番外編内容

□家族
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 シズカは、自室でぼんやりとしていた。
 暗い部屋で電気もつけることなくベッドの上で微動だにしないでいた。
 ライが死んだ…。
 ライと関わりの少ない自分が、なぜか悲しいと思う。
 とても大切な者を失った感じがする。
 

『ごめんな…シズカ』

 最期にライはそういった。
 ほんとだ…なんで、死んだんだよ。
 うちとはるをしっかりと成長させて自分の世界をまとめられるようにしてくれるって言ってたのに…。
 なんで…。

「バカだ…ライは、バカだ」

 知らず知らずのうちに涙が溢れ出て止まらない。
 いつもは声に出さないのに嗚咽がもれて仕方ない。
 バカ…それはライではなく自分だと思う。
 でもライを責めずにはいられない。
 

「くそっ…くそ!…なんで!」

 いつも素っ気ない態度をとるライ…でも、いつも自分たちを守ろうとしてくれていた。
 困ったら助けてくれていた。
 うちらだけではない…スカルやリークや…みんなのことを気にかけていた。
 最期の最期まで…。
 だから自ら死を選んだ。

『シズカ…はる…すまない』

 血だらけのライは、そういって自嘲気味に微笑んだ。
 すまないというなら死ななければ良かったのに…狂ってでもいい。
 うちも全力で助けようとした…。
 昔のうちとは違う。
 なにもできなかったあの頃とは違う。
 
 どうして1人で背負っていっちゃうんだよ…ライ。
 うちはあんたを許せない。
 なんで…頼ろうとしないんだよ。
 うちらがいるのに、スカルたちもいるのに…。
 

 1人じゃないのに…。

『ナツミを愛してる、娘として…。
 けれど、シズカもはるも…俺は愛しているよ…』

 ライは弱々しく微笑んだ。
 ねぇ、ライ…うちは嬉しかったんだ。
 親の愛情がいまいち分からなくて利用されてきただけのうちが…そんなふうに愛してもらえたことが。
 初めて…ライを親代わりだとしても親だと思えた。
 
 ねぇ、どうして死んだんだよ…。
 どうしてうちらをおいていったんだよ…。
 うちは、ライを認めてたんだ。
 やっと…やっと、ライの気持ち少しわかったんだって思ったのに…『ありがとう』って言おうとしたのに…どうして、死んじゃうんだよ。
 死んだら何も伝えられないじゃないか…。
 嬉しそうに笑う姿も照れくさそうにしながら答える姿も…声もすべて。
 うちは、喜んでほしかったんだ。
 嬉しいって思ってほしかった。
 うちが親のことで恨んでないし憎んでいないといったときにどこか安堵した様子のライ。
 うちは、そういうことでではなくて違うことでライを安心させたかった。
 もう、うちらを守らなくてナツミだけを守っていけるようにしてやりたかった。

 窓辺で月を背にしながら、やわらかく笑うライが見えた気がした。

「ライ…うちもはるもあんたを…」

 本当の親のように思っていたんだ。
 

 泣き疲れて、その日はそのまま眠ってしまった。
 
 その日は不思議な夢をみた。
 そこは大きな湖と大きな桜の木のある静かな場所…。

「ここは…」

 水につかっているシズカは周りを見渡して、ある人物を目にとめた。
 シズカは目を大きく見開いて言葉を失っていた。
 そこにはライがいた。
 大きな桜の木を見上げている。
 同じように水につかりながら水面から突き出すようにはえる桜の木を見つめ風に吹かれていた。

「ライ…」

 シズカがそういうとライが振り返った。
 穏やかに笑う。
 シズカは思わず走り出していた。
 風がふき桜の花びらを空へと舞い上げる。
 ライも桜と共に少しずつ消えていく。

「待って!!
 うちは、あんたに言いたいことがあるんだ!!」

 言いたいことがたくさんあるんだ。
 これが、ゆめで本当のライでなくてもいい。
 伝えないといけないことがある。
 ずっと…ずっとライに辛い思いをさせてしまった。
 うちの両親を殺してしまったことを、きっと死んだ今もライは後悔している。
 もう…いいんだ、ライ。
 消えかかるライに手をのばし抱きつく。
 ライはそんなうちを抱きとめてくれた。
 死んでいるというのにライからは温もりを感じた。
 涙がこぼれてくる。
 ライ…死なないでよ。
 言ってしまいたくなるけど、今伝えるべきなのは違う言葉…。
 
 シズカは泣きながらライの顔をみてしっかりと告げる。

「ライ…ありがとう!
 うちはライを…本当の親だと思っていた!!」

 泣きながらもシズカはにこりと笑う。
 ライが一瞬驚いた顔をした…けれど、すぐに柔らかい笑みをうかべてうちの頭を撫でてくれた。
 男が苦手なうちだったけど、なぜかライに触られても嫌ではなかった。
 死んでしまっているからなのかと辛くなる。
 でも、そんな思いを打ち消すかのようにライが耳に口元を近づけて言ってきた。
 その言葉にシズカは目を見開いてから笑みを顔に浮かべた。
 ライがうなずく。
 シズカは、もう1度「ありがとう」といった。
 ライは最期まで穏やかな笑みを浮かべて桜の花びらとなって消えていった。
 桜の花びらは、まるでライが死んだときの灰と同じように空に舞ってとんでいく。

 1つの桜の花びらが水面に落ちて静かに水面を波立たせる。
 そこでシズカは目を覚ました。
 すっきりとした目覚めだった。
 あんなに泣いたのに目も腫れていない。
 窓にさす月光をみてライの言ったことを思い出した。


『シズカ…お前は俺の大切な家族だよ…』


 シズカの髪から桜の花びらが1枚ひらりとおちた。

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