小説内容2

□第五話
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 ナツミは城の屋上にある風呂に入りながら、ため息をついた。
 上を見上げればガラス越しに星空が見える。
 お風呂に浮かべられたバラの匂いが浴室にほのかに香る。
 両手でお湯をすくうと顔にかけた。

 黒妖剣を使ったとき、なにかが私の中でほんの少しの間かわった。
 両手で黒妖剣を支え持たなければ力をまとったミナミの滅命剣を止めることができず、ふるわれる剣を防ぐことで精一杯だった。
 けれど、それは一瞬にして変わった。
 なにかが私の中で変わると片手で剣を持っているだけでミナミの攻撃を防ぎ、はねかえすことができた。

 私にもわけがわからなかった。
 ミナミが一瞬驚いていたのは今でも鮮明に覚えている。
 ちょうど、私の力が変に上がった時だった。
 ミナミは私をみて何を気づいたのだろう…。
 私は気になって仕方がなかった。
 自分のことなのに自分のことをまったく理解していない。

 また大きなため息がこぼれた。
 
 すると、カラカラと扉があく音が聞こえた。
 そこに立っているのは、はるだった。
 はるは目を凝らしナツミを確認すると微笑んだ。

 城の浴室は、とても広く何人でもはいれる。
 人間界で言う温泉のようなものだった。
 はるは、シャワーで体を流してからナツミの横に入ってきた。

「なつみん、顔赤いね」

 はるは女同士だから気にしていないのかもしれないがナツミは少し気恥ずかしかった。
 シズカとは、一緒に入るということがないからわからないが、はるの体は女性の体としてはあこがれてしまうようなところがあった。
 私は自分の体をみて盛大にため息をついた。

「どうしたの?」
「うぅん〜。はるはいいなぁ…」

 そうして、男子禁制の女子トークが始まった。
 

「はるってさ、胸大きいからいいよね〜」

 ナツミが真顔で言うので、はるはいつものように変態だねと言うことができなかった。
 ナツミにつられるようにして、はるも笑うことなく普段通りに話した。

「でも、大きければいいってわけでもないよ。
 普通が1番」
「まぁね〜…」

 まるで、おばさんのように言うのではるは少し笑ってしまった。
 なつみんらしくないなぁと心の中で思いつつ、そうやって自分の体のことで悩んでいたことにホッとする。
 ヴァンパイアになってから人間の時みたいに女子ならではの相談など聞いていなかったから。
 悩みまでもが人間から変わってしまったのかと思っていた。

「なに笑ってんの〜?」
「んっ?なんでもないよ」

 はるが微笑むとナツミはふぅんと言って空を仰ぎ見た。

「ねぇ、はる…私、自分のことなんにも理解していないの」

 空を見上げているナツミを見て、はるは首をかしげた。
 そして自分の中に浮かんだ思いをはるは話し始めた。

「私たちってヴァンパイアに戻ったけど…やっぱり人間の時と変わらないことっていっぱいあるよ?
 なつみんは気づいていないかもしれないけど…。
 なつみんの性格とかクセとか人間の頃と全く変わってない。
 私もヴァンパイアになったら、なにもかも変わっちゃうんじゃないかって思ってた」

 湯船に浮かぶバラをそっと手にとり、はるはバラを見つめた。
 バラに闇の人が触っても枯れないように術が施されているのをみて、まひろがやったことだとわかった。

「でも、やっぱり変わっていなかったところがほとんどだった。
 前にも言ってたようにヴァンパイアも人間とそう変わらない。
 なつみんが全く理解できていないって思うのは、きっとヴァンパイアの自分。
 分からないなら知っていけばいいんだよ。
 私たちはヴァンパイアとして生きた時間が少ないんだから、そう思うのは当たり前だよ」

 はるの方をみると、はるがいつになく優しげな笑みを向けてくる。
 はるは、いつからこんなふうに言うようになったのだろう…。
 今でも少し天然さが残っていて人間の時となんら変わらない。
 きっと、はるの今のしっかりとした言葉や考えも人間の時と変わっていない。

 だから、そんな風にしっかりとした自分の意見を言うようになったのはヴァンパイアになったからではない。
 はるは元からしっかりしているんだ…。
 私が悩んでいた時も、はるは真剣だった。
 その時は自分のことでいっぱいだったけど今ならわかる。
 はるは、その時も今のように強い意志と言葉で伝えてくれていた。
 私を支えてくれていたんだ。

「ありがとう、はるちゃん」
「どういたしまして」

 2人で笑いあっていると、また扉が開く音がした。
 シズカかまひろかミナミの誰かかと思って、扉の方をみて凍り付いた。
 そこに立っていたのはスイルとスカルとリークで3人は苦笑している。
 スイルが動揺を隠せずにつぶやく。

