小説内容

□第一話
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 その日は、早くからみんなリビングにいた。
 ライが話したいことがあるという。
 スイルが眠そうに目をこすりながらつぶやく。

「ったく…早いんだよ。
 まだ月がのぼったばかりだ」
「私も眠いよ。スイル」
「なつみん、おはよ〜」

 はるも部屋に入ってきてナツミに挨拶をする。
 ナツミもあくびをしながら、はるに挨拶を返した。
 すると、ライが入ってきて全員が揃っているのを確認すると小さく息をはいた。
 スカルとリークは何を話そうとしているのか分かっているようだった。

「お前たちは俺が力にのまれた理由を知っているか?」

 ライの問いにシズカが考えてから答えた。

「たしか…力が大きすぎてじゃなかった?」
「それもある。そして、もう1つの理由」

 ライの瞳が輝いたと思うとライの後ろに獣が現れた。
 狼のような黒い獣は、ものすごい力を持っていて禍々しい力を感じさせる。

「アリウス…」

 ナツミが小さくつぶやいた。
 ナツミがそういうとアリウスと呼ばれた黒い獣が目を開けた。
 そして、ものすごくイヤそうな顔をする。

「なんだ…ライ、なぜ呼び出した」
「お前らのことを紹介しようと思ってな…。
 ナツミも帰ってきたことだし…」
「ナツミ…」

 ライがナツミに視線をやるとアリウスもつられるようにして、視線をやった。
 そこにいるナツミをみてアリウスは目を丸くする。

「お前…帰ってきたのか」
「うん。アリウス…」
「あんなチビだったのにデカくなりやがって」

 アリウスは驚きながらまじまじとナツミをみると匂いを嗅いだりして確認した。

「ほんとにナツミか…。
 ヴァンパイアは成長が早いな…」
「アリウス、いろいろありがとう」

 ナツミがアリウスに礼を言うと、アリウスは少し目を細めて微笑んだ。
 口にはださなかったけど、別に良いと言ってくれているようだ。
 しかし、ライに目を向けるとイライラした表情になった。

「…他に何の用があるって?」
「紹介だって言ってるだろ」
「こんな狭いところに俺を呼び出しやがって…」

 アリウスは、狭い部屋に呼び出されたことが腹立たしいようだった。
 苛立たしげに体をふるわせる。

「だまっていろ。アリウス」

 ライは鋭い目つきでアリウスを黙らせた。
 そんなライを見てから、スイルは自分のパートナーである獣を呼び出した。

「それじゃあ、だすよ。
 でておいで、ラーダ」

 スイルがそういうと青黒いドラゴンが現れた。
 目は金色に輝き2本の尾をもっている。

「久しいな。我が主」
「久しぶり。僕には守らなければならないものがあるんだ」
「わかっている。面倒くさいがお前の命令ならば力を貸そう」

 ラーダはスイルに忠誠を示すように頭を垂れた。
 スカルがラーダを見てから自分の獣をそばにだした。

「主、ようか?」
「いや、ライが出せと言うからな」

 一角竜の黒い竜が現れた。
 目は紫色で左目にかかる傷があった。
 しかし、目は喪失していないようで目を開けている。
 スカルは自分のパートナーのヘリオスを見上げた。
 部屋が小さいようで体を丸めるヘリオスにスカルは申し訳なさを感じた。

 ナツミたちは、どんどん出される獣に言葉を失っていた。
 ミナミとまひろは、獣の存在を知っているため驚くことなくその光景を見ていた。
 ミナミは少し目をそらしていた。
 自分の獣を知られるわけにはいかないとでもいうように。
 リークはニコニコと微笑み、自分の獣を出した。
 

「フィンス、紹介だ!!」

 リークの傍らに現れた美しい銀色の竜が現れた。
 目は透き通るように青く2つの角をはやしていた。
 水色の羽衣を纏っている。
 

「リーク、なんだよ。
 こんな狭い場所に呼び出して…って、はるじゃん!」

 名前を呼ばれたはるは、えっとびっくりした表情だ。
 リークが焦ったようにフィンスをとめる。

「こ、こらっ!!フィンス、やめろ!!」

 はるに抱き着くように飛んでいったフィンスをはがすようにリークはフィンスを引っ張った。
 そんなリークをみてライはため息をつきつつ話し始めた。

「アリウスは、俺のパートナーだ。
 昔は、この世界と獣たちが住む世界は別々だったんだ。
 だが、昔ちょっとした事件があってな。
 時空にヒビが入って…その時にお互いの存在を知ったんだ。
 まぁ、今は仲良くやってるよ」

