小説内容2

□第一話
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 ライは目の前で跪くイアルとキリク、そしてスカルとリークに目を向けていた。
 4人は何も言わずに命令がくだされるのを静かに待っていた。

「…あいつが動き出すだろう」

 それだけを言った。
 4人はわかっていたように相づちをうって顔をあげた。
 最近、自分の周囲がザワついていることをそれぞれ気づいていた。

「イアルとキリクは戦いになったら全面的に支援しろ。
 スカルとリークは…」

 ライはそこで言いよどんだ。
 2人とも大切な者がいる。
 命をかけてでも守りたいと思う相手が…。
 それなのに自分の願いだけを押し付けるというのはどうだろう。
 そう思っているとスカルが言った。

「ライ様、我らは姫君を守ります。
 我が世界のこれからを担っていくのは姫君だけですから…」

 スカルの口調がいつもと変わる。
 こういう大切な場面ではしっかりと区別をつけてスカルは話しをする。
 リークもライに真剣な顔でいう。

「俺らの大切な主の娘ですから」

 ライにとって、その言葉はとても嬉しかった。
 でも、2人が自分の気持ちを押しとどめていることはわかっていた。
 だから、敢えて冷たく言うことにした。
 本当に守りきることが出来るのかと…。

「揺らぐのであれば必要ない」
「ライ様…」

 スカルの目が揺らぐ。
 ライの言いたいことがわかっているようだった。

「リーク、お前ナツミに言われていなかったのか?」
「えっ…」
「自分はいいから、はるを守ってやってくれと…」

 ライの言ったことは確かにナツミに言われた。
 でも、なぜそれをライが知っているのだろう。
 困惑しつつリークはうなずいていた。

「お前は俺とナツミの命令、どちらをきく?」
「それはっ!!…それは、ライだ」

 グッと手に力をこめリークはうつむいていった。
 次の主はナツミだが今の主はライだ。
 絶対守らなければならないのはライの命令だ。
 けれど答えに躊躇ってしまった。
 俺の意思を考えてくれているのはナツミだったから。

 ライが呆れたように息を吐き出した。

「ったく…かまわない」
「えっ?」
「お前の最も大切な者を自分の中で決めろ。
 そして、守れ…。
 スカルも同様、いいな」

 ライの言葉に2人は呆然としつつも、すぐに我に返り返事をした。
 これで終わりかと4人の気がゆるんだ時、ライは鋭い声をあげた。
 それは4人に向けられたものではなかった。

「そこにいるの誰だ…」

 闇の力が扉を吹き飛ばし、そこにいた人物を力で引きずり出した。
 その人物はミナミだった。
 ライの目つきが鋭くなり4人も怪訝そうにミナミをみた。

「なにって通りかかっただけ…」
「ウソをつくな」

 いつの間にかスカルはミナミの後ろにまわっていた。
 瞳が輝きミナミのそばを闇の刃がかすめていく。
 しかしミナミは、それに動じることなくライを見据えていた。

「なにを…かくしている?」

 ライの声音は、とても冷たく恐ろしいものだった。
 壁や床がミシミシとなり亀裂がはしる。
 それは誰も止めることなく、いつミナミが攻撃をしてきてもいいようにかまえていた。

 そんな様子をみてミナミは口元に冷ややかな笑みを浮かべた。
 それは今までにみたことのない何の感情も含まない表情だった。

「リバルが動き出したら、あんたたちがどんな行動をとるのか気になっただけ。
 あんたたちが誰を1番優先して守るか…でも、よかったよ」

 ミナミの笑みが不気味といっていいほどにいっそう深くなっていく。
 キリクとイアルも眉をひそめミナミに強い警戒を向けた。
 ミナミの良かったという言葉にリークが反応した。

「なにがいいんだよ?」
「言葉通り…。だって、リバルの目的の奴、簡単に手に落ちそうだから」

 そう言ってミナミは、狂ったように笑い出した。
 ライたちがみている中、ミナミはひとしきり笑い終えると息を吐き出した。

「あーあ…まあ、せいぜい頑張んなよ。
 あんたたちがリバルの目的の者を、どれだけ守れるか楽しみにしているから」

 ミナミが部屋の前から去っていく。
 イアルとキリクが追いかけようとするのをライは止めた。
 ミナミは、知っている…リバルの本当の目的を…。
 ライはミナミをみて思った。

 ミナミは、廊下を歩いていた。
 バレてしまうとは思わなかった。
 まさか気配に気付かれるなんて…。
 リバルの目的は、なっちだ。
 そして、もう1つある。
 それは、ライを自分の思うがままに操ることだ。
 そのためには1度ライを殺しリバルの手で生き返らせ命令に従順に従うようにさせる。
 生き返らされた者は生き返らせた者の命令を必ずきく。
 自分の主という存在になるから…。
 リバルはそれをつかってライを我が物にしナツミを手に入れようとしている。

