小説内容

□第二話
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 ナツミはリークの怒りの声を聴いていたくもなくなり、叱られているスイルをそのままに玄関から城の中に入った。
 すると、シズカとはるがそばにきて声をかけてきた。
 

「なつみん、もうっ!!
 こんなに体を冷やして!
 お風呂いくよ!!」

 グイグイとナツミをひっぱり始めるはるをシズカが間にわって入り、はるを突き飛ばすと心配そうにナツミの顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?」
「心配するな」
「スカルに聞いてねーよ!!」

 横から入ってきたスカルにすかさず突っ込むように言うとため息をついた。
 ナツミはその光景に微笑みつつ気が遠くなっていくのを感じた。
 シズカは、それに気づくと急いでナツミを抱きしめ支えたがナツミの意識は途絶えていった。
 意識が消えていく中、ふと思ってしまった。

(いっそのこと…死んでしまえばいい。
 そうしたら、誰も傷つかずシリウスは消えてくれる。
 あぁ…でも、やっぱり私…死にたくないよ)

 どちらの思いもせめぎあっている。
 生きたい思いと生きることへの恐怖…。
 どちらをとることがみんなにとって良い選択になるのか…ナツミにはわからなかった。

「な、なつみ〜ん!!」
「お、落ち着け、うち!!」

 はるとシズカが倒れてしまったナツミを抱えて慌てているとまひろとミナミが走り寄ってきた。
 まひろもミナミも冷静に指示をだし慌てている2人に冷静さを取り戻すように言った。
 

「まひろさん、すごい…」
「ほんとだよな…なんで肝心な時にうちは」

 シズカの顔は苦悩に満ちていた。
 ナツミは、やらなければならないことがあれば自分を奮い立たせてやるのに…。
 いつまでもボサッとしているわけにはいかないのに、うちの体は思うように動いてくれない。
 それがもどかしくて仕方なかった。

 こんなんで本当に大切な時に動けるのかと、そう思わざるおえなかった。

 スイルの時は心の中でどうにかなるだろうと考えていた。
 結果的になんとかなったとしても実際はこうはいかないはずだ。
 夜会の時のような、セトナ・オレドみたいな純血種とはいずれ剣を交えることになるかもしれない。
 これは2人に会ったときに感じた予感のようなものだった。
 その時うちは、ひるむことなく命を落とす覚悟で戦うことができるだろうか…。
 本当に大切な者を守ることができるだろうか…。
 ナツミから出る汗を拭きつつシズカはそう考えていた。

 ミナミはシズカが考え事をしながら看病しているのをぼんやりと眺めていた。
 なっちが倒れた。
 みんなは慌てていたけれど私はいたって冷静だった。
 だって考えてはいけないことさえ、その時に考えてしまったから。
 
 …死んでしまえばいいと…

 なっちは何も悪くない。
 大切な友だちでもある。
 でも、私はなっちのなかに流れている血が許せない。
 あの人と同じ血ながれている。
 ライにでさえ同じ気持ちを抱く。
 この血筋だけは許せなかった。

 シズカが桶に入った水を取り替えに行くために部屋から出ていった。
 それは衝動的なものだった。
 爪をのばし鋭くさせると眠っているナツミの喉元に突き付けた。

 しかし、その爪は喉元を掻き切ることなく誰かの手によって阻まれた。

「チッ…」

 ミナミは壁際まで引き下がるとナツミをかばうように立つ人物をみて憎々しげに顔をゆがませた。

「また、邪魔をする…リバル!!」

 リバルは瞳を銀色に輝かせ手をミナミに向けた。
 たったそれだけでミナミは苦しみだした。
 ものすごい圧力がミナミにかかる。

「なにをしようとした?」
「ぐっ…、あんたが…私から大切な者…奪った!!
 だから、あんたも同じ思いするように…殺してやろうとした!!」
「くそ女…」

 リバルからかけられている力が強くなり血を吐き出した。
 リバルは、そのままナツミに目をやって頬に手を添える。

「何もされていないようで安心した…」

 静かにそういってから、腹立たしげにミナミを見る。
 リバルの表情が一瞬にして変わり楽しそうな顔へと一変した。

 ミナミからは涙が一筋流れたが、その目に悲しみはなくリバルへの強い嫌悪感だけが支配していた。

「私はあんたを許さないっ」
「そんなにデカい態度とっていいのか?
 今度こそアイツは死ぬぞ?
 忘れたわけではないだろ?
 俺が生死をつかさどるということを…。
 今日は見逃してやるが…次はない」

