小説内容2

□第四話
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 ロイトに深い笑みが浮かんだ。
 苦しむライとアリウスの様子を楽しげにみている。

「今日、俺のすべきことは終わった。
 俺は帰る…リバル様、今戻ります」

 ロイトにリークが怒りの声をあげる。

「貴様!」
「ライはじきに自我をなくす。
 とめられるか?」

 ロイトが挑みかかるようにリークたちを見下ろした。
 そんなロイトにナツミが声をあげた。

「ねぇっ!!」
「んっ?」
「私は…あなたを知っている気がする!!
 けれど思い出せない!
 あなたは私を知っているの…?」

 その問いにロイトは答えなかった。
 ロイトは、ジッとナツミを見ながら小さく息をついてナツミに聞こえない声で言う。
 「1度幼いころに会ったことがある…混血の娘」と。

 ナツミは、ロイトをみていた。
 ロイトは、私をジッとみて小さく息をついた。
 そして、なにかを言った。
 でも、その声は私に聞こえることなくロイトは気付けばいなくなっていた。
 
 みんなは、ただロイトの消えた宙をみていた。
 しかし、すぐにライの苦しむ声で我に返りライの方をみた。
 ライの姿をみて人間界にいた3人は息をのむ。

 それは忘れようのない過去のライの姿が今また目の前にあった。
 3人は大きく目を見開いて硬直する。

「はるちゃん!」
「はる!どうした?!」

 はるの様子を見て緑木とリークが声をかける。
 はるの体がガタガタと異様なまでにふるえだした。
 はるの頭の中で緑木を噛み砕くライの姿やリークを追い詰めるライのどう猛な姿が何度も呼び起こされる。
 知らず知らずの内に頬を涙がころがり落ちていく。

「助…けて」
「はるちゃん!しっかりして」

 緑木がはるの手を強く握った。
 すると、はるはハッとして緑木をみた。
 だんだんとふるえがおさまり嫌な映像も頭の中から消えていく。

「はるちゃん…僕は生きてるよ。
 前みたいに眠ったりしないから」

 はるの気持ちをくみ取ったように緑木は優しく微笑んで安心させるように言った。
 はるが小さくうなずくと頭に手をおかれた。

「でも、ここにいたらマズいね」
「そうだな。ライの自我がアリウスのものと入り交じっている。
 そのうち何も分からなくなるだろう」
「なら…そうなる前に、はるちゃんを安全なところへ」

 緑木の意見にリークも賛同する。
 リークは、はるに向き直るとギュッと抱きしめた。
 いきなりのことではるも動揺を隠せずにリークの顔をみつめている。
 リークは、目を閉じたまま、微動だにしなかった。

 いつもは躊躇っていた。
 はるに触ってはいけない。
 こんな自分が触ってはならないのだと…。
 でも、今だけ…どうか許してほしかった。
 緑木は何も言わない。
 今の状況が思わしくないことは俺も緑木もわかっているから…。
 はるの温もりが優しく伝わってくる。
 はるの匂いや心臓の鼓動や血の流れる感覚…全てが伝わってくる。
 離したくない…けれど、このままでは、はるが危ない。
 たとえ、命に代えてもはるを守る。
 ずっと前にそう誓った。
 1度はるを失った。
 もう2度と、この手の中には戻ってこないと…そう思っていた。
 でも、今ここにいる。
 あのとき、守れなかった苦しさや辛さをもう2度と思い返したくない。
 今度こそ、はるを守ってみせる。

「はる…逃げろ」
「リーク!?」

 リークにトンと突き放された。
 同じような感覚が思い出された。
 人間界にとばされるときの…あの悲しく寂しい感覚…。

「俺も…緑木もお前の傷付かないことを願っているよ」

 リークの言葉は私のことを考えた言葉へと変わっている。
 幼かったころは私がまだ小さくて理解なんて出来なかったけど…今はそういうわけではないから、リークは考えて言ったんだろう。


 2人がまた、あのときのように離れてしまう。
 「リーク、緑木!」気付けば私は、そういって2人の手をつかんだ。
 もう離したくない…もう…離さない。
 あのころの非力な私とは違う。
 2人をこえるほどの力はないけれど2人を守る力はある。
 それだけでも十分だ。
 自分に出来ることをしよう。
 私は、ここに戻って記憶を戻したとき強く強く心にそう刻み込んだのだ。

