小説内容2

□第五話
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 私は知っている、あの人を…あの人の優しさも…。
 でも思い出せない。
 どうして、思い出したらいけないの…リバル様。

 ナツミはベッドの上で目を覚ました。
 あまりよく眠れたとは言えない。
 神聖樹で会ったリバルのことが頭から離れない。
 ウソで塗り固められた仮面をつけているように優しく笑っていた。
 それが本当の笑みではないことぐらい目の中をみればわかる。
 目の中は微塵も笑っていなかった。
 とても冷たい色が浮かんでいた。

「また会うことになるのかな」

 天井を見上げながら1人でつぶやいた。
 すると頭の中にもう1人の私の声が聞こえた。
 闇の私は、もう会いたくないと言っているが私はもう1度会いたい。
 そして私の中の閉ざされた記憶を戻してほしい。
 いつもジャマをされて見えなくなってしまう記憶。
 その記憶は一体何なのか、そう思っていた。

 頭が急にきしむように痛み、血まみれの女の人の顔が浮かんでは消えた。

「いたい…」
「くそ…」

 力が安定せず闇と光の姿が明滅するように変化した。

「いきなり、なんなんだよ」

 闇の姿に安定させると頭をおさえ痛みにたえた。
 そして人の気配を感じ、そちらに目を向けると知らない男が立っていた。
 冷たい光を目に宿し闇を見ている。
 闇は身構えつつ自分の姿をこのまま保てるように力の調整をした。
 すると、無表情の男は感心した声をもらした。

「お前が俺に変なことしてるのか」
「あぁ。なるほどな…。
 自分の力の制御はできるようだな」
「だれだよ…お前」

 闇は男を睨み据える。
 闇のナツミが対峙していたのは神の1人のロイトだった。
 まだナツミたちが会ったことのない3人の神の中の1人だった。
 ロイトの顔に表情は浮かばない。
 ただ淡々と話すだけだ。

「我は大神につかえる3人の神の1人、ロイト・ラウム。
 お前はリバル様を乱すもの」
「はぁっ?!」
「リバル様が深くお悩みになられるのは全てお前のこと。
 リバル様の気を煩わせる者は消す」

 ロイトが話す様子をみていると闇はロボットか何かのようだと思った。
 表情はないし決められたことを決められた通りにやる。
 ただの操り人形…ロイトにはその言葉があっていると思った。

「消えろ…」

 ロイトの言葉を聞いて我に返ると闇の力を自分の周りに球体にして漂わせロイトからのとんでくる力の塊にあてた。
 そして、すぐにその場から飛び退いた。
 ロイトは逃がさないとでもいうように力を使ってくる。
 闇も対抗して力を飛ばすが、その力は消えたと思うと少し遅れて自分に向かってくる。

「あー、もう!!なんなんだよ…。
 俺の力、全然あいつに当たんねぇ」
「俺は時空神、時、空間をつかさどる神。
 お前の力は俺が空間を捻じ曲げお前自身に返してやっている」
「ふざけんなよ!」

 ロイトの力をよけながら自分の部屋が壊れていくのを見やる。

「俺の部屋がこわれるだろーが!!」
「部屋のことを心配しているのか滑稽な者よ…お前は俺に消されるのだから気にすることはない」
「勝手に決めんじゃねー!」

 闇からしたら部屋なんてものはどうでもよかった。
 しかし、ここが唯一もう1人のナツミが安心していられる場所なのだ。
 これ以上壊すわけにはいかない。

「闇の力が通じないなら、俺自らお前の息の根を止めてやる!!
 悪いが消えてもらうぜ!」

 自分の爪をのばし鋭く尖らせると爪に闇の力をまとわせた。
 1度後ろにとぶと壁をけってロイトに爪を突き立てようとした。
 しかし目の前の空間がゆがんで吸い込まれていきそうになるのを誰かが止めてくれた。
 闇は自分の腕をつかんでる人をみて声をあげる。

