小説内容2

□第三話
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 リバルはその様子をみて口元に笑みを浮かべた。

「さぁ…目覚めてもらおうか、アリウス」

 リバルの言葉に反応するように下界ではライが胸をおさえ目を見開いた。
 自分の中でアリウスの存在が大きくなっていく。

「くそっ…リバル」

 ライは荒い呼吸を繰り返しながらもアリウスの存在が大きくなったのがリバルのせいだと直感的に理解し憎々しげにうめいた。
 ライのつぶやきに完全に腕が再生したロイトは反応を示しリバル様と1人つぶやいた。

「あぁ…我が主。あなた様の手を煩わせてしまうなんて…」
「ふざけるなっ!!」

 ライがロイト手を向けた途端、ものすごい力の波動がロイトに向かって放たれた。
 膨大な力はロイトを包み込むようになり大きな爆発を起こした。
 いたるところにロイトの肉片が飛び散りあらわになった心臓がロイトの胸で脈をうっていた。
 肺の1つをつぶされロイトは大きくせき込み血を吐いた。

 アリウスの力は圧倒的なものだった。
 神であるロイトを上回りロイトも太刀打ちができないようだった。
 しかし、心臓が見える状況になってもロイトの表情は変わらない。
 ポッカリと開いたそこを手でおさえ回復を待っているようだ。
 そして信じられないことを口にする。

「さすが元神とでもいうべきか」

 その言葉にイアルとキリク以外は驚愕の表情を浮かべた。
 スカルとリークですら言葉が出ないようだった。

「どういうこと?」

 スイルが険しい表情で尋ねた。
 ライは面倒くさそうに息をついた。
 するとロイトが冷酷な笑みを浮かべる。

「お前たちは聞いていなかったようだな…ライは今言った通り元は神」
「そんな昔話をして自分の傷の回復をはかろうとしているのか?
 そんなことはさせない!」

 ギリッとライは奥歯をかみしめるとアリウスの力を使ってロイトに斬りかかっていった。
 ロイトは手負いとあってもライの攻撃を全て寸前でよけている。
 そしてライをかわしつつライの過去を話し始めた。
 ライは攻撃を休むことなく繰り出しているが他の人たちは真実の話しに動けないでいた。

「ライは我ら3人の神がつくられる前、リバル様を補佐する神として神天世界にいた。
 俺とテナ、シオルがリバル様によって創造されたころだった。
 リバル様はこの世界のためにと多くの者を殺し始めた。
 どこの世界もヴァンパイアが多くなりすぎたからだ」
「どんな理由があろうと、なんの罪もない奴を殺すのはいけない!」

 ライがロイトの言葉に反論するように叫んだ。
 しかしロイトはそんなライを冷ややかに見るだけだった。

「何も知りえない貴様はそうやって反論するばかりだったな。
 貴様は昔と何も変わらない。
 リバル様の思いも届かぬことだろう。
 ライはほどなくしてリバル様から離れ闇の世界の王となった」

 ロイトが言い終えた瞬間にイアルとキリクが鞘に手をかけロイトに向かっていった。
 2人の顔にためらいはなかった。
 すばやく鞘から剣を抜き放ちイアルはロイトの頭、キリクはロイトの心臓めがけて剣を振り下ろした。

「ザコども…」

 ロイトは2つの剣を指先で止めた。
 イアルとキリクは舌打ちをすると、すぐに後ろにさがった。
 2人が離れた直後にライはアリウスの力を放ったがロイトは紙一重でよけた。

「力を持ちすぎる貴様はジャマでしかない。
 消えてもらおうか」
「くそ!ライを殺させるな!」
「俺たちの主を死なせはしない!」

 スカルとリークがそれぞれ言うとみんなが動き出しシズカたちも我に返ったように力を身にまとった。
 シズカが近くにいるはるとまひろに声をかける。

「はる!まっひー!いくよ!!」
「了解!!援護するよ、シズカさん!」
「ナツミとミナミは!?」
「とりあえず、うちらでやる!」

 シズカの言葉に2人はうなずいた。
 
 一方ナツミはライの真実と目の前に広がる戦いの前に呆然としていた。

「アリウス…どうして」

 ライの体はアリウスによってほぼ支配されていた。
 幼いころにみた光景が繰り返されているようだった…そして、明滅する記憶。
 頭痛がひどい…血まみれで母が倒れる姿、そして…誰かが私の名前を呼ぶ。
 優しく切ない声で…。