 そうしてミナミにかかっていた力がほどけ苦しさがなくなった。
 リバルはもう1度眠っているナツミをみてから姿を消した。

 ミナミは、ただうなだれることしかできず…でも泣くまいと必死にこらえた。
 泣く前に私にはやるべきことがあるから。
 どんなに今が辛かろうが大切な友人を裏切ろうが私にはそれよりももっと大切なものがある。
 罪悪感を感じつつミナミは強くそう思った。

 
 頬に温かい何かが流れて私は目を覚ました。
 目にうつったのは、いつもの天井と心配そうな顔をしたはるだった。
 はるの横からシズカが顔をだしタオルで頬に流れた涙をぬぐってくれた。

「なつみん、大丈夫?起き上がれる?」
「大丈夫…起き上がれるよ」
「ナツミ、おかゆつくったんだ!!」

 ナツミが起き上がるとシズカは目の前におかゆを出した。
 湯気が立ち上り、とてもおいしそうだった。
 ただシズカの指先が赤くなっていて、そこが気になってしまい目を向けているとシズカが恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「あー…これさ夢中になって作ってたら、ついあたっちゃって…火傷しちゃったんだ。
 でも、すっごく真剣につくったからうまいと思う!!」

 その言葉に胸がしめつけられた気がした。
 あんなに泣いたのに、また涙が出てくる。
 自分のことを考えてくれている人がいた。
 支えてくれて心配してくれる人がいた。
 それがとてもありがたく感じられて胸をついた。

「えっー!?なんで泣くんだよ!!
 こんな火傷なんともないって!!」
「そうだよ!なつみん!!
 火傷だってすぐに治るから!」
「違うの…」

 慌てていた2人はナツミの言葉に動きを止めた。

 
「嬉しくて…2人ともありがとう」

 はるはナツミの言葉にホッとしたように笑みを浮かべシズカも安堵した様子だった。
 扉を開ける音が聞こえ、シズカとはるはにこやかに扉の方を見たがそこに立っている人物を見た途端、顔が青ざめていった。
 そこにはスイルがいた。

「ナツミ?」

 シズカがそんなスイルをみて焦ったように声をあげる。

「ナツミが泣いているのは、うちらがイジメたとかじゃないからな!!」
「そうだよ、スイルさん!!
 だから…その!!」

 スイルがナツミのことになると我を忘れるということを知っているせいか2人は顔を青ざめさせながら言った。
 しかしスイルは、そんな2人を気にすることなくベッドに近寄るとナツミの頭の上に手を置いた。

「体力がだいぶ少ないから、ちゃんとご飯食べて…。
 早く元気にならないとおしおきだから」

 そういうと、そっとキスをして身を翻し部屋から出ていった。
 シズカとはるは呆然としていたがハッと気づいてため息をついた。
 スイルを怒らせたら何をされるかわからない。
 なにもなくて2人は安心したのだった。
 
 シズカが作ってくれたおかゆを全て食べ終えると大神に言われたことを2人に話した。

 獣と心を通わせなければ、自分のことを主だと思わず勝手に暴走してしまうことになる。
 それは、どのヴァンパイアにも言えることだった。
 
 その話を聞いて2人はうーんとうなり考え込んでしまった。
 はるがシズカよりも先に口を開いた。

「そうなると…私たちのパートナーもシリウスみたいになるってことだよね?」

 その言葉にシズカが悩みつつもうなずいた。

「話の内容的にはそうだったな」
「まひろさんとミナミさんは、もう扱いになれてるみたいだった」

 はるが感嘆とした言葉を漏らす。
 ナツミが2人のことを考えて言う。

「2人は頭いいし、学校にいってちゃんと教わってるから」

 だよねぇ…とシズカは言う。
 そんなシズカに賛同するようにはるもうなずいた。
 ナツミは空になったおかゆの入っていた小さな器をみてポツリと言った。

「私、みんなを守れるようにシリウスと心を通わせる。
 スイルを傷つけてしまったとき、すごく苦しくなった。
 このままスイルがいなくなっちゃうんじゃないかって思った。
 もうあんな思いしたくない。
 ずっとなにも変わらないままでいたい」

 ナツミの言葉に2人も大きくうなずいた。
 誰もいなくならない…今の幸せなこの生活を変えたくない。
 2人も強くそう思った。

 そしてナツミの言葉からすると、もう1つの意味もとらえられた。
 今のみんなの関係が変わってほしくない。
 そして自分も変わりたくない。
 今のナツミには全く恋愛感情がないということ…。
 スイルが自分を大切にしてくれている…でもそれをなかなか受け入れられずにいた。
 恋よりも先に幸せなこの環境を崩したくないという思いの方が強かった。

 そして、3人は獣と心を通わせようと、それぞれ大切な者を守るために心の中で強く決意した。
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