りはなくぼんやりと虚ろだった。