小説内容2

□第五話
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 はるは、まだゆめの中にいた。
 3人で仲良く遊んでいる幸せなゆめ。
 寝ていながらも、はるは幸せそうに笑った。
 そんなはるを見て緑木は言った。

「幸せそうな顔して寝ちゃって…僕とリークの気持ちなんか考えていないんだろうなぁ…」

 苦い笑みを口元にうかべて緑木は肩をすくめた。
 はるの顔にかかっている髪の毛を耳にかける。
 血が欲しい衝動に駆られたが、それよりもはるへの気持ちの方が上回っていた。
 緑木の目が緑色に輝き始めた。
 血管がみえるが血よりもキスをしたかった。
 はるの頬に手を添えて唇を近づけようとしたところで「緑木」と自分を呼ぶ声がした。

「リーク」
「何を…している」

 リークの声はふるえていた。
 それが怒りでだと簡単に理解できる。
 リークからは闇の力があふれ出していた。
 しかし、はるを起こさないためか緑木に力を使おうとはしなかった。

「はるちゃんにキスしようとした」

 ウソをついてもバレいるのだから誤魔化せないし緑木はウソをつくことが苦手だった。
 誰かを傷つけないためのウソならばつけるが、それ以外で相手を騙すということはできなかった。
 緑木の言葉にリークの眉間にしわが寄った。
 かなり怒っているようだ。

「はるのそばからどけ」
「うん」
「はるは望んでいない。俺たちの関係が変わることを」

 その言葉に緑木は何も言えなかった。
 はるちゃんを見ていればわかる。
 はるちゃんは僕たちの関係が変わることを望んでいない。
 ずっと3人でいたいとおもっているんだ。
 でも、それは僕からしたら残酷なことだった。
 おそらくリークもかなり苦痛だろう。

「リーク、僕たちは…いつまで我慢できるかな?」

 その言葉にリークは答えることなくうつむいた。
 リークからの力も消え、ただぼんやりと下を見つめている。
 その様子からしてリークにもかなりキツく、いつまではるちゃんの気持ちを尊重できるかわからないということが分かった。
 でも、リークは僕にとても儚い笑みを向けてきたんだ。

「俺は…できる限り待っている」
「リーク…」
「はるが受け入れられるようになるまで…なるべく」

 リークは、本当にはるを大切に想っているようだった。
 そんな辛そうな顔をしながらも、そんな風に言えるなんて強い人なんだと思った。
 リークは少しずつ小さいころと変わっている。
 それに比べて自分はどうだろうか…リークはここまで、はるちゃんを想っている。
 僕は…?
 僕は、どうなんだろう…わからない。


 2人の雰囲気が重苦しく話せないでいると、はるが目をこすって起き上がった。
 リークは咄嗟に笑みを浮かべて、はるをみる。

「あっ、はる。はよ」
「おはよ、はるちゃん」

 緑木もすぐに笑みを浮かべたが、はるは何も言わずボッーと2人を見ている。
 そして、いきなりベッドからおり立ち上がると2人に近寄って頭を撫でた。

「えっ?!」
「はるちゃん?!」

 2人が驚いていると、はるはぼんやりとしたまま立っていた。
 そして2人をみて言う。

「喧嘩らめらよ〜」

 はるのおぼつかない言葉を聞いて2人は目をパチクリとさせる。

「はっ?!!寝ぼけてんのか?!」
「みたいだね」

 困ったように笑いあっていると、だんだんはるの目がしっかりと開きはじめ固まった。
 そして何度か目をこする。

「ねぼけてた」

 リークが笑うとはるの顔は、真っ赤になり恥ずかしそうに両頬に手を添えた。
 少ししてから静かに言った。

「だって、喧嘩しているように見えたんだもん

「えっ?」

 リークと緑木が顔を見合わせると困ったというように2人は口元に笑みを浮かべた。
 リークが安心させるようにはるの方に向いて微笑む。

「喧嘩なんてしてないよ」
「やっぱり思いちがいかぁ…。
 昔、2人が喧嘩したときと似ていたんだけど」

 ゆめかぁ…と言ってはるは笑った。
 リークも緑木もまさか、はるのことで争っていたとは言えず気まずそうに部屋へと目を向けた。
 そんな2人のことを、はるは気にすることもなくカーテンをあけ大きく伸びをした。

「平和だねぇ…緑木も戻ってきて」

 はるは幸せそうに月を見上げた。
 そんなはるをリークと緑木は悲しげに見つめていた。
 はるが「ねっ!!」と振り返って笑顔で言うと2人の顔は微笑みに変わりうなずいた。

(はるちゃん、ごめんね…)

 緑木は心の中ではるに謝っていた。
 いつかはるの気持ちに背くようになるだろう。
 そのままでいたいとはるちゃんが願っても、きっと僕はその願いをかなえることはできない。
 はるちゃんを見ていると悲しくなる。
 胸がしめつけられて苦しくなる。
 はるの気持ちを大切にしたいという思いと自分の気持ちを伝えてしまいたいという気持ちが入り交ざる。

 でも、はるちゃんには笑っていて欲しいんだ。
 自分の命を落としても守りたいと思う。

(はる…俺は)
「リーク?」

 じっと、はるをみていたら不思議そうに俺の顔をはるが見てきた。
 そんなはるに笑って見せた。
 つくった笑みを向け何もなかったようなすました顔をする。
 酷いことを言ってしまうがはるを騙すのは簡単だ。
 はるはバカがつくほど正直で無垢だから。

