小説内容2

□第三話
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 ライは深々と刺さった槍を抜いた。
 抜いたところからは血が噴き出しライの手を赤く染め上げた。
 足から力が抜け、その場に膝をついた。
 ナツミがライのもとへ行こうとするのをロイトが目の前に剣を突き付けてきて身動きがとれなくなった。
 ライはミナミをみて言う。

「貴様…誰の差し金だ」
「誰でもないよ。ただ見間違えただけ…あの男と」

 ライがミナミに向かって口を開きかけたがスイルの言葉で遮られる。

「そんなことよりも…君はナツミの危険因子だ。
 片付ける」

 スイルの目つきがかわる。
 冷酷なスイルに早変わりし、まるでスカルを憎んでいた時と同じような表情をうかべた。
 ミナミは皮肉げに笑う。

「だから、手元が狂ったの。
 ライなんかどうでもいい」
「口答えなんていいよ…その君のつけている仮面、外してあげるから。
 ウソで塗り固められた君の仮面を…」

 スイルの周りを白銀の粒子が取り囲む。
 しかしナツミの叫びにスイルは力をけしナツミの方をみた。
 そこにはロイトに深々と剣をつきたてられているナツミの姿があった。
 ライの目が大きく見開かれる。

「ナ…ツミ…」

 ナツミはロイトに剣を抜かれ多量の血を傷口から噴き出させながら地上に落下していった。
 ライの中にたとえようのない怒りが込み上げてきた。
 カエデとの約束だった…最後にカエデと交わした、最後の約束。

『ナツミを守って…お願いね、ライ…』
「俺は…守るだけだ!」

 ライの手に剣が握られる。
 己の力を最大限に放出させ、そのうえアリウスの力をも身にまとった。
 ライの目つきは鋭くなり背にはアリウスと同様の翼がはえる。
 ライの声がアリウスと重なって2人の声がする。

「許さんっ!!ロイト!」
「そうこなくてはな…」

 ライがロイトに斬りかかっていく。
 とても目では追いつけないスピードでナツミはうっすらと目を開きボヤけた視界でライをとらえる。
 ライの姿は昔の狂っていた時のライと同じ姿だった。
 そうだとわかった瞬間、立ち上がろうとしたが傷が痛んで動けない。

 また…狂ってしまう。
 アリウスの力は膨大だ。
 力を使い続けたらアリウスに主導権を握られてしまう。
 そうなったら、またあの時のように…ライは狂い今度こそ体を壊す。
 今度こそ死んでしまう。
 ふと闇の声が聞こえた。

(ナツミ…俺に体を貸せ。
 戦ってやろう…)

 そんな闇の言葉にナツミは何も答えられなかった。
 ただ目の前で繰り広げられている戦いを呆然と見つめていた。

 神天世界ではリバルがその様子を見ていた。
 隣にいたシオルが笑みを笑いを含んだ声で言う。

「えっー…この子、あたしよりつかえなぁ〜い!!
 よわっちいこだね!」
「シオル!」

 テナがシオルを咎めるように名前を呼ぶがシオルはクスクスと笑うばかりだった。
 しかし今のリバルには2人の会話など聞こえていなかった。

 苛立たしげにリバルは舌打ちをした。
 テナとシオルは身を縮めリバルをみた。

「ロイト…俺のものに手を出すとは…」

 そんなリバルにテナが必死の思いでリバルに伝える。
 神たち3人の思いを。

「私たちは、ただあなた様の力になりたいだけ…!
 ですから、ロイトもあなた様を!」
「だまれ…」

 リバルが瞳を輝かせテナを強制的に黙らせた。
 その様子をシオルは怯えてみていた。
 普段ふざけて口をはさむぐらいなら、まだ許される。
 けれど、リバル様が本当に怒っているとき…あのナツミとかいう混血の子のこととなると話は別だ。
 リバル様は人が変わったように恐ろしい人へと変わってしまうのだ。
 そうなってしまうと、あたしたち3人の神でもどうにもできない。
 下手に口を出せば殺される。

「ナツミが危なくなる前にケリをつけようか、ライ」

 リバルもロイトをとめられないことは分かっていた。
 だから、ロイトをそのまま戦わせることにした。
 ただし、この戦いを早く終わらせると決めて…。
 リバルの手の中に丸い水晶が浮かぶ。
 そこにはライの姿がうつっていた。
 口元に笑みを浮かべると小さく術のようなものをつぶやき始めた。