「ライ!?」
「やはりか…ロイト」
「ライか。裏切り者の男よ」

 ロイトの口調が変わる。
 わずかに嫌悪感を含んでいるようだった。
 ロイトから闇の力がとばされる。
 力の形状から見て先ほど自分がとばしたものだと闇は思った。

「俺の力、勝手に使うな!!」
「こんなもので俺を倒そうとは…浅はかになったようだな、ロイト」

 ライの瞳が輝き特殊能力の雷が地面を這い向かってくる闇の刃を消し去った。
 闇はそんな戦いをみながら小さく舌打ちをした。
 闇である自分のことは隠していたのに父であるライにバレてしまい困惑したからだ。
 自分の中でもう1人のナツミに話しかける。

(元からライにはバレてると思ってたんだろ…)
(でもっ…)
(あー、わかったよ。しゃーねぇな)

 闇は苛立たしく言うとナツミに体を返した。
 ナツミが父に声をかけようとしたが話しかけられるような雰囲気ではなかった。
 ライはにらみつけるようにしてロイトをみている。
 ライもロイトも殺気立っていた。

「ライ。リバル様はお前を神天世界に戻したいそうだ」
「しるか…俺はあいつの考えには賛同できない」
「ならば死ね。反逆者」
「お前が俺に挑みかかるとはいい度胸だ、ロイト」

 ライの瞳が金色に輝くとロイトがたじろぎ始めた。
 そして、忌々しげに吐き捨てるように言葉を紡いだ。

「その目、忌々しい。
 きさまのような奴が持っているなど…いつかえぐって切り裂いてやる」
「できるのならやってみろ」

 ロイトが力を手にため込んだ。
 その力が解き放たれようとしたときロイトが動きを止めた。
 ロイトの表情が少し変わりつぶやいた。

「リバル様…おおせのままに」

 ライが怪訝そうな顔をするとロイトの口元に笑みが浮かんだ。
 それは今日初めて見るロイトの表情と言うものだった。
 その笑みはどこか不気味さを感じさせる。
 ロイトは顔を紅潮させている。

「今はまだ…お前を始末しない」

 ロイトの手から力が消えていく。
 ライを見据えてからナツミへとロイトは視線をやった。

「リバル様がなぜお前のようなものに興味を持たれるのかはわからない」

 そう言い残し胸元にあった砂時計をひっくり返した。
 すると部屋がもとにもどりロイトは姿を消した。
 ナツミがふるえる体を自分で抱きしめているとライが頭に手を置いてきた。
 ライの手の暖かさで少し安心感が広がる。
 

「大丈夫か?」

 ライの問いをきいてから自分のもう1人の闇の姿を見られてしまったことを思い出した。

「大丈夫…だけどお父様…あの、その私の変な姿はコスプレというか…」

 闇のことをごまかそうとナツミは必死の様子でライに話し始めた。
 ライの顔には優しさがにじみ出ていた。
 その表情をみているとナツミは何も言うことができなくなりうつむいた。

「ごめんなさい、お父様」
「なぜ謝る?俺は知っていた…お前のことを」

 その言葉に私は驚かなかった。
 どこかでそうだろうと思っていたから。
 お父様は私のことを知っていて黙っていてくれたのだ。
 ふとライの表情が厳しいものに変わる。

「ロイトのことは、みんなには黙っていろ」
「えっ…?」
「始末は俺がつける」

 ライはロイトが消えていった場所を睨み据えた。
 瞳にわずかに赤紫色が滲んでいる。
 少し怖くなってライの名前を呼ぶと恐ろしかったライの顔は一瞬で優しいものに変わった。

「さてと…まだ着替えていないようだから着替えたらおいで」

 ナツミがうなずくとライは部屋から出ていった。
 着替えをクローゼットから出しながら思ったことがあった。
 ロイトについていけばリバルに会えるのではないかと。
 神天世界という別の場所にいけるのではないかと思ってしまった。
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