「私は、もう守られているだけはイヤだ」

 もう、みているだけの私ではない…。
 
 2人が驚いた顔をする。
 けれど、かまわない。
 私は、今ここから逃げない。


「シズカ」

 スカルがうちの前にきてライの姿を見えないように隠した。
 ライの姿をみたとき激しく心臓が脈をうったのを感じていた。
 恐ろしいくらいに脈うって心臓がとびたすのではないかと思うぐらい…。
 それはもう2度と経験したくない感覚。
 それをスカルはやんわりとおさえてくれた。

「スカル…」
「シズカ、さきに帰っていて」

 スカルは優しく言ってくれる。
 それは昔を思わせる。

「スカルは!?…もちろん、スカルもくるよね!?」
「シズカ、俺もすぐに帰るから。
 先に…」
「イヤだ」

 シズカはギュッと自分の服の裾をつかんだ。
 小さくふるえている。

「シズカ…俺はお前に危害が及んでほしくないんだ。
 俺はお前を守りたい」

 スカルは変わっていなかった。
 容姿は大人びて力も子どもの時よりは強くなった。
 でも、うちを守るというのは変わっていなかった。
 できるのなら、うちを守らないでほしい。
 自分の身の安全だけを考えてほしい。

「シズカ…シズカ、俺の愛しい子。
 俺はお前が幸せになってくれればいい。
 俺の…全て」

 スカルの腕がうちを包み込んでくれる。
 でも、嬉しくなかった。
 ただ深い悲しみが、うちの心を満たしていった。
 離したくない。

「スカル、うちはスカルの思いに添えない。
 うちもスカルと同じなんだ。
 スカルを失いたくない。
 自分勝手だけど…うちは男を苦手になって、スカルでさえも苦手になってしまったくせにこんなこと言ったらいけないと思うけど…。
 でも、やっぱりうちの心のどこかでスカルを失いたくないって思う気持ちがあるんだ」

 だから…シズカはそう言ってスカルの背に腕をまわした。
 なくしてから気付くのはイヤだ。
 なくしてしまったら、もう2度と触れることも話すこともできない。
 男が苦手になってしまったから今も少しキツい。
 でも、失う方がもっとイヤだから…。

「シズカ、必ず守る」
「サンキュ…うちも戦う」

 そう言ってシズカはスカルに微笑みライを見据えた。


 ライの周囲は闇の力で荒れ果てていた。

「お父様っ!」

 ナツミが駆け寄ろうとするのをスイルが腕を引っ張って止めた。
 驚いてスイルの顔を見るとスイルの顔には表情というものがなかった。
 ただ冷たい瞳をライに向けている。
 その目を見てナツミはゾッとした。

「ライ、ナツミに危害を加えるもの…ならば」

 スイルの手に白銀でできた剣が握られる。
 スイルの瞳は白銀へと変わりライの隙をうかがっている。
 まるで獣が獲物をとらえるきかいをうかがっているようだった。
 ナツミはおそろしくなってスイルの腕をひいた。
 すると、その時までの表情がウソだったようにスイルの顔の表情が優しげなものに変わる。

「怖い?大丈夫だよ、すぐに終わらせてあげる。
 僕がどうして白銀の力を手に入れたと思うの?
 白銀はね、どの世界とも相容ることのない力なんだ。
 どこの世界の弱点にもなる。
 だからライでさえも殺せるよ。
 君を守るためにこの力を手に入れた。
 僕の希望…僕は君の騎士だよ」
「違う…スイルは…」
「僕の生きる存在意義は君を守ること…これ以上の理由は必要ない」

 スイルの顔が再び冷酷なものへと変化する。
 ライの状態を確認するとスイルはふっと息をついてスカルとリーク、緑木に目をむけた。

「兄さんたちはどいてて」
「スイル!?」
「俺の力は兄さんたちに有害だから…。
 さぁライ、俺たちの愛する者を守るためになすべきことをなそうか」

 スイルは、そういうとナツミの目の前から消え失せていた。
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