小説内容

□第三話
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 そしてカイウスに主がいるように今俺にも主がいる。
 最初は気に食わなかったが、今はナツミの気持ちが変わってしっかりとした覚悟を持ったようだ。
 これなら、手伝ってやってもいいだろう。
 しかし、カイウスのように主から戦えと言われたら相手がだれであろうと俺は戦えるだろうか…。
 カイウスが主の命令で俺にとびかかってきたように…。
 
 もし、これから先カイウスと戦うことになったら俺はどうするのだろう…。
 カイウスとは戦えないとナツミに言うのだろうか…。
 でも、答えは出ていた。
 否、俺はカイウスであろうと戦うだろう。
 カイウスが道を外すのなら見ているだけということはしたくない。
 全力でとめる。
 お互いの命を確実に奪う、滅命剣と黒妖剣で刺しちがえたとしても…。

 あの娘…ナツミにつくと決めたときから、きっとどこかで考えていた。
 だから、こうもあっさりと自分を割り切ることができる。
 

(カイウス…すまない)

 
 心の中でカイウスにシリウスは謝りながら空を仰ぎ見た。

 

 カイウスは人間体から元に戻ると滅命剣を取り出した。
 己の力でつくられたソレは、鈍い輝きを放ちながら浮く。
 そして、それを見て不意に思う。
 こんなものをつくらなければよかったと…。
 本来、滅命剣は獣のためにつくったものだ。

 この世界で戦争が起きたときそれを鎮められるようにと…。
 ヴァンパイア界と繋がるはずのなかったこの世界だからこそできたもの。
 しかしいつしかヴァンパイア界と獣の世界は繋がり獣つまり自分たちはヴァンパイアの従者のようなものになった。
 これは俺たち獣の始祖とヴァンパイアの始祖と決めたものだから今更変えようとは思わない。

 ただこの剣を持つものによって大きく変わるものだった。
 よい心の持ち主であれば剣の力を使い世界を我が物にしようとは思わない。
 だが悪いものがもてば己の私利私欲のために使った。
 俺たちはそのために剣を生み出したのではない。

 そういう者たちをみてしまって以来カイウスもシリウスも主をしっかりと見定めるようになった。
 
 そして今、自分が選んだのはミナミだ…。
 ミナミにはしなければならないことがある…それはわかっている。
 だから滅命剣もその目的のために有効に使ってくれればいい。
 ミナミの目的は前のような奴らのように私利私欲のためではないから。
 誰かのためにそれを使おうとしている。
 
 でもミナミはナツミたちとも剣を交える気でいる。
 ジャマをしてくるのなら…と、強い意志が俺にも伝わってきた。
 そう思っていてもミナミの心はどこかで葛藤している。
 本当に大切な友人たちなのか裏切りをすることへの罪悪感がミナミを襲うときがある。
 そのたびにミナミは辛そうにし、雨が降っているときは1人雨にうたれていたりする。
 
 俺もミナミに友人たちと戦ってほしくない。
 だが辛そうにするミナミをみてしまえば心の中で葛藤して選ぶ道なら信用してもいいと思う。
 それほど考えに考えたのなら俺は止めようとは思わない。

 もし…シリウスと戦えと言うのなら俺は迷いなくシリウスを殺しにかかるだろう…。
 誰であろうと剣を向ける、それが俺の出した答え。
 一瞬でも躊躇えば命を落とす戦いになることは確実だ。
 そんな時に躊躇うわけにはいかない。
 その刺す一瞬でどれだけの楽しく幸せな日々が頭に浮かぼうとそれを無視する。
 心がどんなに痛もうと…。

 そして、全てが終わったとき悲しもう…。
 1人孤独を感じながら…犯してしまった罪の重さを感じながら今のミナミが心の中で葛藤して苦しんでいるように、俺も苦しんで…。
 

 感じなれた闇の力をそばに感じつつアリウスはライを見ていた。
 こんな奴とっとと殺してしまえばいいと思っても契約のせいでそれができない。
 それに今そんなことをしたら悲しむ奴がいる。
 まさかナツミが帰ってくるとは思わなかった。
 まだナツミが幼い時に会っていた。
 俺に怯えたのは最初だけで後からはなれなれしく話しかけるようになり俺によじ登ってきたりした。
 

『あー!!アリウスだぁ〜』
『うっせー…だまれ』

 そんな俺の言葉を聞くことなくナツミは俺の体にのぼり始めた。
 ライに公務の最中あやすようにと言われていたが鬱陶しくて仕方ない。
 むず痒くなってきて体をふるわせるとコロンと小さなナツミが下へと落下した。
 頭をうったのかギャーギャーとまたうるさく泣き喚いた。
 最初は大丈夫だろうと踏んでいたが、あまりにも泣き喚くので人間体へと変化して抱き上げた。
 よく見ると頭部から出血をしていた。
 傷はふさがっているようだが泣きやまない。

『んだよ…どした?』

 少しキレつつも、そう聞くとピタリと泣き止んで俺を見るなり、また目にいっぱい涙をためて泣き出した。
 正直ウンザリしていて地面にたたきつけてやりたかったがそうもできず背を優しくポンポンと叩いてやった。

『泣きやめよ…』

 困り果ててそうつぶやくとナツミはだんだんと落ち着きを取り戻していった。
 頭部の血を舐めとりながら、どうして泣いていたのかと聞くと予想だにしなかった返答がかえってきた。

『アリウス、こわいこわいだった。
 私、ふりおとしたもん…』

 頬を真っ赤に紅葉させて膨らませていう様は少しかわいげがあり思わず頭を撫でてしまった。
 今思えばなんてことを俺はしたのかと思うほどだ。

『それは悪かったよ…』

 素っ気なく謝ったのだがナツミからは満面の笑みがこぼれる。
 なんだか罪悪感を感じる。
 すると、ナツミは目をこすり始め大きな欠伸をこぼした。
 眠いのかと尋ねるとコクリとうなずき俺にもたれかかって寝始めた。

『このクソガキ…』
 

 俺の腕の中でスヤスヤと寝るとはいい度胸だと思いつつアリウスからは優しげな笑みがこぼれていた。

 最近ライと自分の力がどこかおかしく上がりつつある。
 力の感じを受ける限り大神の仕業だというのはわかっていた。
 ライもなんとか踏ん張りつつあるが、それも持ちはしないとなんとなくわかっていた。
 そして、自分の自我も消え失せると…。

 もし、そうなったとしてもこの腕の中で眠るナツミを傷つけまいと思った。
 なんだかんだ言って愛着と言うものがわいてしまったようだ。
 ふとナツミの寝言が聞こえた。

『アリ…ウス。やさしー…しゅきー……むにゃむにゃ』

 その言葉に呆然としたのを覚えている。
 俺が優しいなんてことはない…。
 でも…ほんの少し嬉しかった。
 ありがとう…小さくつぶやいて自分らしくない物言いに顔を赤く染め上げた。

 そんなことがあってからというもの今の俺はどうもナツミに弱い。
 俺らしくなくてイライラするが、それもまたいいと思う自分もいる。
 あいつだけは悲しませないようにしよう…心の中でひっそりと息づいた決意はアリウス以外、誰も気づきはしない。
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