 ライの言葉にナツミが首をかしげる。
 

「今は…?どういうこと?」

 ナツミがそう問うとライは顔を伏せた。
 なにかマズイことでも聞いたのかとナツミが困惑しているとスカルがナツミの肩を叩いた。

「これは少し言いにくいことなんだ。
 時期が来たらお前たちに言う。
 今は、ライの言ったところまでしか言えない。
 すまない」
「あっ…私の方こそ、ごめんなさい。
 言えるようになったらでいいです」

 ナツミはなんとなく敬語になってしまった。
 なぜなら、あまりにもライの顔が苦悶に歪んでいたから。
 聞いてはいけないことを聞いてしまったのだと思った。
 スカルが申し訳なさそうな表情をして言う。

「ごめんな、ナツミ」
「えっ…」

 スカルがそっと抱きしめてきてナツミは言葉を失った。
 スカルは、どうも秘密にしてしまっているような感じになってしまったことに申し訳なさを感じているようだ。

「秘密にしたいとか、そういうわけではないんだ。
 そう悲しまないでくれ」
「兄さん」

 スイルから背筋が凍るような殺気が漏れ出していた。
 しかしスカルは気にすることなく話し続けた。

「泣いていると、なぜか俺まで辛くなってくる。
 次の主になる存在だからだろうか…。
 胸が痛むんだ」

 そういわれて始めて自分が泣いていることに気が付いた。
 いつから、私はこんなに弱くなってしまったんだろう…。

「それ以上続けるようなら兄さんをラーダで引きはがす」

 正気ではないスイルにナツミは焦りを覚えた。
 そして、やっとスカルが解放してくれた。
 スイルをライがなだめる。

「スイル、やめろ。
 …さて、今回の本題だがお前たちのパートナーを出そうと思う」

 そのライの言葉にミナミがはじかれるように顔をあげた。
 つかみかかる勢いでライに言った。

「まさか、なっちの獣もだすって言わないよね!?」
「悪いか?」

 ライが目をすがめて聞くとアリウスが面倒くさそうに口をひらく。

「ライ、たぶんだがお前の娘、獣の始祖だろう。
 しかも、たちの悪い方だ」
「なるほど、シリウスか」
「ちょ、ちょっと!!
 勝手に話しを進めるなよ!
 うちら、全然わかんないんだけど」

 さっさと話を進めてしまうライとミナミに困惑しながらもシズカはなんとか2人の話を止め言うことができた。
 わけがわかっていないナツミ、シズカ、はるの3人を目にとめるとライはやれやれとでもいうようにため息をついた。

「俺たちヴァンパイアにも始祖がいるように獣たちにも始祖と呼ばれる始まりの獣がいる。
 ただ俺たちとは違って獣には2体の始祖がいる。
 その1体がナツミについているであろうシリウス。
 もう1体をカイウスと呼んでいるんだ」

 獣の始祖シリウスはヴァンパイアの手に負えないほど強力な力を持っているらしい。
 ただシリウスは少し自由奔放な性格で気性も荒いらしい。
 唯一それを止めることができるのがシリウスとは真逆の性格であるカイウスだそうだ。

 シリウス、カイウスがパートナーになるヴァンパイアは不死の力を与えられるという。
 不死という言葉にナツミは不安そうな顔をした。
 

「ナツミ、お前はシリウスがついてもつかなくても…お前は…」

 ライの言葉がだんだんと小さくなっていき最後は聞き取れなかった。
 

「えっ…?」
「いや、なんでもない」

 ライは言いにくそうにして言いよどんだ。
 そして話題をそらすかのように続きを話し始めた。

「シリウス、カイウスがパートナーになると剣も与えられるんだ。
 必ず相手を死にいたらしめることのできる剣。
 シリウスのつかさどる剣は黒妖剣。
 カイウスのつかさどる剣は滅命剣」

 必ず相手を死にいたらす剣…それは一体どういうことなのだろうか。
 よくわからないでいるとイアルが横に来て教えてくれた。

「黒妖剣、滅命剣は、不死の者でも命を絶たせることができる剣です」
「そんな剣あるんだぁ…」

 はるは少し恐怖を感じた。
 自分は不死ではない。
 でも、そんな力のある剣がこの世に存在するのだと思うと怖くて仕方なかった。
 そんなはるのそばにリークが寄ってきた。

「はる、大丈夫。黒妖剣が他の敵にまわったりしていたら厄介なところだけど、そうでもないみたいだから。
 姫君なら、そんな使い方はしない」

 安心させるようにリークが微笑むと不安そうなはるからも笑顔がこぼれた。
 ライはアリウスを消して、みんなに告げる。

「さて…とりあえず外に出て、お前たちの中からパートナーを目覚めさせる。
 獣を信じていれば力になってくれる。
 それを忘れるな。
 まぁ、パートナーになる獣によっても接し方を変えねばならんが…」