「もう少しで…思い出せそうなのに…」

 もやがかかったように思い出せない。
 思い出せそうなのに思い出そうとすればするほど頭の軋みがひどくなる。
 あまりの痛さに思わず両膝をついた。
 

「そんなに知りたいの?」

 ふとミナミの声が頭上からふってきた。
 その声につられるようにして顔をあげるとそこにはいつものミナミの優しい表情はなかった。
 まるでロイトの分身のように冷ややかな表情で私を見下ろしている。

「思い出さないといけない…」
「あのね、なっち…知らなくてもいいことなんて、この世界には山ほどあるんだよ。
 知らなくてもいいことを知ろうとする必要はない」
「何を言っているの…ミナミ」

 ミナミの様子が明らかにおかしいことに気づきナツミはミナミをみつめる。
 そして自分の中で警戒心がわく。
 この子は危ない…そう思っていると闇が話しかけてきた。

(おい、こいつヤバいぞ…いつでもなぎ倒せるようにしろ)

 闇は己を守るように私に闇の力を纏わせた。
 ミナミはそれに気が付いたが何も言わずに違うことを話し始めた。

「私は、今なっちと戦う気はないよ」
「えっ…」
「ほら、助けに行きなよ」

 ミナミに促されるようにしてロイトの方をみるとライ以外の人たちは距離を置いている。
 とても近づけるような雰囲気ではなかった。
 ライの意識は、もうほとんどアリウスと同調してしまっていた。

「コ…ロ…ス」
「っ!!」

 ナツミはその瞬間走り出していた。
 アリウスと同調してしまったのは私がロイトに殺されかけたからだ。
 私が弱いせいでまた…また父を失うことになるかもしれない。
 それだけはイヤだ。
 黒妖剣を握り空中で激しい攻防を繰り返されているところに向かってとびあがった。
 シズカがそれに気が付いて風で後押しをしてくれている。

「お父様!!」

 ライの名前を呼ぶとライがナツミの方に振り向いた。
 その目はよく知った父のものではなかった。
 けれど驚いたように目をみはってロイトを遠ざけるように力を使うと私を抱えてロイトから距離をとった。

「アリウス。貴様もその娘を守るか…」

 後方にふきとばされつつもロイトはつぶやいた。
 ライはナツミを地上におろすと怒りの声をあげた。
 でも、それはライではなかった。

「バカじゃないのか…なにやってんだ」
「お父様じゃない…私は…。
 私はもう、これ以上お父様を苦しませたくない!」
「だが、お前では非力だ」

 その言葉にナツミは何も言えなかった。
 ただ、それが悔しくて辛くてうつむいた。
 もう自分のせいで父を失うのも苦しませるのもイヤだと言うのに…。
 力がないばかりで何もできない。
 思うだけで行動なんてできていなかった。
 すると今はライに同調しているアリウスの手が頬に触れた。

「すまない…」
「えっ…」
「お前を守りたいがゆえに前回もライを狂わせてしまった。
 ナツミは俺にもライにも大切なんだ。
 いつかゆっくり話してみたい」

 アリウスが優しく微笑んだ。
 その微笑みはライとはまた違う感じがした。
 ライの顔で笑っているのに全然別人に思える。
 アリウスとしての顔とライとしての顔が重なって見えたかと思うと抱きしめられた。

 その様子を神天世界からみていたリバルは面白くなさそうな顔をしている。
 リバルはイヤそうに言う。

「獣ふぜいが…そいつに話をして、それだけでなく触れるとは死に値する。
 すぐに話せなくしてやろう。
 そしてナツミ…そいつを殺すがいい」

 リバルが水晶にうつるライに触れた。
 するとライに同調しているアリウスに異変が起きた。
 急に苦しみだし首元をおさえた。
 アリウスの力が急激に増えていく。
 アリウスが苦しみながら、そばにいたナツミをつきとばした。

「アリウス!?」
「逃げろ!そばに…くるな!」
「姫君!!」

 キリクがすぐに異変を察知しナツミを抱きかかえるとアリウスから離れるように飛びのいた。

「シズカ、さがれ!」
「スカル!?」
「はるちゃんも…」
「さがってろよ…」
「緑木、リーク…」

 はるとシズカを守るようして3人が前にでた。
 瞳を輝かせ、いつライが狂ってもいいように攻撃態勢をとった。
 その様子をロイトは空から静かに見下ろしリバルは口元に笑みを浮かべてみていた。
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