小説内容2

□第四話
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 気づくと力にのみこまれかかっているライの力とスイルの持つ剣がつばぜり合いをしていた。
 何度も剣を交えているとライにまとわりつく闇の力がスイルをのみこもうとした。
 スイルの周囲には白銀の力がとりまき闇の力をはねかえしている。

「ライ…いくらナツミの父親でも彼女を傷つけることは俺が許さない」

 スイルの力におされライは後ずさった。
 目が異様にギラつくのをみてスイルは皮肉げに笑う。

「君はヴァンパイアらしさもなくして獣っぽくなっちゃって…なんて滑稽なんだろうね」
「だ…まれ」
「なに?まだ心があったの?
 それとも今のはアリウスの気持ち?
 今のライをみていると、もうほとんどライの感情は消えてしまっているようだし…アリウスもずいぶんと弱いよね。
 まさか力にのまれるなんて獣のくせに」

 スイルの瞳が色濃く輝いたと思うと宙に白銀の粒子が浮かび上がり鋭い槍へと形を変えライめがけてふりかかった。
 槍はライの尾や翼を貫き地面へと深々とささる。
 身動きのとれなくなったライは多大なる力をスイルに向けて放ったがスイルはそれを簡単によけていく。

「さてと…ここからどうするかだな」

 スイルは宙に浮かびライを見下ろす。
 ライの力は一向におさまる気配はなく一定に保たれ続けていた。
 スイルが肩をすくめているとライの周囲に変化が起きた。
 真っ黒な球体が無数に浮かび始めたのだ。
 一瞬スイルは逡巡しマズイと言ってスカルたちに目を向けた。

「兄さん!リーク!緑木!!
 それにイアルもキリクも、すぐにそこから離れるんだ!」
「えっ…」
「リーク!」

 緑木はリークの名前を呼んだ。
 ライの周りにとんでいた球体は一斉にみんなのもとに向かっていった。
 リークはギョッとし暴言をはく。 

「ざけんな!!」
「はるちゃん、こっち!」

 緑木は、はるの手を引いてその場からとびのいた。
 3人がいたところに球体が飛んでいくと大きな爆発を起こした。
 リークたちの時と同様、それはシズカやまひろ、ミナミのもとでもおきた。
 シズカはスカルがかけつけシズカをつれ、その場から離れた。
 ミナミも焦ることなく、安全な場所に移動する。
 しかし、まひろは出遅れ目の前に球体がせまった。
 もうダメだ…と思った時だった。
 イアルが走ってきたと思うといつの間にか、かつがれその場から離れていた。
 まひろはいきなりのことで驚きイアルをみつめた。

「どうして…?」
「我が主ライ様とナツミ様はあなたたちが傷つくのを望まれていない。
 だから助ける。お前も姫君の友人の1人なのだろう?
 友情など俺にはよくわからないが…」

 ふとイアルの顔に寂しさを思わせる表情が浮かんだ。
 しかし、すぐにその表情も消え失せまひろをおろすとスカルたちのもとへいった。
 まひろはイアルのことが気になった。
 でも、今はそんなことを考えている余裕もなさそうだった。
 ライから放たれる膨大な力は幾度もみんなを襲う。
 スイルが苛立たしげに舌打ちをした。

「こんなに暴れて…ふざけんな、クソやろー…」
「スイルさん、口が悪くなってる…」

 はるは、プロテクションで自分を身を守りつつスイルをみていった。
 こんなときだというのに、はるは相変わらずマイペースだ。

「スイルは昔からキレると紳士的ではなくなるんだ」
「なるほどなぁ…。
 まぁ、最初からナツミには猫かぶってる感じだよな。
 うちらには、めちゃくちゃみせてるけど」
「話してる暇ないよ」

 ミナミがスカルたちにふりかかってくる力を大地の力でせき止めた。
 シズカが「ヤベー…」と言って小さく息をはいた。
 汗を手の甲でぬぐいシズカはミナミに礼をいった。

「まっひー!!
 術でライの力おさえられない!?」
「ミナミ?うーん…そっか!
 やってみるよ!」

 少し考えたのちに、まひろはスッと息を吸うと目を閉じた。
 そして、目をオレンジ色に輝かせ周囲に多くの陣を浮かび上がらせた。

「邪悪なる者その力、光の力を使いておさえる。
 そして、光の力は闇の力を縛る鎖となれ!」

 まひろの周囲に浮かんだ陣から光の鎖が放たれライを縛った。
 相反する力にライの力はおさえこまれていく。

「ナイス!!スイルやるならやって!」
「…俺に命令しないでくれる?」

 スイルはミナミを睨むが、すぐにライへと視線をうつして口元にニヤリと笑みを浮かべた。

「ライ、少し眠ってもらおうか。
 我が愛しき者のために」

 瞬時にスイルがライの元へ移動したと思うとライの首筋に牙をうめた。
 最初はライも暴れていたが血を吸われ続けライの意識が朦朧とし始めた。

(ふぅん…ライの血っておいしいね。
 ナツミの味ににてる)

 ライの血に酔いしれながらスイルはそう思った。
 そして、もう少し血を吸えばライの意識が途絶えるのを感じると牙を抜いた。
 ライは足から崩れ、その場に座りこんだ。

「どう?これで暴走できないでしょ?」
「あぁ…」

 スイルは口の周りを血で汚し白銀に輝く瞳をライに向けていた。
 そのライは貧血の状態になったようで片目を手でおさえて深く息をついた。
 そして何かを思いついたように1人でに笑って周囲を見渡しナツミに目をとめた。
 疲れきった顔でライは優しく微笑む。
 その微笑みをみてナツミはなぜか胸騒ぎをおぼえた。