「あ…れ?」

 スカルも冷静に装いながらも目を手で覆って言う。

「これは…」

 スカルがため息をつくとリークは頭をかきながら困ったように笑う。

「あっちゃー…やっちゃったな、これは…」

 ナツミとはるの顔から血の気が引いた。
 そして悲鳴を上げると、はるは手近にあった桶を持つと湯から体を出すことなく思いっきり投げた。
 桶はリークに直撃した。

「いってぇーー!!」
「へんたーーーーい!!」
 

 2つの桶を両手に持つとスカルとスイルに向かって投げつけた。
 2人にも桶が直撃した。
 はるが大きく息を吐く中、ナツミの体がワナワナとふるえ特殊能力が発動した。
 冷気が辺りに立ち込めるとタイルが凍り始めた。
 そして、3人が凍ってしまったのは言うまでもない。


 そのころシズカはまひろと紅茶を飲みながら話していた。
 どうしても力のことで相談があり疲れている中、悪いと思いつつもまひろに尋ねていた。

「シズカって特殊能力は風だよね?」
「そうだよ」
「風っていろいろ変えることができると思うよ」

 まひろは、そういって風の質の変え方や攻撃にするような形を教えてくれた。
 シズカが嬉しそうにすると、まひろも嬉しそうに笑ったがふと目を伏せた。
 まひろの顔に笑顔はない。

「まっひー?」
「あっ…ごめん」
「何か悩み事?」

 シズカが聞くとまひろは躊躇いつつも少しずつ話し始めた。

「ミナミ、このごろ元気なくて…悩んでいることが多くなったの。
 小さいころはいろんなことを話してくれたんだけど…今悩んでいることは話してくれないの。
 ミナミにも自分だけで考えたいことはあると思う。
 だけどやっぱり少し寂しくて…私は役立たずなんだって…」

 まひろの言葉にシズカは少し考え込んだ。
 なんていえばいいのか言葉が見つからない。
 でも今は自分が思ったことを言うべきだと思った。

「まっひーは役立たずではないと思う」
「えっ?」
 
 まひろは顔をあげ不思議そうにシズカをみている。

「うまく言えないけど…そばにいてくれるだけでも支えになるってことあると思う。
 きっとミナミには言えない何かがあるんだと思う。
 でも言えなくても誰かがそばにいてくれれば、それは支えになるんじゃないかな?
 相談できるだけがいいとは限らないって、うちは思う。
 本当に困ったとき、助け合うことができることが大切だよ」

 シズカはまひろの目をしっかりと見つめた。
 自分が困ったとき、ナツミとはるはそばにいてくれた。
 うちがビクビクして自分の弱さを見せたくないと思っていることも理解してくれた。
 うちは、それがとても嬉しかった。
 そばで支えてくれている人がいることは、とても力になっていたから。

「だから、まっひーは今できることをすればいい。
 無理に役に立とうなんて思わなくていいんだよ」
「そうだね…シズカって、すごくいいこと言うね」

 まひろに笑顔が戻ってきた。
 まひろが本当にミナミのことを思っているのだとシズカは思った。
 ミナミのことを話すときのまひろは本当に心配そうにしていたから。
 

「ありがとう」
「どういたしまして」

 まひろが元気になってよかったとシズカは心から思った。

 まひろが心配していたミナミは部屋にいた。
 前にいる人を見据えてイライラしていた。

「で、どうなんだ?」

 リバルがニヤリと笑ってミナミに状況報告を促す。

「…なっちが闇の力を使えるようになってきてる。
 それに黒妖剣も手に入れた」

 ミナミの報告にリバルは口元に笑みを浮かべた。

「珍しく従順ではないか」
「くっ…私には目的があるから」
「そうだったな…まっ、報告ありがとう。
 じゃあな」

 そういって、リバルは消えた。
 リバルへの報告を終えミナミはベッドに倒れこんだ。
 リバルがナツミの今の状況をしって何も思わないはずがない。
 そろそろ動き出すはずだ。
 そうしたら、いよいよ私はみんなを裏切ることになる…。

 リバルは1人用のソファに座って微笑んでいた。
 そして静かに言う。 

「黒妖剣か…ナツミ、やっと会えるな…」
「もう会ったことあるじゃん」

 不思議そうにシオルが前にきて言う。
 シオルの言葉にリバルはそうじゃないと言った。
 ナツミは自分のことを大神としか知らない。
 俺が記憶を戻していないから…。
 ナツミとは小さいころに会っている。
 その記憶すらナツミには戻してやっていない。

「ちゃんとした記憶は1番ナツミが困るときに戻してやるから…」

 ソファから立ち上がり目の前の大きな水面にうつるナツミを見てリバルは冷たく微笑んだのだった。
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