小説内容2

□第一話
1ページ/3ページ


 俺は何も考えたりはしない。
 俺をつくりだしたリバル様の命令に従い動くだけだ。
 気持ちというものがなんなのか俺には分からない。
 主であるリバル様があの女のことを想い考えていることも理解できない。
 
 あの女の何が大切なのか…俺は知らない。
 いや知らずとも、それでかまわない。
 ただ命令を全うするだけの俺には関係のないことだ。
 だが、もしあの女がリバル様の障害だとわかったなら命令に関係なく俺はあいつを手にかける。
 ロイトは、ふとリバルに声をかけた。

「リバル様…」
「ロイトか」

 リバルはロイトに目をやった。
 リバル様が笑わなくなったのは、いつからだっただろうか…。
 俺がつくりだされたときのリバル様はいきいきとしていた。
 しかし、いつからかリバル様は変わってしまった。
 顔に笑みは浮かばない。
 ただ冷酷だった。
 恐ろしいほど冷たい人になってしまった。
 いつしか俺もリバル様にならうように心を失っていった。
 そして操り人形のごとく動いている。
 それを感じ始めたリバル様は最初の頃は悲しんでいた。
 すまない…リバル様はそういった。
 なぜ悲しんでおられるのだろう。
 もう、その時に俺は気持ちというものを理解できていなかった。

「ロイト、頼みがある」

 リバル様の目の奥は冷たい表情とは裏腹にどこか悲しげな光が浮かんでいる。
 でも俺はそれに気が付かないようにして頭を下げた。

「なんなりとお申し付けを…俺はあなた様の命令に従います」
「…っ、力をたくわえておけ。
 お前にライを殺してもらう」
「はい。しかしライは俺の力を遥かに超えます」
「心配するな、俺が力を貸す」
「はい」

 リバルの前からさがりロイトは透明な廊下の上を歩いていた。
 全てのものが宙に浮き、まるで宇宙のような場所だった。
 淡い水色で覆われシャボン玉のようなものが浮いていたりする。

「変わらないな、ここは…」

 周りを見渡しロイトはつぶやいた。
 この世界は変わらない。
 でも、リバル様は変わった…そして俺も…。
 ロイトの周囲に力が集まっていく。

「力…。リバル様、あなたのために」

 ロイトが眠るようにして目をつむる。
 ロイトは水晶に覆われ空中でとけるように消えていった。
 リバルは、その様子を水晶を通してみていた。

「寝たのですね…ロイト」
「あぁ…」

 リバルの横に立ち水晶にうつっていたロイトをみて、テナは言った。
 テナの言葉にリバルは水晶をけしうなずいてみせた。

 リバル様は変わられた。
 テナは1人そう思った。
 冷たい表情を浮かべることが多くなった。
 そしてまた同時にどこか悲しげな表情が多くなった。
 自分たち大神につかえる3人の神を、自分の目的のために駒として使うときリバル様は決まって冷たい表情を浮かべる。
 でも私は知っている…。
 リバル様の目が悲しげに揺らぐことを…。
 主に対して言ってはならないかもしれないがリバル様はバカな方だと思う。
 私たちはリバル様によって生み出された存在なのだから。
 私たちが生きる意味はリバル様の手となり足となるため…リバル様が悲しむ必要はない。

 …リバル様は変わってしまわれた。
 とても弱く…もろい人へ。
 目の前で宙をあおぐリバルをテナは寂しげに見つめていた。

「俺にはすべきことがある」
「えぇ、リバル様」
「俺は…」

 迷っているんだ…。
 この目的を果たしたらナツミは悲しむのだろうか。
 このままナツミを見守っているべきではないのだろうか。
 けれど、このままではいられなくなる…必ず…。
 その時、俺はなにもしてやれないだろう。
 幸せに浸っていて欲しい…でも、このままではいられなくなる。
 必ず…いつの日か、苦しくなる時がくる。
 その時のために…。

「お前にも動いてもらうことになるかもしれない」
「リバル様の命令ならば…」
「そういうなら、そんな顔をするな」

 リバルはテナの顔をみて苦笑しながら言った。
 しかしテナは聞き取れていなかったらしく、もう1度言うように言ってきた。
 リバルはテナの問いに答えることなく視線を落とした。

 テナの顔は、とても辛そうで泣きそうな顔をしていた。
 おそらく俺のために動くということはなんとも思っていないだろう。
 俺が命令をくだせば、なにくわぬ顔で動いてくれるから。
 テナは俺やシオルやロイトの心を見透かすことが得意だ。
 見透かすとは言っても最近はロイトのことがよくわからないようだが…。
 だから、きっと俺の迷いにも気付いているのだろう。
 俺が自分をごまかしてテナに命令をくだしているのを知っていて従うべきか否かを迷っているようだった。

 けれど、そんな心配は無用だ。
 自分がすべきことを知っているから…。

「テナ、シオルはどこに?」
「シオルなら自室で休んでいます」
「そうか…。シオルを頼むな」

 リバルがそういうとテナは深々と頭をさげた。
 そして、テナが部屋を出て行く。

「…本当の敵は俺たちではない。
 ライ…」

 リバルのつぶやきは誰に聞かれることもなく静かな空間に溶けていくように消えた。
 なれた1人という空間に、どこか寂しさを覚えた。
 なれたつもりになっていたのかもしれない。
 今まで寂しさを覆い隠すようにして冷酷さに身を委ねた。
 だから、どんな残酷なこともできた…。
 ミナミとあいつを引き裂くことも…。
 そして、ミナミを自分の駒のように扱うことも誰になんて言われようがかまわない。

 小さく息を吐き出して変わることのないつくられた空を見上げた。

 テナはロイトが力をたくわえるために眠った空間にきていた。

「ロイト…」

 テナの呼びかけにロイトの声が直接頭の中で聞こえる。

『…テナか。今は力をたくわえている最中だ。
 お前の前には現れられない』
「わかってる…ロイト」
『なんだ?』

 感情のない声がテナの心を揺さぶる。
 前は違った…リバル様もロイトも、どうしてこんな風になってしまったのだろう…。

「私…」

 テナの声がかすれ始めた。
 ロイトは言葉をかけることなくテナの声に耳をかたむけている。
 テナから涙が溢れ出した。

「ロイト、リバル様がウソをついているの…。
 リバル様は本当はしたくないことを下界にいる者たちにしようとしている。
 本当は、この世界からでて生きたいと願っている純粋な人なのに…。
 自分を欺いてまですることなのかしら…」

 そんなテナの言葉にロイトは何の返答もしない。
 ロイトは、冷静にテナに問いかける。

『お前は、何のために存在する?』
「えっ…?」
『お前の願いはなんだ?
 俺はリバル様に生み出された。
 リバル様の命令に従い望みを叶えることこそが俺の役目。
 足手まといになるようなら、お前は手を出すな』

 ロイトの言葉にテナは何も言えず立ち尽くした。
 もうロイトの気配もない。
 自分が何のために存在するか…そう考えていると涙も自然にとまった。
 自分はロイトの言うように自分を生み出してくれたリバル様につき従うだけだ。
 まだ、どこかに迷いはあった。
 でも、リバル様の言うことに従おうと思った。

「ありがとう、ロイト」

 テナはそういって眠っているであろうロイトに向けてつぶやき、その部屋をあとにしたのだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