番外編内容

□一瞬の奇跡
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 救えた命のはずだった…。
 けれど、私は見捨ててしまった。
 なんのための力なのだろう…。
 はるはライの部屋に来てライの使っていた机に触っていた。

「ライさん、ごめんなさい…」

 はるは後悔にうちひしがれていた。
 リークにとめられて、ライの傷を治しに行くことをあきらめた。
 あの時、もしも自分がライの傷を治そうとして無理やりにでもリークの手をすり抜けていったなら、ライは今もこの部屋にいたのだろうか。

 暴走した力もライさんの体力や傷が治れば自分でおさえることが可能だったかもしれない。
 そういうことをどうしてあの時考えられなかったんだろう。
 どうしてライさんの死ぬという選択を止められなかったんだろう。
 きっと、まだ死にたくなかったはずなのに…。
 なつみんのこと心配しているはずなのに…。

「私がライさんを殺してしまったんだ…」

 机に涙がおちた。
 ライさん…ポツリとつぶやいた言葉は消えていくだけ。

 ライはここではるたちの公務もやってくれていた。
 はるたちも公務をしなかったわけではないが難しいことはほとんどライがやってくれていた。
 1枚の紙が落ちて、はるは拾う。
 『拾わせて、すまない』ライの言葉が聞こえた気がしてばっと顔をあげるが、そこにはライはいない。
 そして思い出す。
 記憶を戻したころ最初はライを受け入れられなかった…。
 けれどシュナの言葉を聞いてライを許そうと決めた。
 それからライに話すために、この部屋に訪れたときにライが紙を落とし拾ったときに言われた言葉だったと…。

『お前たちを守らせてくれ…』
「嫌ですよ…ライさん」

 ライの言葉を思い出してつぶやいた。
 あの時はライは自分の力をなめるなと言ってきて、そのままになってしまった。

「死んでしまうなら…嫌です。
 私なんか守らないでください…ライさん、自分を強いと言ったじゃないですか。
 それなのに、なんで死んでしまったんですか。
 どうして…ウソついたんですか」

 はるはうつむいて涙をいくつもこぼした。
 なつみんだけを守ってと言って、わかったと言ったくせに全然ライは分かってなんていなかった。
 結局、ライは自分たちのことも守ろうとしていた。
 分かったと言ってくれたのに…。

「わかってないじゃないですか…。
 私の両親に私のこと頼むって言われたんでしょう?
 なんで…なんで、その約束放棄してしまったんですか?」

 ライはもういない…。
 こんなふうにいってもライにこの言葉は届かない。
 どうしてという問いにもライは答えてくれない。
 

「ライさん…」

 その場に座り込む。
 机の上に置いてあった書類がバサバサと落ちた。
 ぼんやりとそれを見て、はるはあることに気が付いた。
 それは、すべての書類の処理が終わっているということ。
 闇の世界のも海原の世界のも大地の世界のも全て…。
 そして、書類の中から紙が1枚でてきた。
 それは公務のものとは関係のないもの…。
 そこには1文が書いてある。
 

 どうか…これから先も大切な者たちが幸せでありますように…。

 はるは、その紙を拾いあげて胸元におしあて泣き声をあげた。

「いやだ…ライさん、みんなで幸せになるんです!
 どうして、1人でいなくなっちゃうんですか…。
 こんなの幸せなんかじゃない!!」

 泣きながら、はるは言う。
 幸せは誰か1人の犠牲でできるものじゃない。
 みんなで幸せになりたかった。
 なのに、ライさんは全然わかってない。
 こんなの私は幸せだなんて思わない。

 とにかく、はるは泣いていた。
 胸が苦しくて泣いても泣いても消えてくれない。
 ライの名前を何度も呼ぶ。

「私、ライさん死ぬなら許しません。
 両親を殺したこともなつみんを1人にすることも…絶対、許しません」

 だから戻ってきてください…消え入りそうな声で言った。
 戻ってこないとわかっていても言ってしまう。
 ずっと悲しんでいてはいけない…そんなのわかってる。
 でも…人が死ぬということはこういうことなんだ。
 とても大きいものなのに…ライさんは何もわかってない。

 はるの周りを妖精がとびかう。
 窓からさす光が朝がきたことをつげる。
 
 なにかの気配を感じて顔をあげれば、そこには朝日に照らされるライの姿があった。
 あぁ、私は幻覚をみているんだ…そう思いつつも涙があふれ出た。
 戻ってきてくれたのかと思ってしまうんだ。

「ライさん…どうして…」
『はる…』

 ライの周りに妖精がとんでいく。
 これはライの残した気持ちが姿をかたどっているのだとなんとなく思った。
 ライの声は直接頭の中に響いてきた。

『すまない…でも、幸せになってくれ』

 自嘲気味な笑みを浮かべてライが肩をすくめる。
 ライの体が少しずつ消えていく。

「ライさん!
 私は…ライさんに感謝してます…。
 勝手に死んでしまったことは許せません…でも」

 
 今更、ライを傷つけるようなことは言いたくなかった。
 これがライの思いだけで形どられた幻影だとしても言わなければならない。

「私…ライさんと会えてよかった…」

 ライがとても嬉しそうに笑った。
 はるも泣いていたけど、つられて笑みを見せる。
 妖精たちがライの思いを運ぶように窓を開けはなった。
 風が吹きライの髪を揺らす。

「ありがとう…ライさん」

 キラキラと輝いて消えていくライ…はるは、また泣けてきてライのそばに駆け寄る。
 本音が我慢できずに口からこぼれた。

「死んじゃいやです!ライさん…」

 はるの頭にライの手が置かれて、そのままライは消えていった。
 ライは頭に手を置いた時に、はるは悪くないからと伝えてきた。
 「ライさん、ごめんなさい…」太陽の光をあびながらはるは1人でつぶやいた。


 それはライの残した別れを告げるための一瞬の奇跡…

 『前を向け…はる…生きろ』

 そんなライの言葉が聞こえた気がした。

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