 私には…関係ない。

「さて…そろそろ私も動くか」

 リバルと同じように目的に支配された私…。
 周りは私をどう思うのだろう。
 わかってくれるだろうか…それとも…。


 ナツミは共有スペースであるリビングで空を見上げているはるに歩み寄っていた。
 はると名前を呼ぶとはるは微笑み私の方を向いてきた。

「なにしてんの?」
「ん〜、リークと緑木のことを考えてたの」

 その言葉にナツミは微笑んでから、ある考えにいたりニヤニヤとしはじめた。
 はるは、ビックリした様子で目を丸くした。

「なつみん、どうしたの?」
「あのさ、はるって好きなのどっち?
 恋してるの?」

 ナツミの問いにはるはナツミが昔から恋愛話が好きだったことを思い出した。
 恋愛話だけではない。
 かっこいい人とかアニメとか…とにかく1度ハマると、なかなか抜けることが出来ないようなのだ。
 はるの返答をワクワクとした様子でナツミは待っていた。

「残念ながら違いまぁす。
 2人に恋愛感情なんてないよ。
 私は、2人とずっと仲のいい幼なじみでありたいの」
「えっ…」

 予想だにしていなかったはるの答えにナツミは絶句した。
 そして、かわいた笑いを漏らし1人心の中で思った。

(これは、2人にはキツいよなぁ…)

 2人をみていれば、どちらもはるのことが好きだというのは見え見えなのだが、はるはそんな気はさらさらないらしい。
 ナツミは2人に同情を抱きつつ自分も同じだと思った。
 安心の出来る場所にいたい。
 それが自分の考えだった。
 でも、はるはきっと変われる。
 天然だけど、しっかりとした面も持ち合わせているから。

「はる、恋ってさ、きっと自分では最初わからないよ。
 気付けないの…なかなか。
 でも、ある時ふとわかるんだよ。
 胸がドキドキしたり知らない内に考えていたり…それで気付くの。
 あぁ、これが恋なんだって…」
「私はよくわからないよ。
 恋なんてしたことないもん」

 はるは真顔でいう。
 はるが恋というものを自覚していないことは知っていた。
 でも、おそらく…。

「はるは、自分のそばからいなくなって…失って初めて気づくんだと思う。
 自分の気持ちに…」
「失って…?」

 そう失ってきっとはるは気付く。
 自分の周囲の環境が変化しなければ気づけないということもあるのだ。
 はるの場合はドキドキしたりすることに気付くことは、まずないだろう。
 そうなると、リークと緑木…どちらかがいなくなって初めて気づくのかもしれない。

「はる、私もはるみたいに関係が変わるのはイヤだ。
 でも、どこかでおもう。
 変わらないといけないこともあるって…だって、自分の気持ちだけを優先していたら自分のことを想ってくれている人の気持ちはどうなるの?
 ましてや好きって言われてたら、なるべく早く答えをださないと…」

 好きと言われていたら…その言葉で、はるは人間界にとばされる前のリークの言葉を思い出していた。

『俺も緑木もお前のことが好きだ…』

「ずっと、自分にとらわれたままだったらその人が可哀想だと思わない?
 ずっと、実らない恋をし続けて返事ももらえないまま死んでいく。
 私たちの考えで1人の人生を狂わせる可能性もあるんだよ…。
 新しい出会いや恋をジャマしてしまうのと同じだから」

 ヴァンパイアは一途な人が多い。
 ナツミは、そのことを考えてはるに言った。
 
 ナツミの言葉が自分に重くのしかかってきた。
 何も考えていなかったわけではない。
 でも、人に言われて自分の置かれている状況の重さがわかった。
 激しく心臓が脈をうって苦しいくらいだ。

「失ったら何も残らないよ…虚しさだけ」

 ナツミは、そう言って立ち上がるとはるの前を通り扉のノブに手をかけた。
 はるは、グッと手に拳をつくり息を吸い込んだ。

「なつみん。でも、私はあの2人を悲しませたくない!
 どちらかを選んだら1人は苦しくなるから…」

 ナツミは、はるの言葉に少し振り向いた。
 その表情は暗く、切ない。

「それは…はるの独りよがりだよね。
 きれい事ですませてる。
 …そんな風に軽いものだったらいいのにね。
 …はるは、残酷だね。
 きっと、まだわかりきれていない」

 そう言い残し部屋を出て行った。
 はるの顔が思いつめた表情になる。
 そして、苦しげにつぶやいた。

「なにがわかっていないんだろう。
 でも、なつみんには私たち3人の幼なじみという関係がどんなものかわからないんだよ。
 そんな簡単に言えることじゃない。
 私たち3人はそれぐらい深い絆で繋がってる。
 だから、1度壊れたら直すのだって…」

 ナツミを責めるように言うが、でもどこかでどうしたらいいのかわからないでいた。
 一体、自分はどうしたらいいのだろう…。
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