小説内容2

□第四話
2ページ/2ページ


 ライがナツミに向けて言う。

「まだ光の方が力が強いな…」
「うん…」

 びっしょりと汗をかき手でぬぐうと大きなため息をついた。
 スイルが疲れ切っているナツミのそばによる。

「ナツミ、どうして闇の力をあげたいの?」
「闇の方が戦いに向いているから、与えるダメージも光より大きいし…本当に守りたいものがあるから。
 私は闇の力も上げることを選んだの」
「そんなことしなくても俺が守るのに…」

 少しふてくされたように言うスイルに小さな笑みをこぼし目を閉じた。
 力の質を少しずつ闇に変えていく。
 そして、力を表へと出し始めた。
 ナツミの周りに闇の力が渦をまき始めた。

 もう少し…そう思った瞬間、闇が私を呼んだ。
 そうしたとたん、力が膨れ上がった。
 ライがすぐにその異変に気が付いた。

「チッ、まずいな」
「やれやれ…だから、俺に任せればいいのに」

 爆発的にあがった力をスイルの白銀の力が抑え込み周りへの危害をなくした。
 スイルは息をついてナツミに笑いかける。

「すごいね…いきなり、どうして?」
「えっ…うぅん、なんでもない!!」

 闇のことを誰かに話すわけにはいかない。
 お父様には声のことを言ったけど私の前に現れたとは、まだいっていない。
 みんなに言ってしまったら、きっと心配をかけてしまうから。

 スイルにはわかっていた。
 ナツミが何かを隠していることを…。
 でも言いたくないのに無理に言わせることはない。
 いつか言ってくれるまで待とうと思った。

 そしてライも気づいていた。
 ナツミの中にあるもう1つの闇のナツミが、おそらくでてきたことを…。
 ナツミがそれを隠したことから、おそらくナツミはもう1人の自分に会っているはずだ。

(カエデ…ナツミが少しずつ力をつけ始めた。
 ごめん…お前の言う幸せに、こいつはなりそうにない)

 ライは心の中でカエデにそう告げた。
 カエデはライに言っていた。

『この子には…幸せになってほしい。
 戦いとは、ほど遠い平穏な日々を送ってほしい。
 人間みたいに何かに一生懸命になって誰かと恋をして…楽しく生きてほしい』

 生まれたばかりのナツミをみてカエデはそういっていた。
 母親らしい強かさだった。
 そして俺も同じように思った。

『この子には傷つかず命を捨てるような戦いをさせずに済ませたい。
 命を捨てるのは俺の役目だ』

 俺の言葉にカエデは強い眼差しで俺をみてうなずいた。
 今でもはっきり覚えている。
 けれど、カエデの思う理想のようにはならないとわかった。
 ナツミはさっき言っていた。
 『本当に守りたいものがある』と。
 それはきっと俺の言葉でも覆らない。

 闇のナツミは表に出てこられるというのに、いつも通り身を裏へと隠している。
 その様子から察するにナツミの意思はそれほど固いということだ。
 闇と光が協力しあうなど、あまりないことなのだから。
 
 ナツミはおもむろにシリウスを呼び出した。
 俺もスイルも暴走するだろうと思い身構えた。
 しかしシリウスは不機嫌そうにするだけで前のように暴れない。

「何の用だ。俺を呼び出して」
「シリウス、黒妖剣を…」
「あっ?!黒妖剣だとっ!ふざけんな…」
「ふざけてない…貸して」

 じっとシリウスを見据える。
 シリウスは黙りこくったままだったがナツミがもう1度シリウスの名前を呼ぶと、しぶしぶ黒妖剣を渡してきた。
 黒妖剣を受け取りナツミはシリウスに言う。
 

「私は本当に大切な者を守るために、この剣を使う」

 剣を鞘から抜き放つと空気が張りつめたものに変わった。
 ピリピリとナツミの手に電気がはしる。

「うまく黒妖剣をなじませろ…。
 新しい使い手になって反応している」

 シリウスの言葉にうなずき自分の力を黒妖剣に流しこんだ。
 すると電気はおさまりナツミになじんだ。

「その剣、お前にならたくせる。
 正しくつかえ」

 そういってシリウスは消えた。
 剣を眺めていると目の前にミナミが来た。
 そして、指をパチッとならすとミナミの前に剣がでた。
 それが対となる滅命剣だとわかる。

「1度、手合わせをしよう」

 滅命剣を鞘から抜き放つと、いきなりナツミに斬りかかった。
 上から振り下ろされる剣を目にすると、しゃがみこみ黒妖剣で滅命剣をとめた。
 カチカチと刃同士が重なり合う音がする。

 ナツミは瞳を深紅に輝かせるとミナミは青紫色の瞳に色を変えた。
 ナツミが振り払うように重なり合っていた黒妖剣をふるうとミナミは後方へと飛びのいた。

「なるほどね…」

 ミナミはそういって微笑んだ。
 ナツミが黒妖剣をかまえなおすとミナミもナツミに剣先を向けた。
 ナツミの中で闇が変わるかと尋ねてきたがナツミは何も答えなかった。
 変わる意思がないとわかると闇はまた静かになった。

 ミナミがなんのためにこんなことをするかわからない。
 でも、剣を向けてくるのならやるしかない。
 ただの剣ではなく命を奪う力をもつ剣なのだから…。
 私の心の中で迷いが少しずつ消え失せていった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