 俺は、はるを奪う…必ず。
 緑木がどうするのかはわからない。
 はるの気持ちは俺も緑木も尊重するだろう。
 できる限りまで…。
 でも、おそらく緑木のことまで我慢するのは無理だ。
 俺はそこまで気は長くはない。
 短気と言うわけではないが欲しいものは手に入れるというものは闇としての性質なのかもしれない。

 きっと、その時はるは悲しむだろう。
 泣きながら、なぜと俺に問いかけても来るかもしれない。
 でもはる、変われないものなんてないんだ。
 全て少しずつであれど、うつり変わっていくものだから…。
 俺たちも変わっていかなければならない。

 リークは、はるから目線を外し床に目をむけた。

 はるは幸せだった。
 また、こうして3人でいられることが嬉しくてたまらなかった。
 昔のように変わらずここにあることができるのはライたちのおかげだ。
 緑木を解放してくれたおかげで今がある。
 はるは多くの者に感謝の気持ちを持っていた。
 かわらなくていい…。
 このまま3人で笑いあっていられるのなら、それでいい。
 私は変わってしまうことが怖いから。
 だから、2人には残酷かもしれないけれどこのままあり続けることを望もう。

 そう思っていると人間界に行く前のことが思い出された。
 リークが言った。
 俺も緑木もお前のことが好きだと。
 でも、はるはその言葉を忘れたことにする。
 その言葉を覚えていてしまったら変わらざるおえないから。
 今の自分に2人のどちらかを選択するなんてことできない。

 はるが2人にバレないように顔に笑みを浮かべる。
 3人がそれぞれバレないように顔の表情をつくっていた。
 3人の顔には悲しさと決意が揺らいでいた。

 
 シズカは、ぼんやりとしていた。
 スカルに抱きしめられてから何も深く考えることが出来なくなっていた。
 どこかに魂を置いてきてしまったようなそんな感じだった。

 スカルは何も言わずにあれから部屋を出て行った。
 それから、なかなか顔をあわせることが出来なくなってしまっている。
 会っても話すことは出来ず、しどろもどろになってしまう。
 そんなうちにスカルは何も言わない。
 何か言ってくれれば気分も楽なのだがスカルの場合、言わないことの方が多いから罪悪感を感じてしまうのだ。
 シズカはため息をついた。
 自分の愚かさが辛い。
 なんで気の利いた言葉も言えないのだろう。
 謝るとか何かすればいいのに何もしない。
 そんなうちは自分が大嫌いだった。

「スカル、ごめん」

 1人でいるときに言っても意味がないことはわかっている。
 でも、つぶやかずにはいられなかった。
 スカルがいなくても口に出したと思えば少しは気分が楽になる…そんな気がした。
 けれど、その言葉は自分の心を重くするだけだった。
 胸が苦しくなって、また1つため息をついた。
 なんだか疲れてしまっていた。
 まだ起きたばかりで動いてもないのに異様に体が重い。

 起き上がって顔を洗うため部屋の洗面所へと移動した。
 鏡にうつる自分は情けない顔をしていた。
 気分を変えるためにきたのにまったく意味がないようにも思えた。
 そんな思いを消すかのように蛇口をひねり大量の水をながすと手で水をすくって顔にかけた。
 ひんやりとした水がモヤモヤとした心をスッキリと変えていく。
 タオルを取り出すと水を止め顔についた水滴を拭くことなく首にかけた。
 いささか落ち着きがないようにも思えるが行動していた方がずっと気分が楽になっていた。

 気分を変えるためカーテンをあけ窓やコテージにつながる扉を開ける。
 心地良い風がシズカをとりまき部屋へと流れ込んだ。
 気持ちがだんだんと前向きに変わっていく。
 大きく息を吸うと、たまっていたものを吐き出すように息をはいた。
 顔についている水滴が冬の冷たい風で水の冷たさ以上に冷えているように思った。
 顔も冷えはじめ首にかけてあったタオルでふいた。

「よしっ!」

 気分も入れ替わりスカルに話しに行こうと思った。
 すぐにタンスとクローゼットから簡単な服をつかみ取り出す。
 着替えをすませると鏡の前に行き化粧道具の入った引き出しからクシをとりだした。
 ボサボサの寝癖のついた髪をクシでとかし寝癖は水を使ってなおした。

 いざ部屋をでようと思って少し戸惑いを覚えたが振り切るように扉のノブに手をかけあけた。
 少し起きるのが早かっただろうか…辺りは静まったまま誰もいなかった。
 静かに扉を閉めるとスカルの部屋まで行こうと廊下を歩き始めた。

 ふとミナミの部屋の前を通ると、あまり気分が良いとはいえない感じがした。
 しかし、勝手に部屋に入るわけにもいかず寝ていたら起こしてしまうのも悪いと思いその場をあとにした。

 あれこれとスカルに何を言えばいいのだろうと思い、考えている内にスカルの部屋の前についてしまった。
 そこで悩み続けていても良かったのだが、さすがに誰かが通りかかったら不思議に思うだろう…。
 いきなり気まずい雰囲気になるのはごめんだと思い黙って部屋に入ることにした。
 ノックをしないで入って驚かせようと思ったのだ。
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