小説内容2

□第五話
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 ナツミとミナミが剣を交えているのを2人以外の人たちは離れてみていた。 
 心配性のはるはヒヤヒヤとした様子でそれを見守っている。

「あれ、ミナミ本気になりかけてる」

 まひろは、しまったとでもいうように困った顔をしていた。
 その言葉を聞いてスイルが駆けだそうとするのをスカルがスイルの肩に手をかけ止めた。
 スイルからいつもの余裕が消えている。

「兄さん、離して…。
 ナツミがもしあの剣で傷つけば再生能力は機能しなくなって人間と同じくらいのスピードでしか治らなくなる」

 スイルから白銀の力が漏れ始めた。
 スイルが心配するのは分かる…でも。

「もし、お前が今出ていけばナツミの集中はそがれる。
 そうなればミナミに隙をつくることになる」
「…チッ」

 スカルの言うことは最もだった。
 だから、スイルもそこに踏みとどまることしかできなかった。
 危なくなれば出ていってかばえばいい…そう自分に言い聞かせることで、なんとかスカルの言うとおりにした。

「はる」
「どうしたの、シズカさん」
「2人の傷、治せるようにしておいて…。
 もしかしたらってこともあるかもしれないし」

 シズカの言葉に、はるは真剣な表情でうなずいた。
 特殊な剣で斬られてしまうから自分の回復の力で、どこまで治せるかはわからない…。
 でも少しでも治せることができるならその方がいい。
 血を止めるだけでもいい。
 失血が酷いことがよくないということは確かなのだから。
 自分の手に向けていた視線をはるはナツミとシズカに向けた。

 その時はちょうど2人が駆けだしたところだった。
 金属音が辺りに響く。
 剣と剣が交わるたびに火花が飛び散った。
 ナツミとミナミはギリギリのところで剣先をかわしていた。
 髪の毛が切れたりして緊張感が増していく。

「キリがないね…」

 そういってミナミは剣を振り下ろした。
 ナツミはそれを防いだが滅命剣に鈍い光が宿ったことを目にとどめると、ものすごい力で押し戻された。
 体が揺らぎ態勢を崩してしまった。
 その瞬間、滅命剣が頬をかすった。
 普通の剣とは違い傷口がビリビリと痛む。
 なかなか傷がふさがらず血が頬をつたい落ちる。

 ナツミは頬の傷に手を当てた。
 なぜか口元に笑みがうかぶ。
 人間のようだ…少し嬉しい。
 人間に戻ったみたいに思えたから。

「なに笑ってるの?余裕だね、なっち」
「全然、余裕じゃないよ。
 ただ人間みたいだなって…。
 なつかしくなっただけ」
「あぁ、なるほどね」

 ミナミの顔にも笑みが滲んだ。
 そして鈍く光る剣をかまえなおした。

「その滅命剣…」
「あー、これ?これは滅命剣に自分の力をまとわせただけ」
「それで力がいきなりあがったんだ…」

 ミナミに容赦なくあびせられる剣を防ぎながら納得がいったように剣を見た。
 ナツミは後ろに宙返りをして距離をとると静かに息をはいた。

「疲れた…」

 ナツミの瞳にわずかに赤紫色が滲んでいた。
 ミナミは一瞬、驚いたように目をみひらいたがすぐに剣をふりナツミに斬りかかった。

 しかしナツミは片手で黒妖剣を持ちミナミから振り下ろされる剣を止めた。

「バカにしたら、ダメだよ」

 ミナミを力で押し返すようにしてミナミをはねのけた。
 ミナミの腕がきれ血が噴き出す。

「今日はこのへんにしとくよ。
 今、腕をきったけどたぶん力が入りにくくなっているはずだから」
「そうだね」

 ミナミは血が滴る腕をおさえながら言った。
 そして2人は剣を鞘におさめると指をならし剣をそれぞれ消した。

 2人の手合わせが終わったとわかると、はるが駆け寄ってきた。
 まず、傷の深いミナミから手当を始めた。
 生々しい傷をみて、はるの顔がひきつる。

「うわ〜…ざっくりいったね。
 とりあえず血を止められるかやってみるから少し待って」

 はるが傷口に手をかざすと温かい光が、はるの手から放たれた。
 傷の治りをみながら、はるがつぶやく。

「やっぱり、治りにくい…」
「大丈夫だよ」
「そういうわけにはいかないよ。
 …ちょっと待ってね、もう少しやってみる」

 少しの間、光をあて続けるとミナミの傷口がだんだんとふさがり始めた。
 それをみてミナミが驚いて、はるをみやる。

「はるちゃん!?」

 滅命剣と黒妖剣で斬られた傷は、なかなかふさがらない。
 しかしミナミの傷は少しずつふさがり始めている。
 はるからは、たくさんの汗が流れ落ちた。

「そろそろ限界…ごめんね。
 ちゃんと治せなかった」

 深かった傷は切り傷程度になり血も止まっていた。
 ほんの少し痛みがはしるが剣を持てないというほどではなかった。
 

「ありがとう、はるちゃん」

 そういうと、はるはすごくうれしそうに微笑んだ。
 そして首を横にふった。

「どういたしまして!!
 でも、お礼を言うことではないよ!
 私の役目だから!」
「でも、無理は…」
「大丈夫!!あっ、なつみん傷は?」

 はるが自分の前から去っていく。
 その姿を心の痛む思いで見ていた。

(はるちゃん…私は、はるちゃんを裏切る。
 私は…)

 ナツミの傷をみているはるを見ながらミナミは心の中で言った。
 きっと悲しませるに違いない。

 罪悪感を胸にしまいこむように目を閉じた。

「ミナミ?」
 

 ミナミの様子がおかしいことに気づき、まひろは不思議そうに声をかけた。
 ミナミは目を開けてまひろを見た。

「ミナミ、もしかして傷が痛む?」
「うぅん、傷は痛まない」
「傷は…?他に痛むところがあるの?」

 ミナミの言い方が少し気になり他のところかと聞いてみたがミナミは微笑むだけで何も言わない。
 悲しげな笑みをたたえるだけだった…。
 こうやって笑うときは今までもあった。
 だれにも言えない何かをミナミは抱えているのだと思っていた。
 聞いても言ってくれないことぐらいわかる。
 だから私はそばにいてミナミが命を落とさないようにするだけ…。
 大切な昔からの友だちを失わないように…。

「ないよ。傷も痛まない」
「…ミナミがそういうなら信じるよ」
「ありがとう、まっひー」

 ミナミも気づいていた。
 まひろが自分が隠していることがあるということを知っていると…。
 それでも言えない。
 傷口じゃない。
 心が痛むのだということをまひろは、きっと知っている。
 だから、あんな言い方をしたんだ。

 まひろはいつも少し寂しげに笑うけど…私を責めたりしない。
 本当に優しく相手を思いやれる人だと思った。
 そして自分がどうするべきか1番知っている人だと…。

 どんなに冷酷になったとしても、きっとまひろを刺すことはできない。
 まひろに救われてばかりいた私が刺せるはずがない。
 まひろを刺す以前にナツミ、シズカ、はるの3人すら手にかけることは不可能かもしれない。
 たとえ、リバルの命令であっても…。
 ライたちを刺すことはできる。
 言われれば刺すことぐらい可能だ。
 自分はライたちを殺してもなんとも思わないから。
 滅命剣があれば私の目的は達成できる。
 私はそのために、あの子たちを裏切るのだから…。

 そうして、力の話が終わりみんなはそれぞれ部屋に戻ることになった。
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