番外編内容

□持ってきたもの
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 携帯の話が終わり3人は他のものをカバンから取り出した。
 そんな様子をみてリークはただただ驚き息を漏らす。

「ほんとにいっぱい持ってきたんだな…」
「人間界に戻れなくなったら持ちに戻ることもできないから」

 はるがにこやかに言う。
 そんな様子をリークは微笑みながらも、はるをここにもどしてしまってよかったのかという思いで見ていた。
 
 はるのカバンから出てきたものは生活用品のものが多く他にはお気に入りだという小説がいくつか入っていた。
 

「はるは、小説をよく読んでいたのか?」
「うん!いっぱい面白いものがあって…あっ、なつみんの書いた小説も面白いんだよ」

 はるはナツミの方を向いて、ねっ…と笑いかけてきた。
 ナツミは顔を赤くしつつ、うつむいた。
 そんなナツミにキリクがそばによって興味深そうに聞いてきた。

「姫君は、小説を書くのですか?」
「あっ…えーと、趣味だよ!趣味!!
 全然、ダメだけど」
「今度読ませていただいても?」
「だ、だめだよ!!」

 ナツミが慌ててキリクを見上げる。
 私の文才ではキリクを楽しませることなんてできない。
 キリクはいろんな本をみているから、私の小説を読んでも素人が書いたものとしか思わないだろう。
 そんなものを見られるなんて恥ずかしくて仕方ない。

「姫君、なにを心配しているのですか?」
「キリクは本をたくさん読んでるから…私の小説は」
「大丈夫ですよ。何かあればアドバイスしますから」
「う、うーん…わかったよ」

 しぶしぶ承諾すると、キリクは嬉しそうに微笑んだ。
 キリクの横からイアルが顔をだす。

「俺にも見させてください」
「えっーー!?」
「次の主がどういうものをたしなんでいるのか気になります」

 イアルが引きそうにないのをみてナツミは大きく息をついた。
 困ったなぁ…と内心つぶやくがその気持ちには誰も気づかない。


 シズカはそんなやりとりを聞きながら自分のカバンからせっせとものを出した。
 中からは、最近興味を持っていた料理の本を取り出した。

「シズカは料理が得意なのか?」
「違うよ!!料理は全然やってないんだもん。
 でも、料理をつくるのは楽しいからやってみようと思って。
 趣味にできたらいいなぁって思ってるんだ」

 シズカが料理本を手に話すのをスカルは静かに聞いていた。
 シズカが何か1つでも楽しみをみつけてくれるといい…そんな風に考えていた。
 
 すると本の間からスルリとはがきのようなものが落ちた。
 スカルが拾うと、それは自動車のことが書かれていた。
 しかしスカルは自動車などというものをしらない。

「なんだ、これ?」
「来年、うちら18歳だから自動車学校のはがき…そういえば挟んだままにしてた。
 車を運転するには免許が必要で…って、この世界にきて車ってもの見てないけど」
「車などというものはないが…」

 シズカとナツミとはるは固まったまま動かない。
 なら、どういう移動手段があるというのだろう。

「俺たちは車は使わないよ」
「リーク、どういうこと?」

 はるが聞くとリークはニコニコと笑った。
 まさか歩きで移動するのか…この世界にきてから歩いてばかりだった。
 周りは木が多くて車が走るような道はない。
 

「そんなの歩きだろ」
「急いでるときは!?」

 シズカがつかみかかりそうな勢いでスカルに詰め寄った。
 スカルは冷静にシズカをみる。

「走る」
「はぁっ?!うち、そんな足早くないよ!!」
「ヴァンパイアに戻ったんだ。
 人間の時よりは早くなってる。
 俺たちは50mをだいたい4〜5秒で走るから」
「人間味がないな…ハハ」

 シズカはそのまま何も言わなくなった。
 そんなの陸上競技選手並だ。
 ライが付け足すように教えてくれる。

「息もそんなにきれない」

 そういう話を聞いていると、気が滅入ってしまいそうだ。
 本当にヴァンパイアになったんだなぁとつくづく思う。
 

 人間とは体のつくりの違うヴァンパイア…
 私たちはこれからここで、本当にやっていけるのか…

 そんな不安が押し寄せる中、ナツミ、シズカ、はるの3人は盛大なため息をつくことしかできなかった。



「結局、携帯はつかえないのかぁ…」

 シズカがボソリと言って小さく息をついたのをはるは1人聞いて苦笑していた。
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