 そのころ下界で戦っている者たちはロイトの時の力でおさえつけられていた。

「ライ、このていどか」
「うるせー…くそヤロー…」

 ライとアリウスの声が重なり合っている。
 そして憎悪が目に見えるほど体から黒い霧のように出てきている。
 スカルとリークがライをおさえに行こうとするがロイトの力で縛られていて動けない。

「父様っ…」
「今、助けに行く」

 ライの目から血が流れ出た。
 ナツミが息をのみシズカたちも驚いたように目をみはっている。
 まひろがふるえた声を発する。

「体に負担が大きくかかってる。
 力の使い過ぎもあるし…これ以上、無理をさせたら!!」
「ライ、やめろ!!」

 緑木の制止の言葉に続くようにスイルやスカルたちも止めるように叫ぶがライの様子がおかしかった。
 爪が異様にのび背にはえている翼が肥大かしていた。
 荒い息をしロイトを見据えている。
 ロイトは無表情のままライを冷たく見たかと思うとナツミのもとに行き剣を向けた。

「これで、リバル様も落ち着かれる」
「やめ…て」

 ナツミの目から大粒の涙がこぼれた。
 今、目の前に死というものがつきつけられている。
 スイルの声が遠くで聞こえる。
 しずやはるの声ですら目の前の恐怖のせいで聞こえないほどにかすんでしまっている。
 幼いころ目の前で死んだ母の様子が思い出される。

「ふざけんな…!」

 シズカから風が吹き荒れカマイタチとなりロイトに向かってとびかった。
 ロイトの目はそれでも変わりなく冷ややかに向けられる。
 カマイタチがロイトをきりそうになる直前で壁に阻まれたように高い金属音をたて消えてしまった。
 

「チッ…なんで」
「俺のジャマはさせない」

 ロイトが剣を振り上げナツミの心臓に剣を刺そうとした瞬間ロイトのもとに黒い塊が飛んでいったと思うとロイトの左腕をちぎり取っていった。
 ちぎられた腕からは大量の血が噴き出した。
 シズカがいきなりのことに唖然としている。

「えっ…?」
「何が起こったの?」

 シズカとはるが唖然としている中、スイルやスカルたちは何が起こったのかわかっているようで顔が青ざめていた。
 ナツミは目の前にとんできたものをみてつぶやく…「お父様」と。

 ライは半分正気を失っていた。
 ただ許さないという意思だけが心に根付いていた。
 恐ろしいくらいの憎しみと怒りに身を任せ、ライはロイトの腕をかみちぎっていた。
 もぎとった腕からも血が噴き出しライの顔を赤く染め上げる。
 その感覚が初めてではないことをライはうっすらと思い出していた。
 愛する娘を人間界に送ろうとした時だった。
 他世界の王や王妃から娘を守るために憎しみに身を委ねアリウスと同化し命を奪っていった。
 その時と同じように今も胸にうずく憎しみを感じる。
 アリウスに力を貸してもらっているとはいえ、ここまで憎しみにのまれたことはない。
 もぎとった腕を思い切り噛み砕く。
 ミシミシと口の中でなったと思うとバキバキとボロボロに骨が砕かれた。

「ライ…」

 ロイトは血の滴る肩をかばうようにしておさえていた。
 ロイトの腕が少しずつ元に戻り始めている。
 ロイトは他のヴァンパイアよりも再生能力が高いようだった。
 骨が形成され骨にまとわりつくように皮膚が付き始めた。

 その様子をみて、はるは口元をおさえた。

「気持ち悪い…グロすぎる」
「はる、大丈夫か?」

 そんなはるをリークが心配したように声をかける。
 リークの問いにはるは小さくうなずいて目を閉じると何回か深呼吸を繰り返した。
 シズカとまひろも顔をゆがませている。
 しかしミナミは気にする様子もなくそれを見ていた。

「ミナミ、よく平気だね」
「なれてるから…。きついなら、まっひーは見ない方がいいよ」

 ミナミはそうつぶやいた。
 淡々と何も感じていないように…。
 しかし、まひろはミナミの表情に悲しみを見出していた。
 今までミナミの過去を深く追求することはなかった。
 この戦いが終わったら聞いてみてもいいだろうか…ミナミは答えてくれるだろうか…。
 そんな思いをまひろは抱えつつミナミからロイトへと視線をうつした。
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