「キリク…」

 キリクの名前を呼ぶとキリクは返事をしてナツミに謝ると抱きかかえた。
 そして抱きかかえたままライのもとへいく。

「キリク…てめぇ」

 スイルが不機嫌そうな声をもらすとキリクがスイルに目を向ける。
 その顔は表情をうかべてはいないものの目の中には苛立たしさが滲んでいた。

「ライ様…」
「やめろ」
「…くっ、おおせのままに」

 キリクが珍しく感情をあらわにしていた。
 スイルに怒りを覚え剣先を向けそうになるのをライが咎めおさえたのだ。
 ライは困った顔をしつつ苦笑し目の前にいる娘をみた。

「お前、黒妖剣をもっているだろ?」

 イヤな予感が的中してしまったように思えた。
 何をしようとしているか分かってしまっているようでナツミは首を横に何度もふった。
 もってない…消え入りそうな声でつぶやく。
 それがウソだということをライは知っている。
 なぜなら、さっきロイトに向かって黒妖剣を向けていたから。

「もう時間がない」

 ライの言葉が心に重くのしかかってきた。
 ライの言葉がウソではないとライの中に眠る力を考えればわかる。
 恐ろしく強い力はライの中で、まだうずきにじみ出ていた。
 体がふるえはじめ涙で視界がぼやける。
 ライはナツミの頬に手でふれる。

「イアル、キリク…こいつのことを頼む。
 次の主はナツミだ。
 しっかりサポートしろよ」
「おおせのままに…我が主」

 イアルとキリクは表情をかえなかった。
 しかし、どこか不安そうで悲しげな顔をしていた。
 ライは2人にごめんと言って笑った。

「あとは…スイル」
「なに」
「あまり俺の娘を困らせてくれるなよ」

 にこりと笑うライにスイルは肩をすくめてみせる。
 それが了承していると分かりライは安心した表情になる。
 
 スイルにとってライはどうでもよかった。
 死ぬも生きるも勝手にすればいいと思っている。
 けれどナツミのことなら別だ…なんでもしてやる…彼女を守るためなら。
 悔しいがライはそれを知っている。
 ナツミのためなら、なんでもしてしまう俺を。

「さて…全てを終わらせよう」

 血だらけのライは儚くて…目からは力の使い過ぎで血がとめどなく流れている。
 ナツミはそんなライの顔に触れる。
 血が止まらない…もう、ライの体はボロボロだ。

「お父様…イヤ…」
「ナツミ、もう少し待て。
 まだ言わなければならないことがあるんだ。
 シズカ、はる」
「なんだよ」
「ライさん?」
「ナツミを支えてやってくれ…両親を殺した俺が言えることではないが」

 ライの言葉にはるとシズカが2人で顔を見合わせた。
 そしてはるはライに向き直ると言った。

「あたりまえですよ!
 これからも、なつみんは私たちが支えます!
 ライさん、早く帰って手当をしましょう」
「ナツミはうちらの大切な友人だ。
 てか、ライ…なに死ぬみたいな感じになってんだよ。
 早く帰って手当てしてもらえ」

 2人の言葉にライは何も言わない。
 ただ、ありがとうと2人に向けていった。
 スカルとリークが目を伏せる。
 スカルとリークにはライのしようとしていることがわかっているようだった。
 そして、それを止められないということも…。

「ナツミ、殺せ」

 ナツミの体はガタガタとふるえていた。
 剣先は力なく下に向きナツミの目からはとめどなく涙がこぼれた。
 ライは困ったように微笑んでナツミの涙をふいた。

「ごめん…手に血が付いているから、せっかく涙をふきとれても血をつけてしまった」

 ナツミの顔についた血をライが舐めとる。
 そして黒妖剣の剣先を自分の心臓のもとにおしあてる。
 ライの表情は少しずつ苦しみに満ちていた。
 力がまたライをおかしはじめたのだ。

「お前ならできるよ…大丈夫」
「と…さま。私…できない。できないよっ…」
「ライさん!!何言ってるんですか!?」
「ふざけんな、ライ!」

 はるとシズカが抗議の声をあげる。
 はるが必死になっていう。

「私が!!私がライさんの傷治しますから!
 だから、そんなこと言わないでください!!」

 走り寄りそうになるはるをリークがとめる。
 シズカはその場に座り込んで悔しそうに顔をゆがませる。

「どうしてとめるの!?
 離して、リーク!!」

 救える命がそこにあるのに…救えないまま見ているだけでいろと言うのだろうか。
 リークがグッと唇を結んでから言った。

「ライは!…ライの力は、もうライの中におさまりきらないんだ。
 だから、ライは!!」

 リークの言葉にはるは「そんな…」と言葉を漏らした。
 私ではどうにもできない。
 おさまりきらない力…それはおそらく自分の両親を殺した時のように暴走するということだろう。
 だからライはそうならないように自分の命を絶つことを決めたのだろう。

「それでいいのかよ!ライ!!」

 シズカが叫ぶのが聞こえる。
 ライの方をみればライは穏やかな顔をしてうなずいた。
 そしてナツミに目をやる。

「大丈夫だ…ナツミ」

 ライがナツミを引き寄せた。
 シズカもはるも目を見開いてみていた。
 ナツミの目も見開かれる。
 ナツミの持っていた黒妖剣はライの心臓を貫いていた。
 ナツミから言葉がでない。
 涙だけがころがりおちていく。
 ライの口から血が流れ出す…。
 じっとりとした生温かい血がライの背にまわしていたナツミの手についていく。
 やっとの思いでナツミが口をひらく。
 ただただライの体を抱きしめる。

「い、いや…とうさ…父様っ、どうしてっ!!」
「ありがと…ナツ、ミ」

 途切れ途切れにライは言葉をつむいだ。
 黒妖剣をライの血がつたい落ちていき地面を赤く濡らしていった。
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