 みんなは、うなずくと外にでるためコートを持ちに1度自室に戻った。
 なんだかんだ言って、ここにきてから2か月経っていた。
 色づいていた葉は冬が来るのと同時にはらはらと地に落ち始めた。
 肌寒さを感じるようになり外に出ると、みんなは両腕をこすった。
 はるが白い息を手にかけながらつぶやく。

「もう冬になるんだね」

 はるは厚い雲のかかった空をみあげた。
 まひろも同じように空を見上げる。

「でも、まだ少し雪が降るには温かいから雨になるかも…」

 そういうとミナミがまひろの横に来た。

「そうだね。もう少し寒くなったら雪が降る」
「なーに、しんみりしてるの!?ミナミ!」
「まっひー、うぅん…雪が降るようになったら私は…」

 しんみりとつぶやくミナミをまひろはみつめてから何かを思うようにミナミに微笑んだ。

「ミナミは笑ってないと!
 …最近、ずっと悩んでるみたいだから」

 ミナミは、そんなまひろの言葉にうなずいて笑顔を向けた。
 これは、まひろにも知られるわけにはいかない秘密…。

「さっ、向こうにみんなが行ったから行こうよ!
 もうすぐ雨降りそうだしさ…早く済ませて部屋にもどろ!」

 まひろに手をひかれつつチクリと痛む心をおさえるように手を胸にそえた。
 罪悪感が自分を覆っていくようだった。

 ライはアリウスをまた出現させると隣に従え、はるを最初に自分の前に呼んだ。

「私からですね…。緊張するなぁ」
「本来なら、この世界の学校でやることだがまだ準備をしていなくてな。
 スイルことや夜会のこととかもいろいろあったし…準備ができしだい行かせるようにする。
 とりあえず獣をだすから、じっとしてろ」

 ライがはるの額に手をやった。
 ライからほんのりと光が出始め、はるの額に1文字浮かび上がるとそれが砕けた。
 すると、はるから引きずり出されるようにして薄いピンクと緑色をした獣が出てきた。
 小型の獣で蝶のように透明な羽をもちながら頭には花の冠を付けていた。
 その獣は、赤い目をはるにむける。
 アリウスがはるの獣をみて口元に笑みをうかべる。

「ほう…ヒメルか。
 お前にピッタリだな」

 そんなアリウスの言葉にヒメルという獣がギロリと赤い目をアリウスに向けた。

「まぁ、アリウス…相変わらず口が悪い…。
 こちらが私の主ね。我が主、私はヒメルと申します。
 私はあまり戦闘にたけてはいませんが守ることと回復にはうってつけです」
「よろしくお願いします。ヒメルさん」
「主になるのだから、そんなにかしこまらないで…」

 ヒメルにそういわれると、はるは照れ臭そうにうつむいた。
 すると、まひろがパートナーであるピアラという獣をだした。
 まひろは学校でならったことがあるようだった。
 狸のような白い獣が不思議そうな顔をまひろに向ける。

「主、どうされました?」
「みんなに紹介をね」
「そうですか…にしても、アリウスもいるのですね」

 ピアラは不愉快そうにまひろに言った。
 そして、まひろの前に出た。

「主は私が守ります」
「ありがとう」

 ライはまひろに獣がいることを確認した。
 アリウスがピアラをみてケッと言う。

「まひろはいるようだな…なら、シズカ」
「はいはい」
 
 シズカもはると同様、額に手をやられ獣を引きずり出された。

「でっか」

 鷲が大型したような獣にシズカは言葉を漏らしていた。
 羽毛は濃いオレンジで目は黄色だった。
 シズカをみて獣が頭を下げて言う。

「我が名はカルサ」
「カルサ…」
「そうだ。さて…主はあのアリウスを殺したいのか?」
「カルサ、テメェ…」

 アリウスが苛立たしげにカルサを睨み据えるとカルサもアリウスを睨み返した。
 しかしライがアリウスをとめシズカもカルサを止めたおかげで大事にはならなかった。
 ナツミがライの前にでた。

「父様、私もだしてほしい…」
「シリウスか…。アリウス止められるか?」
「あぁっ!?シリウス!?
 んなもん、そこの女のパートナーにでも止めてもらえ」

 アリウスは顔をミナミに向けた。
 ミナミはその瞬間その場にいにくそうに目を伏せた。

「私、部屋に戻る…」
「ま、待ってミナミ!どういうこと…教えてっ!」
「何も知らない方が幸せなこともある」

 ミナミの言葉にアリウスが嫌悪感をあらわにする。

「てめぇ…その顔ちぎってやろうか」
「…それは困る」

 仕方ないと言うようにミナミは玄関に向けていた足をもとに戻した。
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